第8話

錆びた看板がちらほらと括り付けてある。

そんな海辺の無人駅。

「ここは?」


彼女がいきなり電車に乗ったので慌てて飛び乗った電車で5駅ほどの所。

ここに何かあるのだろうか?そんなことを思いながら辺りを見渡す。


「何も無いようだけど…」


「海があるじゃない。」


そう言いながら彼女は海の方を見つめていた。


「まさか、海があるからって適当に降りたのか?」


「そうよ。知らない土地ってワクワクするじゃない。」


無邪気にそんなことを言うと彼女は暫く辺りを見渡して、ゆっくりと歩き出した。

まるで彼女に残された時間の上を進んでいるようで僕は立ち止まってしまいたかった。

そんな僕の考えなど知るわけもない彼女は辺りを見渡しながら進んでいく。


海まであと少し。目の前の海を見てあそこに付いたら彼女との時間が終わってしまうのではないか。そんな考えが浮かんで立ちすくむ。そんな僕に気づかない彼女はどんどん遠く離れていく。


僕ははっとした。

立ち止まっているのは僕だ。止まっているのは僕の時間だ。彼女の時間は過ぎていく。歩き続ける彼女のように。僕はどう頑張っても彼女に追いつくことは出来ない。終わらせることの出来ない僕の時間。彼女はどんどん進んで見えなくなってしまうのに僕は追いかけることも出来ない。

もうほとんど見えなくなってしまった彼女にそう遠くない未来を突きつけられたようでどうしようもない気持ちになる。

彼女の居ない一日をどう過ごせばいいのか。今までどうやって過ごしていたのか分からない。思い出せない。


また意味もなく生きる日々が続く。そんな現実が憎くて、憎くて、憎くて。

僕はまた死にたくなった。

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134+1 一ノ瀬 @nt0611

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