第4話 壊す

「ヤバい。どうしよう……」


「どうした?二人して」


大和がトイレから戻ると、将悟とトムはあたふたしていた。そして、二人は手に持った陸斗の大切なシャーペンを見せた。


「壊しちゃった……」


トムはそう言うと、指で隠れていた壊れた部分を見せた。


「うわ、これって確か陸斗が大切にしてたシャーペンだよね。やらかしたな、陸斗シャーペンオタクなのに」


「そーなんだよ。それでさ、どう隠せばいいと思う?」


「はぁ?正直に言わないのかよ」


「だってさ、あいつシャーペンのことになると怖いじゃん」


「まぁ、今まで怒ったところは見たことないけど、あんなに大切にしているんだから、怒るかもな」


「なら、隠すしかなくない?」


「ほぉーん。(いや、ここであえてバラしたら面白いかもな。)まぁ頑張れ」


と言うと、大和は後ろをくるりと向いた。


「いや、手伝ってくれないのかよ」


「いいよ。手伝ってあげるよ」


「おお、サンキュー」


「陸斗のな」


大和は不敵な笑みを浮かべ、トムの方を向く。


「なっ何ぃー!!裏切るのか」


「このことに関しては、初めから味方などではない!!」


「この裏切りものめー!!」


と言うとトムは大和に指をさした。その時、将悟は教室から立ち去ろうとしていた。


「?」


さっきまで売店に昼ごはんを買いに行っていた陸斗が帰ってきた。そして、将悟の足も止められた。


「さっきのは紙の裏を切る人がいるってことだよ。陸斗。」


1番陸斗の近くにいた将悟が適当にごまかす。言ったことは、謎だが。


「よし、陸斗も来たことだし、みんなで昼食べちゃいますか」


「そ、そうだねー昼飯食べよー。ナイスアイデア、トム!!」


明らかに怪しい感じで話す壊した二人。動揺が言動に出てしまっている。






「陸斗、何買って来たの?」


「冷やしラーメン」


「あー今暑いしね」


いつもとは違う雰囲気だが、いつもの四人で食べる昼ごはん。ワイワイやっている中、大和の言葉で例の二人は固まってしまう。


「なーなー陸斗。最近、シャーペン買った?」


(うぉおい。何言ってんだ、あやつ)


今、なんでそんな話するのって顔をしながら、結局答えようとする陸斗。筆箱に手をかけようとするが、それを防ぐためにトムが、


「陸斗!!ら、ラーメンの具。落としたよ」


「ん?」


周りを見渡すが、もちろん落ちているわけがない。


「……な、なーんてね。ジョークジョーク。アメリカンジョーク」


「あ、うん」


やはり、単語返事。動揺しているところを見ても、自分は冷静なのだろう。


「何言ってんだか、やっぱさ、筆箱の中見せてよ」


やはり、笑みを浮かべながら言う大和。自分は正義を執行しているだけだと、そう顔に書いてある。


(やまとぉぉおお!!どこまで邪魔するんだよぉぉおお!!)


「いいよ」


「よっしゃ!!じゃあ、陸斗のお気に入りってどれー?」


筆箱の中を探りながら、聞く大和。しかし、それは将悟とトムにとっては、


(非常にまずい!!)


のだ。なのでもちろん阻止をする将悟。


「ちょ、ちょっと待って!!その前にさ、先食べちゃおうよ!!」


「確かに」


一時的に防ぐことに成功したが、それは本当に一時的であり、この昼ごはんが食べ終わり次第またその話になるだろう。


(ふー。なんとか、余裕ができた。さぁここから、どうすればいいか。というか、あのシャーペンどこいったっけ?)


カランッ


トムはその音のする方を見る。そこには、あのシャーペンが。転がって来た方を見ると、大和だった。


(んな!?まさか、あやつ持っていた、だと!!)


その音に反応した陸斗もこっちを見る。


(お、終わったー……)


陸斗は立ち上がり、そのシャーペンを拾い、教室の前の方に歩き始める。トムと将悟の顔が青ざめる。


(うわぁぁああ!!あれ、絶対怒っているでしょ)


しかし、トムと将悟の予想の斜め上を行った。

陸斗はそのシャーペンを教室の端にある落し物ボックスに入れたのだ。


(えっ?あれっ?)


「あれ?あのシャーペンって陸斗のじゃないの?」


大和の率直な質問。


「じゃない」


と答えたのであった。

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