第3章 異形、再び


 季節外れの寒さに手を揉みながら、俺はある場所をじっと眺めていた。広めの助手席とはいえ、もう半日近くここにずっと座っているため、いい加減腰が痛むがそんなことは気にしていられない。

 何度目かも分からない、腰の位置を変えて少しでも気を紛らわせようとするも、そんなのは気休めにもならなかった。それでも今はじっと粘る以外にないというのが煩わしいが、警察の車にいる以上はその方法に沿って行動するしかないので仕方ない。

 俺は凝り固まった首を回してストレッチをしたところ、運転席のドアが開かれた。クレオだ。

「お待たせしました」

「いや、大して待っちゃいないさ。相変わらず動きは無しだ」

 クレオは黙って俺の前に、大手海外コーヒーチェーン店のロゴが入ったコーヒーを差し出した。近くにそのコーヒーチェーン店が展開するドライブスルーがあったので、わざわざそこに行って買ってきたようだ。

 それを受け取り、口をつけた。まだ出来たての熱いラテが何の楽しみもない退屈な状況の中、にわかに色づく。それを立て続けに二口三口と啜り、ようやく少しは気が紛れたような気になった。

「もう二日、そろそろ動きがあっても良さそうなんですが……」

「そうであってほしいもんだ。もう半日もこうしてるが、いい加減飽きてきたぜ」

「そうですね。しかし……」

 クレオが一瞬渋い顔をして口をつぐんだ。言いたいことは分かっている。俺は小さく頷いて言った。

「まぁ、信じるしかない。今のところ繋がりは大野くらいだ。大野と岡部、その交差上にあるっていう死体も、死の間際に茂夫の奴が言ってたことだ。頑なに知らないと言っていたあいつが最期にそう言ったんだから、何かあるに決まってるさ」

 俺は断言した。もちろん、確たる証拠はないがそう信じるしかないというのも本当のところで、クレオは曖昧な言葉で濁して押し黙った。

 だが、そう断言した俺もクレオとはまた違う意味で、ある種の焦りのようなものがないわけではなかった。これは完全に俺自身だけの都合なので、クレオら普通の人間には関係がないのだが、それだけに俺は今日にでもアクションが欲しいところだった。

 茂夫が死んですでに三日が経っていた。普通の人間ならたかが三日かもしれない。だが、俺にとっては、決して馬鹿にできない三日だった。月齢は二六日目に達し、夜空を見上げても月がほとんど欠けている。つまり、新月期に入っているのだ。

 薄い弧月となったその形は今にも消えそうで、俺の心を人間に例えるなら、風前の灯と言わんばかりだ。明日にはその弧月もほとんど姿を消し、明後日には新月に入る。月齢二七日目から二八日目にかけてが、今度の月齢期における、即ち俺の一番危険な日ということになる。

 なので、少ないながらもまだ月の恩恵を受けていられる今晩、どうしても行動を起こしたいという、俺の都合からくる焦りだった。それでも、こんな時にこそ武術を修行し、最小限の行動で荒事を避けることにしているが、そうも言ってられないこともある。

 ともかく、茂夫が襲撃されて今日で早三日、そろそろ動きがあってもおかしくない頃だ。茂夫の遺言通りなら、親父、つまり大野幾三と運送屋の岡部には何らかの繋がりがあることは間違いない。

 しかも、どんな目的のためなのか、死体を集めまわっているというから、どうしてもこれを突き止めたいという欲求にもかられる。世の中にはデス・コレクターという、死体やその死体となる経緯に関心を示し集めるといった、異常な収集家も存在する。こいつらがそうした方面の趣味を持っているだけの可能性もないではない。

 だが、茂夫は危険であるとも言い残した。この程度の趣味では茂夫とて危険とは言うまい。とすれば、当然奴らは全く別のことを指してそういったに違いない。それを今夜にでも暴いてやろうというのが、俺の見立てなのだが果たしてそれは今夜成し得るのか、それだけが気がかりだった。

「あれは……」

 温かいラテを喉に流し込んでいたところ、隣に座るクレオが不審な車両を見つけて言った。その呟きにつられて俺もそちらを見遣ると、一台の高級車が大野の屋敷に入っていくではないか。しかも、その車に乗っているのはあの岡部総一だった。

「やれやれ、ようやくだな。じゃあクレオ、俺はちょいと行ってくる。合図があれば、すぐに来いよ」

「ええ、お気をつけて」

 本来なら警察であるクレオが行くべきなのだが、こういう荒事は俺のほうが得意であることをこいつも十分知っている。捜査官という肩書も関係なく、こうして俺を行かせるというのは、それだけ一友人として信頼してくれている裏返しでもある。

 車を降りた俺は、急いで屋敷の裏手に回り、クレオから見えない位置へと移動した。まぁ、俺の身体能力の高さ、その技術についてはあいつも知っているところなので隠す必要もないのだが、なるべく隠密に行動しようという心得から、ついこうした行動を取ってしまう。

 すでに周囲の監視カメラの類の位置や、どこが死角なのかも事前に調査済みなので、俺はすぐにそこへ向かい、猫科の動物のような身軽さで屋敷の塀瓦へとよじ登る。大野の屋敷は昔ながらの和風建築の屋敷で、高さはないがとにかく敷地面積がある。

 一般人が金を持つと、つい家に高さを求めてしまうところだが、真の金持ちというのはそうしない。家を広さに求めるのだ。面積に金がかかるわけだから、それが広ければ広い分、金もあるということを顕示しているというわけだ。そして、その広さに加えて自分の所有物であることを示す塀も同じだ。

 塀の上に飛び乗った俺は、侵入者がいないかを監視するカメラを掴み、強引に動く方向を変えて、明後日な方へとやった。これで、カメラが俺や真下の道路を映すことはない。

 その屋根瓦に飛び乗った俺は、深呼吸を一つ、中の様子を眺めた。飛び乗った真上に、カメラが音も立てずに周囲の監視をしていたが、死角になるような設置具合が素人考えなのが微笑ましい。

(入り口に二人、屋敷の玄関に一人、いや三人か)

 他には警護の者はいない。さすがに連中も、何か大きなことがあるわけではないので、警備も多くない。まぁ、茂夫という厄介者を消してからは、大野の爺も安泰だと思っているだろうから、警備を厚くしようとは考えないだろう。

 俺が突くのは、まさにその緩んだ隙だ。連中もまさか、一仕事し終えた後に、襲撃者がくるとは思っていないだろう。しかも、間を数日も開けてである。さらには、その襲撃者が俺一人とあっては、警戒心すらないかもしれない。

 俺は連中が一人残らず俺の隠れた松木の方から監視の目を外した瞬間、屋根から飛び降りた。すぐに植木の影に身を隠すと、その枝の間から連中の様子を窺う。

 誰も気づいた様子はなかった。後は、一人でも近くにやってきてくれることを願うばかりだが、そうもいってられない。こういうとき満月期の凄まじい力を得ていれば、連中のところまで一蹴りなのが悔やまれる。

 俺はどうにか、自分が少ない動きでなんとかできそうな距離まで、相手をおびき寄せることにした。植木の側に落ちていた小石に、地面を掘って湿っぽい土を固めて丸めると、それを一番手前の警備近くの壁に向って投げた。

 コツンと小気味よい音を立てながら地面に落ちる。その音を不審に思った警備が落ちた小石の側に寄って拾い上げる。すかさず二個目をさらに手前の壁に投げた。

「なんだぁこりゃ」

「おい、どうした」

「いや、多分猫かなにかだ」

 壁のすぐ側を小石が落ちたとすれば、そう考えるのが普通かもしれない。しかし、警備は俺の潜む植木の近くまでやってきて、塀瓦の方を見上げている。

 その一瞬をついて植木から一息に飛びかかり、男の首にしがみつく。男は一瞬何が起こったのか分からなかったに違いない。勢いの乗った俺の動きに対応できず、簡単に首根っこを掴まれてしまった。

「ぐっ、き、きさま……」

 苦しそうに呻いた男の首を締め上げ、意識を取り上げた。がくんと頭を垂れてしまい、意識を失った男を植木の側にひっぱり、他の警備がこちらに気づいていないことを確認すると、壁沿いに次の目標めがけて駆ける。

 二人目は先程の男がまだ戻ってこないことを怪訝に思ったのか、こちらを振り向いた。しかし、その原因に気付いたときにはすでに遅く、顎を打ち抜かれた。男は脳震盪を起こし、かくんと膝から崩れる。

 続けざまに玄関で何か話して気の抜けている三人めがけて、飛び上がるように駆けていくと、まず背を向けている三人目の首に、異変に気づいた四人目の鳩尾に手刀が食い込んだ。

 それぞれが声もなく意識を奪われると、ようやくそこで人が倒れた音に勘付いた最後の一人が、何事かと玄関の中から出てきた。その顔面に身を潜めた横から思い切り殴りつけ、痛みに声もそぞろになったところを、首を掴んで意識を奪った。

 一人目からここまで、おそらく三十秒と経ってない。新月期においては、中々に鮮やかな手口といって良いだろう。俺はすぐに踵を返し、門から屋敷を監視しているであろうクレオを手招きして呼んだ。

 クレオはすぐに車から降りて駆け付けてくると、中の状態を見て言葉もなかったらしい。

「大神さん、あなたって人は……」

「毎度のことだろ」

 ニヤリと不敵な笑みが浮かんだ。どうやら、今日はこの時期にしては珍しく好調のようだ。これなら、満月期の時のような力に頼ることなく、大野の爺のところまで辿り着けそうな気になってきた。

「準備は良いか」

「……それ、今更言いますか?」

「一応な」

 冗談もほどほどに、俺は返事も待たずに玄関へと入る。クレオもそれに続いた。もう遠慮はないので、土足のままだ。幸いに、今日は空気が乾いている上に、俺もクレオも靴底にへばりつくような湿った土の上を行ってないので、さほど問題はない。

 しかし、クレオはご丁寧に靴を脱いだ。らしいといえばらしいが、そんな律儀な真似をする必要などないのを、行動を見つめる俺に肩をすくめた。

「私が土足のままだと、すぐに足音がしてしまいますよ」

 眉を動かして一瞬表情を崩すと、それもそうだと頭を振った。クレオも身のこなしの良いやつではあるが、流石にビジネスシューズを履いたままでは、木張りの廊下では足音を立てざるを得ない。

 こうして屋敷にまで侵入した俺達は、俺を先頭に大野の爺のところへと真っ先に向った。もちろん、その行く先々には爺の手下どもが潜んでいるが、まだギリギリ今日の俺なら有利に戦えそうなので、なんとかなるだろう。

 鼻を出来得る限り利かせて、屋敷の中を進んでいく。たまに出くわす手下は、出会い頭に喉元を突いて呼吸と思考を奪い、さらに意識も沈めてやることで効率よく事を進めた。

「……大神さん」

「ああ、分かってる」

 そろそろ大野の爺と、密談しているであろう岡部の匂いが近くであることを察していたが、クレオが感じていることと同様、俺も懸念に抱いていることがあった。手下どもの数が少ないのだ。

 もちろん、連中だって四六時中、親分の屋敷に詰めているわけではない。だとしても、極最低限だけの人員だけで、大きな屋敷とは思えないほど人員の数が少なく思える。

 俺が知っている限り、六道会には少なくとも数百名からの構成員がいるはずだが、屋敷に詰めているのはわずかに二〇名にも満たないようだった。主戦力はどうしているのか、それが俺達の懸念材料になっていたのだ。

 しかし、その懸念が疑問に変わろうという頃、早くも大野の爺と岡部がいるに違いない、奥の室間へやってきていた。俺は人差し指を唇に当て、クレオにジェスチャーした。クレオも頷くとともに、互いに襖の両脇に陣取った。

 視線を交わし、一、二の三で襖を開け放つ。

「何だ!」

 ドスのきいた嗄れ声が響く。俺はそんな声など無視して一目散に爺へと飛びかかり、強引に引き倒した。

「うぐっ」

 クレオも同様に対座していた岡部の腕を取り、関節を極めている。武道の心得があるだけに、悪くない動きだった。

「騒ぐんじゃない爺さん。その気になれば、あんたの肥えきってだらしのないこの首を一八〇度捻ることくらいわけないぜ」

 俺は至って本気だった。これがそんじょそこらの老人なら、いかに暴力も辞さない俺であっても同情の念を抱かざるをえないところだが、この爺は若い時から悪どい手段でここまで上り詰めた野郎だ。そんな奴に手加減などしてやる必要はないだろう。

 こちらの本気が伝わるように、爺の喉の気道を軽く摘み上げ、強引に横へとずらした。いくら俺が並の人間に近づいているとはいえ、これだけでも非力な老人には相当な力に感じたはずだ。

 大野の爺は、途端に呼吸不全にでもなったような、ヒューヒューという音を口から鳴らし始めた。クレオに捕らえられた岡部も、突然のことに恐怖で顔が引きつっていた。

「ぐっ、き、きしゃま……」

「余計なことは喋るんじゃないぜ、爺。お前らみたいな人種は好きじゃない。老人だろうが容赦なく殺す。俺の機嫌を損ねるような真似だけはしないことだ。いいな、忠告したぜ?」

 そういって強引にずらした気道を軽く体重をかけて締めた。すると、爺の醜い顔がさらに醜く歪み、垂れていたはずの瞼が見開き、眼球はピンクに血走っていた。

「お前……あの時の記者か」

 クレオに関節を極められて下手に動けない岡部も、ようやく俺の顔を思い出したようだった。だが、今度は前回のような優しい態度ではないことくらい、一目瞭然だろう。こちらを見る目は、驚愕に満ちている。

「よう、岡部の旦那。まずいことになったな。どんな密談をしていたのか、これからたっぷりと話してもらうぜ。クレオ」

 そう言うと、クレオは目で頷き岡部を引っ立てた。その動きはまるで隙がなく、少しの油断も感じられない。こういった荒事にはあまり縁のないはずの男だが、この手際なら現場工作員としての才能も十分だ。

「うっ……こ、これからどうしようっていうんだ……」

「黙って歩くんだな。それと今日の俺はあまり機嫌が良くない。もし手下どもに手出しさせようもんなら、その時は容赦なくお前ら二人を殺す。どっちかが馬鹿な真似をしたら、そのときも連帯責任として二人共死んでもらう。俺だけじゃない。そっちの奴にも危害があっても同じだ。お利口にしてるんだな」

 俺も同様に大野を引っ立てて連れ出した。来た道を玄関まで二人を引き連れて行く。そうなると流石に異変に勘付いたらしい手下共がぞろぞろと廊下に飛び出してきた。

「おやっさん!」

「てめえ、なめとんのかぁっ! 親父から離れろや!」

「ぶっ殺すぞ、てめえ!」

 揃いも揃って似たような口の利き方しかできない連中ばかりだ。だが、俺は容赦なく大野の首を掴み、気道を締め上げる。すると、先程から呼吸困難気味だった爺の口から、泡が出始め、それを見た間抜け共は罵声を浴びせながらもたじろぐのが関の山だった。

「おい、この爺を殺されたくなきゃ向こうへ行くんだな」

 そういって大野の首を掴んだまま床に投げ置くと、クレオに爺の首を踏みつけておくように指示した。

「クレオ、わかってるな」

「はい」

 俺に何かがあった時は、容赦なく喉を踏み潰すよう意図が伝わっていることを確認する。全く、本当に警察官にしとくにはもったいないくらいの才能だ。

 おかげでたじろぐ間抜け共に動かないよう命令し、連中の動きが完全に止まった瞬間に間合いを詰めて、全員の鳩尾を打ち抜いた。

 ものの見事に、鳩尾をやられた男たちはその場にうずくまる。そして、続けざまに連中のしているネクタイを取り上げると、それで連中の手と足を、背面同士にして縛り上げた。俺の見た目からは想像もつかない怪力に、男たちの関節があり得ない方向に曲げられ、悲鳴を上げる。

 もちろん、それでも十分に壊れない程度にはしたつもりだが、下手に動けばそのままどちらかの関節が壊れてしまうという、絶妙の拘束加減である。本来ならこんな手荒な真似をする必要はないのだろうが、どうもこの手の人種には加えたくなってしまう。

「大神さん、そろそろ」

 とりあえず七人分締め上げたところで、クレオが時間が迫ってきていることを告げた。もう少し遊びたい欲求にかられながらも、俺は頷いて連中を捨て置いた。まぁ、運が良ければ数時間以内になんとかなるだろう。

 俺は一先ず、逃げられるだけの時間は稼いだと自分を言い聞かせ、踏みつけられている大野を担ぎ、急いで玄関を出た。正門の脇に乗ってきた車をつけさせたので、急いで大野と岡部をトランクに詰め込む。

 その際、岡部が激しく抵抗したが、俺は容赦なく岡部の気を使っているに違いない、端正な顔を正面から殴りつけた。腹の入った顔面パンチだから、かんたんに鼻がひしゃげてしまった。

「言ったろ、容赦しないってな」

 無慈悲にそう言って二人をトランクに詰めた。あまりの痛みと恐怖に岡部の目には、涙が浮かんでいるが気にしない。トランクを閉じて、俺達も車に乗り込むとクレオは直ちに発車させる。

「とりあえず、俺のアジトへ」

「了解」

 走り出した車の中に沈黙が降りていた。それもそうだろう。こんな強硬手段に付き合わせてしまったが、クレオは仮にも捜査官だ。そんな人間を犯罪紛い、否、完全に犯罪を犯させてしまったのだから当然だろう。

 しかし、クレオもクレオで、こんな強硬手段に良くもまぁ付き合ってくれたものだと思う。普通ならここは俺を抑える役目ではないのか。そこら辺が良く分からない。思えばこの男はいつも俺の無理難題に嫌な顔こそすれ、なんだかんだと付き合ってくれる。

 そんな人間に甘えているといえばそうだが、いくら任せると言っていても、さすがにこれはアウトのような気はする。人間の法など、半分は俺が自分を戒めるための遊びのルールに近いものだが、一応法の保護者の一人たる警察機構の人間がこれではいけないだろう。

 そんなことを考えていると、クレオは察しが良いのか、口を開いた。

「今更ですよ、大神さん」

「ん、まぁ何も言うまいよ」

 思えばこの男は、これまでも俺の犯罪スレスレ、犯罪をしようが目をつむってきてくれた経緯があるので、今回もその延長なのかもしれない。俺は強引に自分を納得させて話題を変えた。

「それにしても、あんなにも警備が手薄だったのが気になるな」

「ええ。まるで本体がここには存在していないかのようでした」

 無言のまま頷く。その辺りも含めて、これからアジトでたっぷりとトランクに詰め込んだ二人を締め上げてやるつもりだった。半分は、茂夫の弔い合戦という意味合いもある。いくら幹部にまで上り詰めた奴でも、やはり俺の中ではチンピラでしかない茂夫に、ある種の同情の念があった。

 茂夫、お前は最低のドチンピラだったが、それでもケジメを着けるようにあんな形でくたばった。それを誠意と受け止めて、敵はとってやったぞ。後は安らかに眠るが良い。

 新月期へと突入し、人間にほぼ近くなっているためだろうか、俺は妙に感傷的になっていた。成り行きだったが、一先ずはこれで茂夫の奴も安心するに違いない。俺はそう思いながらアジトへと車を走らせた。



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