作戦その19 最強騎士コンビをくっつけよう!2
隊員たちの悲鳴とも言える叫びが部屋中に、そして廊下にまでもこだました。今まで女性にモテても男性にモテたことなどなかったティーナにラブレターが渡されるなんて! それは、隊員たちにとっても十分に驚くべき事態だった。そして、もちろん本人とフェンネルにとっても。
隊員が恐る恐るフェンネルの様子を窺うと、顔色がなかった。そうとしか言いようがないくらい、呆然としていたのだ。
「何々、何の話?」
その異様な空気を切り裂いたのは突然やってきたクロルドだった。後ろには血相を変えたユウリの姿もある。第二小隊の隣にある第一小隊の詰所にも、隊員たちの叫び声が届いたのだ。クロルドがそんな面白そうな状況を逃すはずがない。
「どれどれ?」
「あっ!」
ティーナが耳を赤くしながら何度も見返していた手紙をクロルドがひょいっと奪い取った。
「あ、本当にラブレターだ。僕は貴女のことが好きです。まずはお友達からいかがでしょうか、だって。丁寧な手紙じゃないか」
「ちょっと、クロルド隊長!」
読み上げられることに恥ずかしさを感じたティーナが手紙を奪い返そうとぴょんぴょん跳ねる。しかし、クロルドは風魔法を使って自分の身体を浮かせて逃げた。なんて凶悪な魔法なのだろう。
「仕事が休みの時に食事にお誘いしたいです。一度ゆっくり話せたらと思います、ってどうするの? ティーナ」
「ク、クロルド隊長には関係ありません!」
「そんな冷たいことを言うなよ、ティーナ。昔からの仲だろう?」
ニヤニヤと笑ったクロルドは手紙を魔法でふわりと浮かせてフェンネルの手元へと送った。
「ちょっ!」
止める間もなく手紙はキャッチされ、引き続き顔色のないフェンネルが手紙の内容を確認している。
「こんなチャンスを逃す手はない、食事に行ってきなよ」
そんなフェンネルを横目で見ながらクロルドはそうティーナを唆す。
「な……っ!」
「ティーナは甘いものが好きなんだし、最高の相手じゃないか。ね、フェンネルもそう思うだろう?」
クロルドは意地の悪い顔でフェンネルに尋ねる。フェンネルは何度も手紙に目を滑らせてから、その視線をぼんやりとティーナに合わせた。ティーナはドキリとしてその場に立ち尽くす。
ここですよ、フェンネル隊長!
隊員たちは心の中でエールを送る。ここでバシッと「断れ」と言えばティーナは必ずそうするだろう。加えて「俺もティーナのことが好きだ!」なんて言ってくれたら完璧だ。
しかし、フェンネルがそういう男だったならば、ここにいる隊員たちはここまで苦労していなかった。そう、こういう肝心な時に、
「ティーナの好きにすればいい」
と、心にもないことを言うのがフェンネルなのだ。ティーナは俯いて震えた。そして、顔を上げた時にはその瞳に涙が溜まっている。
「好きにします!」
ティーナはそう叫んでフェンネルから手紙を奪い取ると、詰所から出て行ってしまった。
「ティーナ副隊長!」
廊下を全力疾走するティーナを必死で追いかけて声をかけたのはユウリだ。ティーナはユウリの声に足を止めて振り返る。その頬には涙が何滴も伝っていた。
「ユウリ~!」
涙声のティーナをユウリはしっかりと抱き止める。
「私、何であんなこと言っちゃったんだろ~!」
泣きながら、それでも自分を責めるティーナを見て、ユウリは拳を握った。
「ティーナ副隊長は悪くないです! 悪いのはフェンネル隊長ですよ!」
フェンネルが隊長でなければ、きっとユウリに拳で殴られていたであろう。
「でも……」
ぐすぐすと鼻をすすりながら、ティーナはユウリから離れる。
「だってあんなこと言うなんて! インバロでの遠征でティーナ副隊長が怪我をされてから、フェンネル隊長は変わったと聞いてました。ティーナ副隊長に対して今までよりも優しいし、恋人になるのも時間の問題だろうって」
「そんなことは……」
涙を乱暴に手で拭きながらティーナは顔を歪めた。
「私もね、正直言えば少しは思ったよ。女性として扱ってくれてるのかなって思うことも、そういう発言をしてくれたこともあって、もしかしたらって。だけど……それは私の勘違いだったのかな……」
インバロの町でティーナはフェンネルに抱きしめられた。慰労会の時の衝動的な感じはなく、優しく長くそうしてくれていた。それに、守ると言い、ティーナのために強くなるとも取れるような言葉も。
今までになかったことに、ティーナ自身も少しは期待していたのだ。もしかしたら、フェンネルも自分と同じ気持ちなのでは、と──
だからこそあんな風に言ってほしくはなかった。フェンネルの気持ちを知りたかったのだ。だけど、フェンネルは自分の気持ちを言ってはくれなかった。
「勘違いなんかじゃないです! フェンネル隊長が情けないだけですよ!」
「そう……なのかな。私、どうすればいいんだろう……」
自信がなくなってしまったティーナは迷っている。このままフェンネルを好きでい続けてもいいのだろうかと。
「そのお菓子屋さんの男の人と食事に行けばいいんですよ!」
「ええ!?」
ユウリは完全にキレていた。座った目でティーナに訴える。
「ヤキモチ焼かせとけばいいんです! その男の人が素敵な人だったなら、その人と付き合っちゃえばいいんですよ!」
「そんな……」
そこまで言われてもティーナは悩む。自分はフェンネル以外の男性を好きになることがあるのだろうか、と。
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