お題「それは人魚の恋に似ていた」で始まり、「置いていかないで」で終わる物語
それは人魚の恋に似ていた。人魚姫というやつだ。
一目惚れした王子様を追いかけるために綺麗な声を捨て美しい尾びれを失い、何一つ分からない地上に追いかけていった悲恋の物語。
人魚姫は可哀想だと誰もが言う。あんなに辛い思いをしたのに、あんなに努力したのに報われないなんて。王子は見る目がないとまで言われる始末。
でも、それは本当に本当なのだろうか。
辛い思いをしたら、必死で努力をしたら、追いすがったら誰でも報われてしまうようなら人間関係はグッチャグッチャになってしまうに違いないのに。王子から見たらそこに及ばなかっただけだという話なのに。
ただ、報われる側と報われない側がいるというだけの。
アイツは卒業式の後、東京に引っ越しをする。大学が東京にあるからだ。その大学は去年アイツが慕っていた先輩が通っている大学だ。担任が難しい顔を浮かべていた時から必死に勉強を重ねた結果、見事な一発逆転を決めて現在に至る。先輩もずっと待っているのだという。アイツは報われた側だ。
その空白の一年を。
分からないところを教え合えるように必死に勉強を重ねて
合間を見つけては一緒に勉強をして
たまには息抜きに誘って
さりげない優しさを見せたりして
初詣にも誘ってお揃いの学業成就のお守りを買ったりなんかして
それでも、何も変えられなかった自分は報われない側。
分かってた。アイツは一心に先輩を見ていた。
分かってた。分の悪い賭けもしないで嘆くのは愚かだと。
それでも卒業式より前から顔を合わせられなくなるだろうなんて考えもできなかった。少しでも話がしたかった。
それでも卒業式までもう、一ヶ月もない。
それでも、
このままなんて、嫌だ。分かってる。繋がりが切れるわけじゃない。嫌だ。分かってる。それじゃあほとんど意味がない。
ねぇ、
やめて
置いていかないで。
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