第49話 トムの過去

住宅街の壁に寄りかかり、夜行は話し始めた。


「中学の時、あいつはいじめられていたんだ」


「!!」


今のトムからは想像もつかなかった言葉。どう考えてもいじめられるような性格ではない。


「あいつは理不尽にいじめられているにも関わらず、その原因を全て自分のせいにした。『俺が不甲斐ないから』とかな。だけど、もちろんそれには限界がある。そして、中学2年のときそれはやってきた」


「まさか!!」


夜行はゆっくりとうなづくと


「あいつは自殺を図ったんだ。学校の屋上から飛び降りた」


将悟たちの顔がひきつる。それを確認した夜行だが、話を続ける。


「だが、あいつは一命をとりとめた。しかし、奴は記憶を一部失い、いじめられていた記憶は全て消え去った。そして、あいつが入院中、ある女が何回もお見舞いに来た。その女は武藤と言った。そいつ(武藤)と仲良くなったあいつ(トム)はとても仲良くなった。互いのことを話せるくらいに。そして、二ヶ月後。あいつは退院し、学校に行った。そしたら、」


「そしたら?」


「武藤があいつのお見舞いに行っていたことが、いじめグループにバレたんだ。そして、あいつのあだ名は武藤となった。それでお前ら、試しに武藤を連続で言ってみろ」


話を聞くことしか考えていなかったから、少し反応が遅れて、


「いきなり振るなよ!!えーっと、武藤武藤武藤むとうむとうむとうむーとむーとむーとむトム!!そういうことか!!」


「そう。それがトムのあだ名の由来。これで良いだろ。由来も知ったんだから」


「ああ。しかし、トムにそんな過去があったなんて」


「まぁ、作り話だけどな」


さらっと笑顔で言う夜行。


「はぁあああああ!!!どこから!?」


衝撃の一言に口が巨大に開いてしまいそうだった。いつもはそんなに反応しない陸斗でさえ、目を大きく開いて驚いていた。


「トムの過去について」


「じゃあ、由来は?」


「それも。語ってて思ったよ。俺、即興の作り話うまいなーってな」


キノコヘアーで目は隠れているが、口はとっても笑っていた。そして、くるりと方向転換し去っていた。

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