第66話 コンビニと家の往復

放課後、運動をするためにランニングに出た川口。途中で飲み物を買うためにお金を持ったのだが、財布の中に小銭が無く、仕方なく千円札をポケットにしまう。


「うー、、、最近寒くなってきたなー、、、」


一度、家のドアを開けたのだったが、外は半袖でいるには耐えられないほど冷えていた。玄関の近くに畳んであるジャージを上だけ着て、再び家のドアを開けた。


しばらく走っていると、外の風景が変わり始めてきたことに気がつく。公園に生えた木の葉は赤く染まり、地面に落ちているのを見て、季節が変わってきていることを実感できた。


「ふぅー、、、最近、体力落ちてきたなー」


走り終えると自分が来ているシャツに汗が滲んできたが、この冷たくて強い風が汗を吹き飛ばしてくれた。風が自分に当たるたびに喉が渇いてきて、予想通りだったと考える。飲み物買うために周りを見渡すと、近くにコンビニを見つけたのでそこに入ることにした。


コンビニに入り、飲み物が売っている場所に直行する。店内には自分以外は客はいなく、とても静寂に包まれていた。そんなコンビニに違和感を覚えつつ、商品の中にお茶が売っていたのでそれを手に取る。そして、レジに向かったのだが、店員はそこに誰も立っていなかった。


「すみませーん!!」


と、川口がレジに身を乗り出し、奥の方を覗くように声を出す。誰もその声に反応はしなかったが、後から店員が出てきた。その店員は接客業には全く向いていなく、無鉄砲に髭を生やし、髪の毛も長く乱れていた。ゆっくりと店員がレジを打つとなぜか不快音がした。「ピョーん、ピョーん」っと。それで打ち終わると、


「合計百八円になります」


不満そうな顔で川口を見上げる店員。飲み物一本しか買わないことに腹を立てているのだろうか。その目には強烈な殺意を感じるほどだった。しかし、川口は色んな意味で鈍感であるため、その殺意を察知することは出来ずに、平然と持ってきていた千円札を差し出した。


「お釣りは八百九十二円になります。ありがとうございましたー」


と、川口に小銭を渡した店員だったが、しっかり渡そうとはせずに川口の手の上でバラバラと落としたのだ。しかし、そんなことは無視し、川口はこのあと走ることを考えていた。


(そういえば小銭持ったまま走るのって、ガチャガチャうるさいだろうなー)


などと考えていると、目の前に募金箱があることに気がつく。これは作者の勝手な想像だが、募金箱に入れるお金の平均は百円を超えないだろう。しかし、今彼が持っているお金は八百九十二円。普通ならこんな大金入れないだろうが、今の彼には選択肢はなかった。


チャリーン


今持っていたお金を全て募金箱に全て入れた。彼に良心があってやったわけではないが、今の彼には小銭は邪魔でしかない。つまり、こうするしかなかったのだ。そう思いつつ、自ら入れた小銭と別れを告げた川口はコンビニを出た。


コンビニを出てからしばらくすると、荷物がないことに気がつく。そう、さっきのコンビニで買ったお茶だ。しかし、コンビニを出てから数百メートル走ってしまった。しかも、もし取りに戻ったとしても、走る邪魔になってしまうだろう。そして、何より今から戻るのがめんどくさくなったのだ。そんな風に考えていると、自分のクラスメイトである丸山陸斗が走っているのを見かけた。彼、丸山陸斗は本日、とある先輩からサッカーの試合に出て欲しいと懇願されたのだ。先輩からの頼みなので、断ることも出来ずに承諾してしまったのだ。しかし、彼もまんざらでもない様子だったが。最初は声をかけようと思っていた川口も真剣に走る陸斗の姿に声をかけることができなかった。


家に帰るともう一つコンビニ忘れ物をしたことに気がついた。それはただのレシートだった。

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