お題「ならばせめて、一思いに」

 

 

 もう、限界だった。

 すぐ隣の笑顔はとても魅力的で

 近くから聞こえる声は心の奥底に響くようで

 そのささいな仕草には何度も何度も釣られそうになって


 限界だったんだ、きっと。

 言い訳をするつもりはこれっぽっちもないんだけど、きっとそうだった。

 いや言い訳をさせてほしかった。軽率にこんなことをするつもりなんて全くなくて、だけど確かに考え抜いてそうして行った結果だったということでもなくて───逃げ出したくなる。逃げ出せない。



 押し倒すぐらいの勢いで被さった自分の体。

 その下に確かにある、魅惑の体温。


「それから」


 君は微笑む。


「どうしてくれるの?」


 そんな顔を見せられたらますます逃げられない。囚われて離れられない。近づけない。息をすることすらしんどくて。



 ああ。


 ならばいっそ───一思いに、殺してくれ。

 

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