お題「それは人魚の恋に似ていた」で始まり、「置いていかないで」で終わる物語をもう片側から
忘れ物には気付かなかった。いや、気付かないふりをした。
必死に勉強して目標にしていた大学に合格して、この春からは上京して一人暮らしを始める。その日をずっと待っていたのに、楽しみでしょうがないのに、心がどこかポッカリと空いてしまってるような感覚。
物心ついて…まではいかない。けれど親兄弟を抜かせば多分誰よりも一緒にいたアイツがいない。別の大学に進学するからだ。当然だ。いつまでも一緒になんていられない。当たり前の話で、分かっていた筈だ。なのにこの場に及んで急に喪失感を感じている。
ワガママだ。
これはガキみたいなワガママだ。
不安だから一緒にいてほしい、なんて安心毛布みたいな扱いをしたい相手じゃない。アイツにはアイツの道がある。それはもう立派に作られているんだ。ガキみたいなワガママをこねている場合じゃ、ない。
必死になって笑顔を作る。大丈夫だ。コイツはなんだかんだでしたたかだ。自分とは違う、自分がいなくったっていつも通りにやっていける。だけど。だから。
「じゃあ、元気でね」
「うん、行ってくる」
さよならは、言わなかった。
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