作戦その19 最強騎士コンビをくっつけよう!1

「フェンネル隊長、お疲れ様です!」


 騎士団本部、第二小隊詰所にて。見回りを終えて戻っていたフェンネルと隊員たちの元へ元気よくティーナがやってきた。


「ティーナ、お前な……療養中のくせに毎日詰所に来るのはやめろ」

「大丈夫ですよ! 肋骨が折れたとはいえ痛みはほとんどありませんし。あ、差し入れ持ってきましたよ!」


 そう言ってティーナが掲げたのはお馴染みの菓子屋の袋だ。


「差し入れってそれ、自分が食べたいだけだろ」

「えへへ」


 ティーナはいたずらがバレた子供のように笑いながら袋をテーブルの上に置いた。


 インバロでの植物魔獣との戦いを終え王都に帰還した騎士たちは、魔獣の襲来も落ち着いて日常に戻っていた。肋骨が折れたティーナは戦えないということで療養中だが、何かと理由を見つけては毎日本部に顔を出している。


「それにな、ティーナ。療養中っていうのは怪我を治すことが仕事なんだ。菓子屋に歩いて行ってどうする。ほしいなら俺が買ってきてやるのに」


 戻った後のフェンネルは隊員たちの目から見ても過保護度が増していた。いよいよくっつくのかと思いきや、どうもそこまでは至っていないらしく、隊員たちはもどかしく見守っている。


「大丈夫ですって。動いていないとなまってしまいますから」

「それだけじゃねえぞ。ティーナ、まさか俺が気がついていないと思ってるわけじゃないよなぁ?」

「うっ……な、何のことでしょう?」


 何か思い当たることがあったらしいティーナは目を逸らしながら尋ねた。


「俺がいない隙を狙って訓練してるよな?」

「ひっ」


 フェンネルの低い声にティーナは縮こまる。


「剣は持つなとあれほど言ったのに、変装までして第一小隊の訓練に潜り込みやがって!」

「な、なんでそのことを……」

「ティーナのその目立つ赤い髪の毛と、怪我してるくせに普通の騎士とは違う俊敏な動きにノルスが気が付かないと思うか!?」

「うっ……」


 フェンネルはティーナに気がついたノルスからしっかりと報告をもらっていたのだ。「ティーナは療養中のはずですよね?」と。


 そもそも、訓練には使うことがない頭をすっぽりと覆う兜を着けただけで気がつかれないと思っているティーナがおかしい。それに、一つにまとめた赤い髪の毛が兜から出て揺れているので、逆にすごく目立っていてノルスでなくとも気がついている。


 それでも、ティーナはそれをフェンネルに告げ口したノルスを後で怒らなければと心の中で誓った。


「それだけじゃないよな?」


 フェンネルの攻撃は続く。


「訓練の後には詰所に来て書類の整理をしてるだろう?」

「ううっ……!」


 乱雑に書類を管理するフェンネルはすぐになくしてしまったり、重要書類を見落としたりするので、いつもティーナが整理している。自分がいなければどうなることか……と、危惧したティーナは、フェンネルが巡回から戻ってくる前にこっそり忍び込んで書類の整理をしているのだ。そして、フェンネルが帰ってくる時間を見計らって町に出て差し入れを買いに行く、と。


「ぜんっぜん休んでないじゃねえか!!!」

「ぐっ……」


 これは、隊員もフォローのしようがなかった。ティーナのスケジュールを考えると、療養前よりむしろ忙しくすら思える。


「いいか、ティーナ。しばらく詰所には出入り禁止だからな! 訓練に参加するのもダメだ。見つけたら療養を延ばすからな!」

「そんなぁ」


 ティーナは悲しそうに眉尻を下げた。


「そんな顔をしてもダメだ」

「うぅ……」


 ベッドで大人しくしているような人間じゃないティーナにとって辛い宣告だ。そんなティーナの気持ちをわかりながら、フェンネルは心を鬼にしている。


「ほら、今日はその菓子を食ったら帰れ」

「はい……」


 ティーナはしょんぼりとしながらも、食欲はあるらしい。袋からお菓子を次々とテーブルに並べ始める。


「みんなも食べて」

「はい、ありがとうございます」


 隊員たちは甘いものが好きなわけではないのだが、せっかくの好意を無駄にするのも悪いし、これ以上ティーナが傷つかないようにと一斉に集まってきた。ティーナが次々とお菓子を出すのを見ていた隊員が、袋からひらひらと何かが落ちたのを見つける。


「ティーナ副隊長、何か落ちましたよ」


 隊員が拾い上げたのは真っ白な封筒だった。表をひっくり返すと『ティーナ様へ』と書かれている。


「ありがとう。何だろう?」


 手紙を受け取ったティーナは首を傾げた。見たところ女性ファンからもらうラブレターのように見えるが、表の文字は女性のものにしては無骨だ。


「どなたかから手紙をもらったんじゃないですか?」

「ううん、今日はプレゼントはもらってないよ。お菓子屋さんでもらったのかな……あそこ、女性の店員さんはいないはずだけど」


 不思議そうな顔をしながら封筒から中身を取り出したティーナは広げて確認する。


「えっと……ティーナ様。いつもご来店ありがとうございます、店員のライアンです。いつも対応してくれる人かな?」


 何故か中身を読み上げながらティーナは呟く。何事か、とフェンネルも近づいてきた。


「突然、こうしてお手紙を出すことをお許しください。率直に申し上げまして、僕は貴女のことがす……は?」


 手紙を読み上げていたティーナの顔がこわばり、声が止まる。そして、見る見る内に耳が赤くなっていく。


「ま、まさか……」


 その反応を見ていた隊員たちが一斉に叫ぶ。


「ティーナ副隊長に男からのラブレター!!!???????」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る