第70話 祐子の初耳ばかりのこと

「大和田せんせーい!!」


三月と会科高校の校長の話をした次の日、祐子は思い切って担任の大和田にその話で出た疑問をぶつけてみた。


「ああ、ここの校長か......。もちろんいるぞ」


意外と拍子抜けの答えに目を丸くして、「はぁ」と独り言を吐き捨てるように口から飛び出した言葉だった。


「それで、校長先生は今どこにいるんですか?」


祐子はそう言うが、本当はさっきの疑問の答えを聞いたら終わるつもりだった。しかし、わざわざ大和田先生に話しかけたというのにここで引き下がるのもおかしいかと思い、もともと用意してあった疑問をあえてぶつけてみる。


「半年間休みをもらっているようだ。なんかいろいろ事情があるようでな」


そう、今裕子たちは高校一年生。そして、この物語内での学期は10月。つまり、会科高校の一年生は全員入学してから一度も校長先生を見ていないのだ。


「ちなみにいろいろってなんですか?」


「それは言えん。鷲宮校長先生直々に言われているからな」


と、何故かドヤ顔の担任の大和田。そして、腕を組むときに少し鼻息を荒くしていた。しかし、何か気づかないものだろうか。この校長先生の名前に。


「ってあれ?鷲宮ってうちのクラスにもいますよね?」


「ああ、そうだぞ。正直、あまり大声では言えないが、校長先生と鷲宮鷹広は親子だぞ」


祐子は耳を疑った。そして、ゆっくりと大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせてからもう一度大和田の言葉の意味をとらえ直した。しかし、結果は同じ。祐子の脳に暗い夜空に光り輝く雷のような衝撃が走った。


「えええええ!!初耳です!!というかそういうのっていいんですかー!!」


言葉の意味を本当に理解できていないのか、ただ混乱しているだけなのかわからないが、精神状態が安定していないのは確かだろう。


「別に悪いこともないだろう。ただ、教師をやっている親とたまたま学校が被ってしまっただけだ」


と、顔に似合わないすまし顔で淡々と当たり前のように話す大和田。しばらくその会話が連鎖して、それを止めたのはようやく学校に戻ってきた鷲宮校長先生だった。





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