第5話 館内にて

 三人は棚に向かうと、手分けをして伝承関連の本を探し始める。


 棚は六つに分かれており、柚は中央より左側、楓は中央二つ、千鶴は右側へ配置につき、左上から順番にそれらしいタイトルの本を手に取っていく。


 柚が集中して本を眺めていると、ふいに千鶴が「あっ!」と叫んだ。


 柚の話に近いものが見つかったのかと思い二人が振り向くと、きらきらと目を輝かせる千鶴が手に持っていたのは『実録、UMA外伝(完全版)』というタイトルの本だった。


 それを見た二人が何も言わず、表情だけで千鶴に感情を伝えると、それを察した千鶴は本をそっと閉じて、手を合わせ反省のポーズを取る。


 二人が千鶴の方へ向いていた顔を本棚に戻すと、千鶴も合わせるようにして本棚へなおり、先ほどと同様に本を探し始める。


 暫く経つと、また千鶴が「あっ!」と声を上げる。


 今度はなんだと思い、楓が千鶴の方へそっと近づくと、伝承とは全く関係のない本が千鶴の手元にあった。


 楓が千鶴の耳元で「ねえ……」と声をかけると、振り返った千鶴が苦笑いをしながら「全然関係ない本が棚にあっただけで……」と蚊の鳴くような声で答える。


 般若のような顔をした楓が定位置に戻り、暫くしてから柚が「そろそろいいかな」と二人へ声をかける。


 大量の本で埋め尽くされた机の上を楓が端から眺め「大分集まったねー」と言う。


 柚が「私と楓で仕分けをするから、千鶴は本を戻す係ね!」と指示を出すと、不満そうな顔をした千鶴が「えー……」と答える。


 それに対し楓が表情を変え「んー?」と言いながら視線を千鶴へ向けると、千鶴は少しだけ焦る素振りを見せて「わかったよ!わかりましたよ!」と答え作業に徹し始めた。


 机の上に、五十タイトルぐらいあった本は僅か三タイトルまで減り、柚が中心となって横にそれぞれが並ぶと、最初の本を手に取り徐に開き始める。


 タイトルは『紅葉名所百選』と言う本で、主に紅葉を見ることができる地域をピックアップして、その地域の歴史や食べ物を紹介する本であった。


 柚ら三人が住んでいる地域も例に漏れず載ってはいたのだが、有名処をメインとして紹介している本らしく、柚の住む町は食べ物の紹介のみであった。


 一人だけ「あ!これうちの店!」と喜んでいる千鶴を除いて、得るものがなかった柚と楓は苦虫を噛み潰すような顔をする。


「まあ、まだ一冊目だから……」と柚が言うと、楓は「そうだねー」と頷きながら答え、二冊目をまた柚が開き始める。


 次は『湯けむり奇譚』というタイトルで、あらすじを読み進めていくと著者が気になった伝承を徹底的に調べていくという内容だった。


 目次に、温泉町の不思議な石と記載されているのを見た三人は「ビンゴ!」と口を揃えて言い、ドキドキしながら柚は目次の該当ページ付近を開く。


 ぺらぺらとゆっくりページを捲っていき目次に記載のあったページに辿りつくと、三人は「あれ?」と小首を傾げる。


 なんと目次のページが何者かによって切り取られており、石の伝承の記載部分が完全になくなっていたのである。


「ここにきて……」と柚が机の上に顎を乗せ項垂れていると、楓が「最後の一冊見てみようか」と柚と千鶴に声をかける。


 ここで千鶴が「二人がさっきその本に集中していたときに、私三冊目も見ていたんだけど、それらしき内容の記載はなかったよ」と言った。


 皆で難しい顔をしていると、白い髭を蓄えたお爺さんが通りかかる。


 楓が「館長さん」と声をかけると、そのお爺さんが此方を振り向いた。


「おや……誰だったかな?」と館長が楓に向かって言うと、楓は「えぇ……」と言って「孫の顔も忘れちゃったの?」と続ける。


 館長が杖をつきながら近づき楓の顔を覗き込むと「おお!楓ちゃんだったのかね!」と豪快に笑いながら言う。


 その声が木霊し館内に響き渡ると、周囲の人間が何事だと此方の様子を窺い始めた。


 すると楓の顔が真っ赤になり、柚と千鶴は居た堪れなくなったのか、窓の方向へ視線を逸らす。


 周囲がざわつき始めると、カウンターの方から職員が此方に向かって歩いてくる。


 眼鏡をかけ、すらっとしたスーツ姿の綺麗な女性が、館長と三人の前に立ち止まると「また館長ですか……勘弁してくださいよ……」と館長に向かって言う。


 それを聞いた館長はペロッとアインシュタインのように舌を出し「すまんかった」と照れ笑いをする。


「うちの孫が来ておってのう」と何故か柚の方向を指差し、柚が驚愕の表情を浮かべると楓が「こっちだから!」と少し怒りながら館長の手をはたき自分の顔へ向ける。


 千鶴がそれを見て「あはは!」とお腹を抱えて笑い出すと、先程から此方の様子を窺っていた周囲の人間もクスクスと笑いだす。


「いつもはお爺ちゃんって外で呼ぶから、誰だかわからなくてのう」とニコニコしながら館長が言うと、納得したかのように楓が相槌を打つ。


「そうだったんですね」と職員が苦笑いを浮かべて「ここだと他のお客様に迷惑がかかってしまいますので、お話をするのであれば別室へ案内しますよ」と言うと、館長が「こっちじゃ」と杖で方向を指し示す。


 館長室に入ると「適当に座っておくれ」と館長が三人へ促す。


「ありがとうございます」と三人が言って座ると「わしが通りかかったとき、何か困っていたようだが、どうしたんだね?」と髭を触りながら館長が三人へ問いかける。


「この本なんだけど……」と楓が本を開き、切り取られているページを見せる。


 館長は悲しそうな顔をしながら「世の中には、こういう酷いことをする輩もおるんじゃな……」と呟いた。


 そう言ってもう一度本を眺めだすと館長はあることに気が付く。


「おや?この本、蔵書印が無いぞ?」と館長が言うと、三人は驚いた顔をしながら本を覗き込む。


「ちょっと職員へ確認を取ってくるから待っていなさい」と三人へ待機するように指示をすると、館長室から出ていった。


 暫く館長室で待機していると、先程の女性がお茶を持って入ってくる。

「何も出さなくてごめんなさいね」と女性の職員が言うと「いえ、お構いなく」と楓が返す。


「本のことなんだけどね……。他の職員に聞いても、誰も知らないみたいなの。知らないうちに紛れ込んでいることがたまにあるのだけれど、大概誰かの見落としか、悪戯で置いていく人がいるか、のどちらかなのよね」そう言いながら、女性の職員は溜息をつく。


「そうなんですか」と柚が言うと、女性の職員は一度頷き更に続けて話す。


「しかもあの本、大分昔に作られたものみたいで、レーベルの名前や著者についても今調べているのだけれど、情報が全く出てこないのよ」


 その話を聞いた一同が難しい顔をしていると、館長が戻ってきて椅子に腰をかける。


 首を横に振りながら「さっぱりわからん……」と呟き「若干時間はかかると思うが、著者についてもう少し調べてみようかね?」と館長が三人へ尋ねると、楓が「ありがとうお爺ちゃん!」と嬉しそうに言う。


 それを見た千鶴と柚がニマニマしながら楓を見ると、楓は「あっ!」と言って頬を赤らめ、千鶴の背中を掌で叩く。


「なんで私だけ……」と千鶴がぶつぶつ言っているのを尻目に、柚は「私のことで迷惑かけてすみません。よろしくお願いします」と館長に頭をさげる。


「孫の大切な友達じゃからのう……それにわしも何となく内容に興味があるからの!」と微笑みながら言う館長に、再度皆でお礼をすると三人は図書館を後にする。


(著者がわかって、所在もわかれば直接聞きに行ってみよう!)


 そう柚が決心を固めていると、楓が「柚ちゃん著者が見つかったら探しに行くつもりでしょ?」と柚に耳打ちをする。


 続けざまに「私もついていくからね」と付け足すと、横で聞いていた千鶴が「私も!」と目を輝かせて言った。


 柚は「その時が来たらよろしくね!」と二人の手を引っ張り、二人の顔を両手でぎゅっと自分の顔に近づけて「ありがとう!」と言いながら眼尻を下げ微笑んだ。

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