第2話 意識低い系魔王、スカウト拒否する
ハローハロー。
魔王となった俺の元にやってきたのは、青い全身タイツに金色の管のような装飾品を全身にまとわりつかせた、いかにもいけ好かない男でした。
その装飾品にどのような意味があるのか、俺にはわかりません。
ただ言えることは、そのタイツも装飾品も全て、やれ騎士だ剣と魔法だ怪物だといったこの世界の文明のはるか外側にあるということです。
つまり、戦争に明け暮れているあの連中よりも高位の存在と考えるべきですね。
おそらく、最初に俺のもとに現れたあの自称しがない魔法使いの日本人と同じような存在なのでしょう。
正体はわかりませんが、まあ、勇者ではないと思います。
ここまでたどり着くには配置されたゴーレムを倒し、封印されたドアを開く必要があるのですが、どうもそこを突破された気配はありません。
つまり、全く別のルート、おそらく瞬間移動かなにかでここにやってきたということです。
それだけでこの人物の能力の高さ、危険性がわかります。
そんな存在がここになにをしに来たのかはわかりませんが、どうせろくでもないことでしょう。
仕事をするには相手を選ぶのが鉄則で、まあ彼はひと目見ただけでこいつとは一緒に仕事をしたくないというのがわかるのですが、あいにく腰掛けの魔王は仕事相手を選べません。
少なくとも、ここまでやってきたからには話だけでも聞く必要はあるでしょう。
「なるほど、降って湧いたような魔王がいるという話を聞いてきたが、そういうことか……」
俺を一瞥して、その男はいかにも意味ありげにそんなことを口にします。
俺に向かって会話をするつもりはないが、俺にその言葉を聞かせて反応を待つという、いかにも面倒くさい誘導の仕方です。
乗るのも癪なのですが無視しても始まりませんし、多分もっと厄介なことになることでしょう。
なら、とりあえず最低限に。
「何者ですか、あなたは?」
どうしても聞いておきたいことはこれです。
全てはそれがわかってからじゃないと話にもなりません。
「そうだな、名乗っておく必要もあるか。私はヴァイル。ここではない他の世界から来たものだ。君と同じようにな」
ヴァイルと名乗ったその青タイツは、こちらの推測したように、この世界の人間ではないようでした。
しかし日本人? 地球人? ではなさそうであり、とにかく、俺のいた世界の人間でもないことは確実でしょう。
「それで、その異次元人がこの辺境の魔王にいったいなんの用件なんですか? 退治ですか? 勇者ごっこですか?」
「いや、どちらかといえば私の目的は君と同じだ。実は私も魔王という力ある存在に憧れていてね。もちろん、私が狙うのはこんなちっぽけな世界ではなく、ここも含めた多次元世界全てだ。どうかね、君も私に協力しないか? 君とてこんな小さな世界に収まる器でもないだろう」
これはこれはご大層なご野心のご開陳どうもありがとうございます。
ただ、根本的に勘違いしているみたいですが、俺は別に好きで魔王をやっているわけじゃないんですよね。
もう俺に選択権があるなら今すぐ変わってあげてもいいくらいですよ、こっちは。
こういう意識が高くさらに自分の野心が大きすぎる連中がよく見誤ることですが、人間誰しも出世したいとか、大物になりたいとかそういう欲求で動いているわけではないんですよ。
そこがわかっていないから、すごくありがた迷惑な提案をしてくるんですよね。
しかも自分の提案を断られることをまったく想定していない。
なにしろ相手もそれを望んでいると盲信しているから。
だから変な断り方をすると『せっかくの俺の好意を足蹴にするのか!』みたいなキレ方をされるわけで……。
異世界まで来てそういうしがらみマンにエンカウントしてしまうとは、まったく運がない。
「申し訳ないですが、お断りします」
まあブチ切れられるのがわかっていても、こう答えるしかないですよね。
こういう輩は大抵、ついていくほうがもっとひどい目にあうことになりますから。
いいように散々利用されるだけされてボロ雑巾のように捨てられるか、向こうが勝手に疑心暗鬼にかられてあの手この手で嫌がらせをされて追い落とされるかのどちらかでしょう。
それを避けるためには相手を上回る意欲で逆に追い落とすか、上手く立ち回って利用価値を永続させていつまでも使えるコマのように振る舞うしか無いのですが、そんな意欲があるなら最初から断らないですよ。
でもそれがわかっていないんですよね、この手の連中は。
「正気かね、君は? 私がこうやって君を迎え入れようとしているだぞ。それを断るというのか?」
ほらキレた。
いかにも尊大な態度で、ヴァイルは俺の判断が間違いであることを説いてきます。
いや、そもそもそちらの判断が間違いなんですが、彼はそれを認めないでしょう。
まあこうなったら、後はいかにして上手く交渉を決裂させるかが焦点ですね。
それも難しそうですが。
「そう言ってもらえるのはありがたいことだとは思いますが、俺は今の魔王としての地位で充分満足ですので。まあ、今回の話はなかった、ということで」
穏便に、穏便に。
しかし残念ながら、俺のひとことひとことでヴァイルの顔つきが目に見えて険しくなっていきます。
「ふん、なるほど、それは残念だ。しかしこちらとしてもはいそうですかと引き下がるわけにもいかにのでな。少々実力を行使させてもらう」
いや、引き下ってくださいよ。
しかしこちらの考えなどまったく意に介すこともなく、実力行使宣言を出したヴァイルは全身に奇妙なオーラを纏っていきます。
金色の装飾品が輝き出し、それに合わせるかのように青いタイツにも青白い文様が浮かび上がります。
どう見てもヤバイですね、これ。
もちろん、こちらもヤバイヤバイ言いながらただ指をくわえて見ているわけにもいきません。
借り物の魔王の力で抵抗、撃退する必要があります。抑止出来なきゃ戦闘しかないわけで。
そこで俺が取り出したるは、いわゆるタブレット型の端末です。
雰囲気もへったくれもないシロモノですがこのほうが使いやすいですし、こだわらないのなら使い慣れた道具のほうがいいに決まってます。
まあ実際には、ただ単にあのフードの男がこれしか用意してくれなかったからなんですが。
いずれにしても利便性が高いのは事実なので問題はありません。
指で画面をスライドさせ、その先で盾のアイコンをした防御呪文を選択。
『
2つの音声を同時に発し、タブレットは薄い魔力の膜を発生させて俺を包みます。
このプリペントスペルはアクセスが容易で、なおかつ発生までのラグがほとんど無いので重宝します。
なにはともあれまず防御。ご安全に、です。
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