お題「顔が熱いのは貴方のせい」
「すみません、オレ昨日実は風邪引いてて」
「は?」
朝起きると頭が痛くて体が熱くて席が出て、いわゆる風邪の諸症状というものを存分に思い知らされた。季節の変わり目だからだろうか、昨晩から危ない気はしていて早めに寝たはずなのに現実は無情なものだった。
不甲斐ない自分の体に悪態つきながら店長に今日のバイトを休む旨を伝えゴミだけは出してベッドに倒れ込んで───どれくらいだったんだろうか、そういえば時計も見なかった。ピンポンとノックの音に起こされてドアを開けに出てみれば迎えたのは申しわけ無さそうな顔と先程の言葉だったというわけだ。いうわけなのだが、何如せん頭がうまく働かなくてどうにも状況が飲み込めない。
「だからその風邪オレの責任で、なのでちょっと───あ、すみません立ち話させちゃって! 寝て、寝ててくださいっ」
重たく感じる頭を支えるように額を押さえたのが辛がってるように見えたのだろう、慌てて私を中に押し込んだ。もちろん辛いのは確かだしなんとなく状況は見えてきたのだけど、それ以前の問題もあるんじゃなかろうか。
「───…ね、なんで私の家知ってるの?」
「あ、コバさんに聞きました。風邪引いてバイト休んだって言ってたんで『見舞いに行く』っつったら教えてくれて」
それはもしかしなくても、治ってバイトに戻ったら面倒臭いことになるフラグなんじゃなかろうか。頭を抱えた拍子に咳が出る。それが聞こえたのかあっという間にベッドの上に移動させられてしまった。
「一人だと飯の用意億劫でしょ? ちょっと台所使わせてくれませんか。レトルトのおかゆ温めますから」
ぼんやりと目を向けるとコンビニの袋からいろいろと取り出しているのが見えた。
……わざわざ買い込んだのだろうか。
「レトルトなの」
「レトルトですよ。オレも一人暮らししてますし作れなくないですけど、こっちの方が安定ですし」
眉を下げて笑って言うと奥に入っていく。昨日流しは片付けただろうか。いや、ろくに食べずにベッドに倒れ込んだ気がする。なら大丈夫か。そしてそういう意味では確かにおかゆはありがたい。
横たわることもできないままつらつらと考える。頭が重い。
「だから寝ててくださいってば!」
そんな私を見かねたのかレトルトパックを手にしたままこっちに戻ってくる。
「随分献身的なんだね」
「オレのせいですし」
「別に気にしなくていいのに」
「やりたくてやってんですから、そっちこそ気にしないでくださいよ」
ほら顔が赤いですし、と私の体を慎重に横にしてバタバタと台所に戻っていく。そんな姿を見ていると「あなたのせいでしょ」とも言い辛い。
───…でもまぁ、悪くない。と思えてしまう程度には心身ともに弱っているんだろう。ならこのままその言動に甘えさせてもらおう。明日以降の面倒臭いことは明日以降の私と───向こうに任せてしまおう。それがいい。
取敢えずコバにはなんと言っておくべきか。
ふんわりと漂ってきたお米の匂いを感じながら私はなるべく自然で無理がなく、そして後々に響かないような言い訳を考え出すのだった。
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