深山の遭遇
メルル様の元を離れて、一日中山道を駆け抜けただら。
随分と進んだ筈だら、まだ目的地の「西の都」まで2日は掛かる行程だら……。
「……ふぅ―――……。今日はここで野宿するだらか……」
俺ぁ、大きく付いた溜息と共に、誰が聞いてるでもないのにそう口に出しただら。
まぁ……逆に誰も聞いてないから、こんな独り言を吐けるっちゅー事なんだけんどな。
もし誰かが近くにでもいたんなら、こんな呟き……とても吐く事なんか出来ないだら……。
恥ずかしくて……なぁ。
3日で西の都に到着して、1日で大暴れっちゅーのして、また3日でメルル様の元に戻る……。
強行軍だら、出来ないっつー訳でもないだら。
俺ぁ、3魔将……アスタルとリリスに比べたら、一番身軽だかんな。
他の奴らじゃ、この日程を熟すなんか出来ねーかんな。
カナン様とシェキーナ様なら、多分楽勝で行って帰って来るんだらな―――……。
悔しいけんど、エルス様を含めた勇者一味は……別格だら。
伊達に「勇者」なんて張ってないし……魔王様を倒したっつーのも頷けるだら。
―――悔しいけんどな。
だども、あの人達と生活して来て……俺ぁ、あの人等を認めてしまっただら。
強さは言うに及ばず……あの人等の性格……っつーか、あの人達の醸し出す雰囲気っつーのかな……。
あらぁ、魔族の社会では感じられん、何ともほんわかとした気持ちにさせる空気だら。
特にエルス様から感じる空気は、何とも居心地の良い雰囲気だら。
その意見にはアスタルやリリスも同じ様で、最初は殺伐としとった関係も、今じゃあまるで昔っからの仲間みたいに感じとるだら。
「……この洞窟にするかぁ……」
俺ぁ、近くに見っけた小さな洞窟を今日の寝床に決めただら。
野宿は俺にとって、ちっとも苦にならんだら。
それこそ魔族軍に入るまでは、いっつも野宿同様の生活をしとったからな―――……。
勿論、獲物を捕まえて飯にしちまうのも、朝飯前だら。
―――まぁ、夕食だけんどな……ふっ。
小さい時ぁ、ウサギ一匹捕まえるのにも苦労しただら……。
だども今じゃあ、俺一人の食い扶持を賄うなんてお茶の子さいさい……だら。
俺ぁ、ササっと森を一回りして、兎1匹と山鳥1匹、適当な山菜と果物を獲って戻ってきただら。
近くに川も見つけてるだら。
とりあえず火を起こしてウサギと鳥をササっと火にかけ、その間に水を汲みに行くか―――……。
俺の進んでる道……無き道は、険しいけんどもそれだけに人族が寄り付かない、安全な道程だっちゅー事だら。
俺ぁ人界には詳しくないけんども、メルル様に教えてもらった道だら安心して進んで行けるっちゅーすんぽーだら。
全くの安全っちゅー訳でも無いだら、陽も暮れたこんな時間にこんなとこ来る人族もおらんだら。
もしも誰かに見つかっても、俺なら逃げるのも隠れるのだってお手の物だかんな。
だども今夜くらいは、タップリと飯食って、ゆっくりと寝たいもんだ。
俺ぁとっとと水を汲むと、そのまま
当然、周囲の警戒は怠ってないかんな!
……なんて考えてたけんど、アッサリと俺の考えは崩壊してしまっただら……。
―――……俺の塒に……誰かいるだら……。
まだ遠目だからどんな奴かは分からないけんど、あらぁ間違いなく……人族だら。
何かゴソゴソと動いてるとこを見たら、何か洞窟を探ってる様にも見えるだら。
一体、何やってるだら?
洞窟に何か見られて困るもんでも置いてたっけか……?
いや……俺が魔族だっちゅー事が分かるような物は、何一つ置いてなかったはずだら。
あそこには、野営道具しか置いとらん。
どんだけ探られても問題はないだら。
……場所を……変えるか……?
あれが人族の大人なら、それがどんな奴でも俺の事が広まっちまう……。
まだどんな奴かは知られとらん。
まさか魔族だとは、夢にも思っとらん筈だら。
だども今戻れば、嫌でもバレちまうだら……。
場所を変えるっちゅーのも、それなりにリスクがあるだら。
此処に人がいたのに戻って来ん……。
当然、今あそこを探してる奴は不審に思うだら。
そうなったらもしかすると、この一帯を捜索するかもしんね―――……。
場所を変えても、その捜索隊と遭遇するかも知れんっちゅー事だら。
なら逆に、あの人族がいなくなったら同じ場所で過ごすっちゅーのも手だ。
心理的に、一度探したところはもう一回探そうって気にはならないかんな―――……。
さてどうしようかと考えてっと、洞窟を漁ってた人影がその場に
何だ……? 居座るつもりだら?
そうだとすれば、ただの浮浪者か逃亡者……。
大っぴらに人里で暮らせない奴っちゅーこっちゃ。
そんなら……話は別だら。
そんな奴らは、大抵が犯罪者とか人には言えない事情を抱えてる奴らって相場が決まってるだら。
もしそんな奴なら、ここで殺しちまっても問題ないだら。
誰も気に掛けねぇし、寧ろ居なくなった方が良いって考える奴の方が多いかんな―――……。
俺ぁ、腰に差してた愛刀を抜いて、音を立てずに洞窟へと近づいたんだら。
俺の愛刀は刀身が闇色で、どれ程強い光にも殆ど反射しない優れ物だら。
陽も暮れたこんな森の中なら、刃の光で気付かれる事は無いだら。
そして俺の技能を以てすりゃー、人族如きに気付かれず近づく事が出来るだら。
近づけば近づくほど、俺の塒でどんな奴が何をしてるんか分かって来ただら。
「……何してんだら……」
俺ぁちょっと拍子抜けして、一心不乱に俺の晩飯を食い漁ってる奴に声を掛けただら。
その途端、その人族の……娘は、笑っちまうほど飛び上がる位に吃驚して、恐る恐るこっちを振り返ったんだら。
俺の思った通り、俺の飯を勝手に食ってたんは、まだまだ幼い人族の女の子だっただら。
「あ……の……」
俺にとったら面白い反応だったけんど、その娘っ子にしてみれば心臓を掴まれたくらい驚いとっただら。
でも……多分、それだけじゃ無いだら……。
俺ぁ……魔族だら。
肌の色も髪の色も、瞳の色も人族には無いもんだら。
そんで何より……俺の顔は……醜いだら……。
逆に言やぁ、如何にも「魔族」っちゅー顔をしてるらしいだら……。
俺ぁそれで、子供ん時から差別を受けてきただら。
子供からも……大人からもな……。
一時はそれで、目に映るもん全てを憎んだ時だってあっただら……。
でもそれも、魔王軍に入隊すれば気にならなくなっただら。
実力至上主義の魔王軍だら、俺の実力ならどんどんと出世出来たんだら。
そんな魔王軍を創設してくれた魔王様には、感謝してもしきれないだら。
憧れてもいたし尊敬もしていただら……。
忠誠だって誓っていただら。
だから、その魔王様を倒したエルス様達を当然……憎んだだら。
刺し違えても殺そう……最初はそう考えてただら。
んでもエルス様達は、俺の考えてた人族とは違ってただら。
何よりも……魔王様を連れ帰ってくれただら。
育ててくれているだら。
……自分の力を分け与えてまで……。
俺らにも、高圧的な態度で接する事はないだら。
あんだけの力を持ってるんだ……支配だって出来たっちゅーのにな―――……。
あんな奴らが人族にいるっちゅーのは、頭をトンカチで叩かれたくらい衝撃的だっただら……。
一昔前の俺ならいくら子供だっちゅーても、人族は敵だ―――って考えとっただろな―――……。
だども今は違うだら。
見るからに力の無い小さな子供にまで、敵意を剥きだしにするなんちゅーことは無いだら。
だから……。
そんなに涙目で俺を見るの……止めてくれんかの―――……。
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