お題「書き置き」
いつもならついている筈の部屋の電気がついていない。
嫌な予感がしてアパートの階段を駆け上がり、ドアノブを回してから鍵を開けて中に入る。真っ暗な部屋はしんと冷え切っていて、今日が誕生日である妻の姿はない。嫌な予感通りだ。
電気をつければテーブルの上にノートを破ったと思われる紙切れが一枚乗っている。そこに何が書いてあるのか、なんて見なくても分かってしまい力なく膝をつく。
ちゃんと言ったはずなのにやっぱり分かってもらえなかったのか。いや、確かに言葉が足りなかったのかもしれない。だけどあれ以上どう言えば良かったというのか。
無意識に床に手をつきかけて、ビニール袋がガサリと音を立てた。危ない。慌てて左手だけで体を支えてから起き上がる。崩れる前に冷蔵庫に入れないと。
三日前のことだった。
以前から気になっていたケーキ店が東京に出店するというニュースを偶然見たとき妻の目の色は明らかに変わってた。出店したばかりだと人が集まってすごく混むから日を空けたほうがいいってあんなに言ったのに。
冷蔵庫を閉めたタイミングで携帯の通知ランプが光る。LINEに入った「今から帰るね」というメッセージ。それと共に添えられた、今しがたまで自分が持っていたのと同じデザインのビニール袋を持った笑顔の妻の写真。
無意識に大きなため息が溢れる。
サプライズなんて、するんじゃなかった。
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