第64話 ハッピーバースデイ

放課後、1年B組の教室内で腕をぐるぐると回して、痛そうにしているトム。周りには特に誰もいなく、一人だけで補習のプリントをやっていた。


(あーあ。こりゃ、筋肉痛まっしぐらだなこれは、、、)


肩が痛くて苦しそうな顔をしているトムの背後から近づく怪しい影が。そっと後ろから手を回し、


ガシャン


「え?は!?、、、、き、きもちーい!!」


トムの肩に乗せられたのは、安易型肩マッサージ機だった。その乗せた本人とは違う男がトムの前に回り込んで話しかける。


「よっ!!トム」


やけに明るい声だった。気持ち良さで目をつぶっていたトムはハッと目を開けるとそこには


「将悟!!お前、帰ったんじゃ、、」


「俺だけじゃないよ」


というと、いつもの大和、陸斗、鷲宮、そして川口がトムの目の前に回り込んだ。


「どうだった?俺たちのサプライズ」


大和がそう言うと、トムはとぼけた顔をして、


「サプライズ?なんで?」


「おい!!自分の誕生日、忘れたのかよ!!」


「ああ。そうだったっけ?」


最近、授業中も寝てばっかだったトムは寝不足なのだろう。自分の誕生日プレゼントが肩に乗っていることに感づかないのだろう。流石に気づいて欲しい将悟たちは、必死にプレゼントが肩にあることをアピールすることにした。まず、始めに将悟は


「今、肩に乗っているのってなんだと思う」


「マッサージ機でしょ」


「誰が買ったと思う?」


「うーん、、、、。俺のお母さん?」


(こりゃダメだ、、、)


諦めてしまった将悟は天を仰ぐ。そして、続いては大和が聞きに入る。


「トムって今悩んでいることは?」


「あるよ」


「なに?」


「肩が凝ってて痛いこと」


「そして、運良く肩にマッサージ機が。周りには俺たちしかいない。さて、これは誰が買ってきたでしょう」


「先生!!」


(うん。これは無理だ)


将悟に続き、大和まで諦めてしまった。次は川口がうまく促そうとする。


「高いものを変えると言えば誰?」


「金持ち!!」


「じゃあ、その金持ちは誰?」


「偉い人!!」


「じゃあ、そのえ、、、(まてよ、確かに俺は金持っているけど、偉くは無いよな、、、。ダメだった)」


3人もダウンしてしまった。最後に鷲宮が攻め立てる。


「もう一度、復習するよ。今日は誰の誕生日?」


「俺の誕生日」


「誕生日にもらうものといえば?」


「誕生日ケーキ」


「も、あるけど。もう1つもらうものがあるとすれば?」


「お祝いの言葉」


「も、あるけど。他には?」


「絶対服従の権利」


「なっ、なんでー!!」


想像以上の返答に思わず体を仰け反らしてしまう鷲宮。しかも、思ったりより声が出てしまった。そんな様子を見ていたトムはクスッと吹き出した後、ストッパーが外れたように笑い転げてしまった。そんな状態がしばらく続いたあと、トムは深く深呼吸をして。


「なーんてね。わかってたよ。鷹広たちが誕生日プレゼントサプライズ計画の準備をしてくれていたこと」


「え!?なんで?」


「いや、だって本人が教室にいるのに計画の話していちゃダメでしょ」


「な、あの時いたの?」


「うん。けど、あの中に入るのは悪いかなーって思って、遠くで眺めてたんだー。だから、作戦ダダ漏れだったよ」


「くっ、トムに出し抜かれるなんて」


「ま、ありがとね。俺のためにこんな高いもん買ってくれて」


と、照れ臭そうにありがとうを言ったトムは、満面の笑みのまましばらくその空間に浸っていた。

「んじゃ、第2波の誕生日プレゼントを差し上げよう」


将悟は勝手に作戦内に無い誕生日プレゼントを計画していたのだ。ポケットからチケットを取り出し、それをトムだけでなく全員に配った。


「映画のチケット!!しかも、これって俺が見たかったけど、どこも満員で観れなったやつじゃん!!」


「そう。なかなか見つかんなかったけど、調べて調べて調べ抜いたんだ。そしたら、空いている席がある映画館見つけて、結構前から予約したんだー」


と、ドヤ顔で自分の持っている一枚のチケットをひらひらとさせる。


「おーい。将悟、俺らこれ初耳なんだけど」


ちょっとこのことを事前に知らされなかったことに腹を立てたのか、大和が怒り口調で言う。


「いやー。悪い悪い。でも、これはトムの反応だけじゃなくみんなの反応を見たかったからさ。あえて言わなかったんだよね」


さっきのトムと言い、将悟に出し抜かれたというと少し腹がたつのはわかるもんだろう。この二人は正直言ってバカなのに、その2人に裏を取られたのだ。


「まぁまぁ。早速、この映画見に行こうぜー!!」


と、本日の主役のトムはノリノリで学校指定のカバンを手に取り、教室の扉を開けたが、そこには大きな壁があった。


「おい、鈴谷。まだ補習の時間は終わってないぞ」


その壁の正体は大和田先生だ。いくら見た目がアレでも、大人のしてはできているので逃げようとすれば、捕まるのは瞬く間にだろう。しかし、サプライズ組には作戦があった。


「大和田先生、かつらが落ちてますよ」


と、確認するために大和田が頭をさすり、下を向いた瞬間、


「今だ!!トム、逃げロォ!!」


その声と同時に反対側のドアから出て、ダッシュで逃げる人影が。


「まてぇ!!鈴谷!!」


それを追いかけて行った大和田は大声を出して追いかけていった。


「ププッ。あんなの引っかかるなんてね」


笑う大和の目線の先にはトムが隠れていた。


「にしても、さっきの誰?」


「ああ、あれね。替え玉用に用意しておいた陸上部の一年エース。スプリントの練習したいからってね」


「そいつにとっては良い迷惑だな」


「確かに」


と、こんな感じに無事に教室を抜け出したトムたち。そのまま学校を出ていつもとは違う特別な日を過ごした。次の日にあんなことが起きるとも知らずに。

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