神を名乗る獣

 俺の問い掛けに、サーシャは緊張した面持ちで頷いたんだら。

 俺等の見ている先には、かなり小さい……それでもこじんまりとした木製の建物が見えるだら。

 あそこに「神の花嫁」がいれば、山の神なるもんが出て来て……恐らくはその花嫁を喰うんだらなぁ……。


「んじゃあ、行くだらか」


 俺がそう促すと、サーシャは躊躇いがちに頷いた。

 一体あそこがどんな場所で、花嫁はどうなるだらか……。

 村では勿論だろうだら、俺もサーシャには詳しく説明してないだら。

 それでもサーシャは、何となく察してるみたいだっただら。


「……えっ!? ベベ……おじちゃん……!?」


 そんなサーシャが、驚きの声を上げただら。

 それは俺が、変化の魔法で姿を変えたからだら。

 俺の姿はサーシャの見ている前で、彼女と同じくらいの女の子に変わっていたんだら。


「こらー魔法だら。これなら山の神さまっちゅー奴も、女の子だと思って出て来るだら?」


 目を丸くしてるサーシャに、俺ぁ小さく笑いかけてそう答えただら。


「う……うん……」

 

 まだおっかなびっくりのサーシャが頷いた。

 

「サーシャ、お前ぇは此処で隠れて待ってるだら。後は俺が何とかするだらから」


 俺ぁサーシャを置いて、一人歩き出そうとした。


「え……!? だ……だめだよ! サーシャがお嫁さんに選ばれたのに……」


 雰囲気で何となく気付いてるサーシャが、そう異論を唱えるだら。

 サーシャの気持ちは分からんでもないだら、ここからはハッキリ言って足手まといだら。


「大丈夫だら、サーシャ。全部終わったらまた迎えに来るだら、お前ぇはここでジッとしてるだら」


 サーシャの肩に手を置いて、優しく言い聞かせただら。

 彼女は不承不承だったみたいだら……頷いて了承してくれただら。

 それを確認して、俺ぁ一人、神の社まで歩いて行ったんだら。




 神の社の前に座り込んで……四半刻30分

「神様」っちゅー奴は、意外とすぐにやって来ただら。


「お前ぇらが神を名乗るたぁ……何ともふざけてるだらなぁ……」


 俺の周囲を取り囲む様に現れたんは、大猿マカーコ族っちゅー魔界でも知られてる魔獣だったんだら。

 こいつらはそこそこ知能が高いし、個体によっては魔法も使うだら。

 

ぃ……ぅ……ぃ……ざっと50はいるだらかな―――……まったく、数だけは多いだら」


 何よりも怖い……っちゅーか面倒臭いんは、数に物を言わせた集団戦を仕掛けて来るっちゅーところだら。

 まぁ……注意すべきは首領格だけだら。

 他はちょっと大きくて力の強い猿と変わらないんだら。


「お前ぇが……ボスだら……?」


 俺の目の前……社の後ろに立つ大層立派な樹の上に、他の個体とは一際大きさの違う猿が現れただら。

 あいつがこの猿族集団のボスなんは一目瞭然だっただら。

 今は少女の姿をしてる俺を見て、そのボスはニヤリと嫌らしい笑いを浮かべただら。

 それを皮切りにして、他のサル達も一斉に騒ぎ出したんだら。

 ハッキリ言ってうるせーし、聞くに耐えねぇ雑音でしかなかっただら。


「グホッ!? グホホッ!?」


 だから俺ぁ愛刀を抜き放って、一番近くの樹上に居った猿の喉笛をジャンプ一番、斬り裂いてやったんだら!

 それと同時に少女の変化を解いて、元の姿に戻ってやっただら。

 したら猿共は、一丁前に驚いて何やら奇声を発しだしたんだら。

 驚いてるんか?

 怒ってるんだらか?

 だども安心しろだら……。

 同じ末路を辿らせてやるだら。

 俺ぁ奴らの都合なんか構わず、次の得物目掛けて飛び掛かったんだら。




 戦闘力で言えば、俺の方が圧倒的に上だっただら。

 そんな事は最初から分かってた事だけんどな。

 それでも数が多いだら。

 最初は50匹くらいだと思ってただら、実際はもっと多かったみたいだっただら。

 それに連携も、予想以上にとれていただら。

 俺に攻撃を当てる程まででは無いだら、それでも俺の攻撃を避ける……とまではいかねぇけんども、効率よく倒すのを難しくしてただら。

 あんまり時間を掛ければ、散り散りになって逃げられちまうだら。

 

「しょーがねぇな―――……。こんな猿共に見せる技でも無いんだらが……な」


 俺ぁ、俺の得意とする技を発現しただら。

 魔力を使うけんども、魔法とはちぃっと違う。

 これは魔界でも俺だけが使える、俺だけの能力だら。


「さぁ、こっからは戦力二倍で倒す速度も二倍だらっ!」


 猿共はまたまた混乱してるんだら、思い思いに好き勝手叫び出してるだら。

 そらそうだら。

 いきなり俺の身体が分かれた……俺が二人になったんだらなぁ。

 俺ぁ「分け身」って呼んでる、所謂分身する技だら。

 幻術みたいに、実体によく似てる幻を作り出すんではねぇだら。

 俺と全く同じ力を持った、俺と全く同じ姿形の、もう一人の俺を作り出す技。

 それが「分け身」だら。

 二手に分かれたは、さっきよりも効率よく猿共を仕留めて行っただら。

 だども、猿たちもただ殺られるのを待ってるだけでは無かっただら。

 首領格を中心に陣形を作って、俺等に集団戦闘を持ち掛けてきただら!

 前衛の猿が決死の覚悟で俺等の足を止めるだら。

 その間に……そのボスがみたいだら。

 

「ガガアァァッ!」


 ばっかでかい咆哮と同時に、戦闘する俺等のすぐ近くで大爆発が巻き起こっただら!

 仲間を巻き添えにしても俺等を仕留めようって戦法は悪くないだら。

 格上相手にはその戦法も仕方ないかもしれないだら。

 

 だども……相手が悪かったとしか言いようがないだら。


 その爆発を、俺ももう一人の……分け身の俺が本体を護る事で防いだだら。

 お蔭で俺ぁ、まったくの無傷だら。

 んで俺ぁ、もう一回「分け身」を使って二人になっただら。

 俺に自分達の攻撃が全く効かないと理解したんか、戦意を喪失した表情を浮かべとったボス猿は、仲間も見捨てて……いんや、仲間を盾にして逃げ出そうとしたんだら。

 

 まぁ……その辺が畜生の畜生たる由縁だら……なぁ。


 んだども、もう逃がすのも追いかけるんも……飽きただら。


 俺等に背中を向けて逃げ出そうとした首領格……そいつの首を“俺”は一刀で斬り落としただら。

 奴らの逃走ルートには、3人目の俺が予め回り込んでおいたんだら。


 俺の「分け身」は、何も2人に分かれるだけではないだら。

 最大10人まで、俺は俺の「分け身」を増やす事が出来るだら。

 もっとも、人数が増えればそれだけ魔力を大量に消費しちまう。

 分け身を10人に増やした最大稼働時間は、水がお湯になる時間くらいだらよ。

 もっとも、大猿族こいつら程度の相手に、そこまでの人数は必要ないけんどな。

 俺は更に2人の「分け身」を作り出して、5人がかりで残った猿共を殲滅して行っただら。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る