間 葛藤
†††
「待ちなさい!」
星月夜の声も虚しく、幽=霊の身体は吸い込まれるように夜空へと消えて行く。星月夜が歯を食いしばり、ダンっと足踏みする。凄まじい気迫が熱を帯び、結界に張りつけられた亡霊を焼き尽くす。
その勢いのまま空へと跳ぼうと脚を踏み込むも、よろめいて膝をついた。
「星月夜!」
駆け寄り、肩を貸そうとしたが、星月夜はその腕を振り払った。
「なんで、なんで……手を抜いたんですか……!」
星月夜の瞳は琥珀色に燃えていた。ぐっと胸を抑える。相手を射殺せる目に、心臓が止まるのではないかとさえ思った。
それでも星月夜の追及は止まらない。震える身体を押して、日向の腕を掴んだ。
「あいつは、物の怪は存在し続ける限り、人を殺します! あなたは、あなたの手はあいつらからみんなをまも……」
星月夜の言葉は意識と共に途切れた。崩れ落ちる星月夜を、日向は静かに抱き留めた。言い訳をするつもりは無い。あんな怪物相手に攻撃を躊躇するなど、夢にも思わなかった。
たぶん、普段の日常であまりにも幽霊と近く接し過ぎていたから、なのだろう。幽霊という存在を誰よりも理解している。心のどこかにそんな自覚があったのだろう。
だが、今は何よりも、星月夜に殺気を向けられた。その事が自分でも驚く程にショックを受けていた。たった一日の付き合いだというのに。
星月夜はよく泣き、よく笑い、よく怒り……表情がころころと変わる。口下手で、順序も踏まずにいきなり本題を突きつけてくる。
しかし、それも今は理解できる。彼女が如何に必死だったか。そして、これは日向の直感に過ぎないが、彼女は孤独だったのだろう。
――俺の記憶……。
それさえ戻ればとは、思えなかった。その記憶は自分のこれまでの人生を消し去ってしまうのではないか……そんな漠然とした不安があった。
――でも、もう既に壊れつつあるか。
昼間の病院での菊里の事を思い出す日向の顔に影が差した。
「まぁ、ともかく……」と、溜息一つ吐いて日向は今の状況を冷静に見直した。
「こっからどうやって家に帰ろう?」
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