5-3 さようなら、俺
ハローハロー。
俺はついに、俺の模造品を生産している工場に到着したわけです。
そして目の前には、おそらくその工場の管理責任者。
そしてそいつはそもそもの因縁の相手。
なるほど盛り上がってきたじゃないですか。
そのヴァイルは俺達を見て最初は驚いた表情をしていましたが、すぐに冷静さを取り戻し、余裕の笑みを浮かべて見せてきます。
こういうところですよ、こいつがいけ好かないのは。
「まあ、ちょうどいい。お前の世界の言葉でいえば、『飛んで火に入る夏の虫』というわけだ」
「あ?
ヴァイルの尊大な態度にリータが早速がいちゃもんを付けています。実際、前回はぶん殴られておめおめと逃げ帰りましたからね、こいつ。
「ふん、その強気な態度もいつまで持つかな」
しかしそれでも表情を崩さず、大きな身振り手振りであくまで自分が優位であることをアピールしてきます。
まあそういう心理戦なんでしょうが、ちょっとウザったくなってきましたね。
「そのセリフ、そっくりそのまま返しますよ」
「ここをどこだか忘れたわけではあるまいな『
ヴァイルは口元を歪め、小さくなにかをつぶやきます。二重発声で。
その言葉とともにヴァイルの横の空間が歪み、そこからゆっくりと現れたのは……例の俺です。しかもわらわらと一気に4人も。
まあ、状況を考えるとそうなりますよね……。
なにしろ真横でどんどん生産されているのですから。さぞかし在庫も豊富なことでしょう。
ヴァイルの横に並ぶ四つ子のように同じ顔をした4人の無表情で灰色な冴えない男。ただでさえ気分が悪いのに、同じ顔がこうも並ぶともうそれだけでどこか不気味なものです。実際の四つ子の人には失礼ではありますが。
あと俺からは見えませんが、ついでに同じ顔はヴァイルの正面にももう1つあるんですよね。それがなにより腹立たしい。
さらにその4人はいかめしい銀色の棒でそれぞれ武装しており、見るからに物騒です。
武装で物騒ですよ。
俺自身はこんなに非暴力主義だというのに。
「で、どうすんだ? 今のままだと埒が明かないんじゃねーか?」
にらみ合いになりながらもジワジワと追い詰められつつある目の前の状況を見て、リータがそんな声をかけてきます。
数的にもこちらが不利ですし、ヴァイルのいうようにここは完全に相手のテリトリーです。
本物の方の俺、すなわち俺自身を戦力としてカウントしないなら、リータ1人で5人、いや下手すればそれ以上の敵を相手にすることになるのです。
そりゃ弱気な言葉も出ることでしょう。
しかし言葉とは裏腹に、その態度にはどこか余裕が見え隠れしているように思え、俺も訝しまずにはいられません。
「そうは言っても、なにか手があるんじゃないですか? その様子だと」
「まあ、無いわけじゃないぞ」
そういって笑うリータの顔はいかにも邪悪で、裏になにかあるのが丸わかりです。
むしろそれをアピールしているといってしまってもいいくらいですね。
そのことを示すかのように、リータはゆっくりと自分の前に人差し指を立てます。そしてさらにそこからもう1本、中指を持ち上げていきます。
「まあ、アレだ。テメエの2つ目の願いをよこしな。そうすれば、あんな奴らさっさと片付けてやるよ。さあ、『
威圧的な二重発声。
しかし俺が願いを口にする前に、ヴァイルの妨害が入りました。物理ではなく、同じく口先で。
「なるほどわかったぞ、それが貴様の正体ということか、
「騙されている?」
自信たっぷりにそう言い切るヴァイルに、俺もそんな反応を返します。
「そうだとも。そこの魔神がまともに願いを聞くと思うか?」
言われてリータの方を見やると、いかにも呆れたように笑いかけてきます。
なるほど……。
「まあ、騙されているのかもしれませんね、しかし……」
しかし、もし俺が騙されていたとして、それでも変わらないことが1つ。
「俺と同じ顔の人形を大量生産して使い捨てにして笑っているあなたに従う義理も理由もまったくありませんよ、このクソ野郎」
前にもいいましたが仕事の相手はちゃんと選ぶ。これ鉄則です。
少なくとも、この青タイツ野郎に従うくらいならリータに騙される方が100倍くらいマシです。
リータが美少女だというのもありますが、それ以上にこいつの印象が最悪オブ最悪ですからね。
人格、態度、行動、どれをとっても俺の敵です。
あと、これは確信を持っているのですが、こいつは絶対、俺を今現在隣に立っているそれらと同列に扱うことでしょう。
「リータ。ランプの魔人イフリータ。これが俺の『
「『
言葉と言葉が交錯し、その契約がなされた時、俺は、俺の中から何かが零れ落ちたことを感じました。
なるほど、ヴァイルの言っていたように俺の魂がリータに持っていかれたということなのでしょう。
しかし、それでも、この世界とこいつらをこのまま放っておくよりははるかにマシです。
そしてそれに応えるかのように、リータの身体には見ただけでわかるほど魔力が充満しています。
「じゃあ、許可も出たし、派手にやらせてもらうとするか。まずは、横の目障りな奴らの処理からだ『
あっという間の二重発声とそれに続く掛け声とともに、リータの手から次々に火の玉が放たれ、俺の顔をした人形どもを包み込みます。
しかし彼らは焼けるのではなく、まるで高温に近付けた蝋細工のようにそのまま白い塊へと溶けていきました。
製造過程からもわかりましたが、やはり『人間』ではないのでしょう。まあ、それをいうと俺自身も既に人間じゃないんですが。
自分と同じ顔をしたものがそうやって崩れていくのは、想像して備えていてもいざ目の当たりにするとやはりおぞましいもので、思わず目を背けてしまいます。
「なっ……、その規模のスペルを単詠唱だと……」
「これでこちらが圧倒的アドバンテージを確保したってわけだ。もちろん、これだけじゃないぜ」
リータは言葉以上に満ち溢れた魔力で持ってその自信を示します。
一方のヴァイルは、全てを焼き払われたことで追いつめられたのか、怒りの炎を宿しながらこちらを睨みつけています。
「どうやら魔人は私の手に負えるものではないようだな……ならばこちらも奥の手を切らせてもらう……」
そうしてヴァイルが手をかざすと、溶けゆく俺の残骸から光がその手の中に集まり、それが部屋全体へと広がります。
「この工場とオリジナルを失うのは痛手だが、緊急事態だ……ちょうどいい、このまま凍結する……起動せよ……『
その二重発声を耳にしたところで、俺の世界は完全に停止して――――――
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