第47話 人生の選択において

「うーん。将来の夢って言われても、今この時が続けばいいって思うだけだしなー」


放課後残っていたトム。将悟たちは一緒に残ると言ってくれていたのだが、悪いと思ったのか先に帰ってもらった。後から追いつくと言って。しかし、現状は一向に進まず髪をくしゃくしゃとやりながら、目の前の紙を見つめる。夕日が暮れかけているにも関わらず、3つの空欄はまだ真っ白だった。


「なんだよ。まだ残っていたのか」


教室に入って来たのは大和田先生だった。一度教員室に行ってから、しばらくして再び教室に戻って来たようだ。


「はい。将来のことなんてまだノープランなんで」


トムがそう言うと、大和田先生は呆れた顔をしながらため息をつき、


「あまり良くないぞ。お前の仲が良い戸田や大成、丸山だって夢は決まっているんだぞ」


と言いながら近づいてきて、最後には顔をずいっと近づけた。


「ええ!!将悟たち夢決まってんですか?初耳!!」


「まぁ易々と自分の夢を他言はしないだろ」


「そういうもんですか?」


「そういうもんだ。まぁでも、家でゆっくり考えてきていいぞ。もうすぐ、学校の下校時間だしな」


と言い放ち、手を上げながら教室から去って行こうとした大和田先生。しかし、


「待ってください!!」


トムの声に足を止められた。


「なんだ?どうした?」


「先生はなんで教師になろうと思ったんですか?」


突然の質問の内容に驚く先生。だが、言う決心がついたのか、


「言いだろう。教えてやるよ。なぜ、俺が教師になろうと思ったのか」


大和田先生はトムの前の席、将悟の席の椅子を後ろに向け、ゆっくりと腰をかけた。


「俺もな、進路選択にとっても悩んでいたんだ。しかも、お前よりも酷く、高校2年の夏までな。でも、そんなある日。俺の担任だった先生、鷲宮先生って言えばわかるか?」


「え?誰ですか?」


「いや、知っとけよ。この会科高校の校長先生だ。そして、その鷲宮先生にこう言われたんだ。『自分のやりたい事なんて、案外目の前に転がっているもんだ』ってな。そして、俺は思ったんだ。俺はこの人になりたいんだな。だから、俺は教師になった。お前もどっかにお前のなりたいもんがあるはずだ。まぁ、俺から言えるのはこのくらいだ。気をつけて帰れよ」


「はい!!」


トムはその背中をいつまでも尊敬の眼差しで眺めていた。途中で消えたけどな。

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