作戦その11 協力者を増やしたい!

 王都へ戻ってきた第二小隊の隊員たちは悩んでいた。フェンネルとティーナのことだ。考えうる様々な作戦を実行に移してきたが、未だに二人の関係は目に見える進展がない。


 そもそも、作戦を立てるにしても普段は寮に住み、男ばかりの騎士団で働く隊員たちに恋愛に対して明るい人は少ない。困り果てた隊員たちに光をもたらしたのは、フェンネルのこんな発言からだった。


「はぁ、めんどくせえなぁ。なんでこのクソ忙しい時期に新入隊試験なんてやるんだよ」

「しょうがないじゃないですか。人手が足りないんですから」


 ぼやくフェンネルをティーナがたしなめる。隊員たちは二人のいつものやり取りをさほど気に止めず聞き流そうとしたのだが、内容にひっかかった。どうやら新しい人員を隊に加えることになったらしい。


 通常、訓練兵たちの入隊試験は、訓練兵を選ぶ入団試験と同じ冬の間に行われる。今冬にも行われたばかりなのだが、魔獣が春の内から王都付近で出現したことで人員の不足が発生したということを受けて、追加で行われることになったらしい。


 その話に隊員たちは「これだ!」と、思う。訓練兵には若い人間が多い。恋愛経験豊富な人もいる可能性がある。そんな新しく若い騎士に二人をくっつける作戦の手助けをしてもらおうと考えたのだ。


「隊を増やすべきじゃないかって話まで出てるんですよ?」

「じゃあティーナが選んでくれ。俺はティーナの判断に異議はない」

「私も出席しますけど、フェンネル隊長にもいてもらわないと。訓練兵たちが残念がりますよ」

「勝手に残念がらせときゃいいんだ」

「……フェンネル隊長」


 あまりに駄々をこねるフェンネルに、ティーナは笑顔で低い声を出す。ものすごい迫力に、フェンネルほどの大男も表情を引きつらせた。


「こんなことでめんどくさがってたら、団長になんてなれませんよ?」

「まぁ、それは……」


 出世欲のなさそうなフェンネルだが次期団長の座を狙っていると明言している。団長になれば出動回数も減るしフェンネルには向いていなさそうな気がするのだが、その意志を曲げることはないようだ。


「クロルド隊長に団長の座を獲られてもいいんですか?」

「……行くよ」

「はい、行きましょう」


 完全にティーナの勝ちだった。二人が結婚したら、意外とフェンネルは尻に敷かれるようになるかもしれないな、などと隊員は思う。


 二人は詰所から出ていこうと立ち上がった。


「そういうわけなので、今日の見回りはお願いね?」

「了解しました!」


 隊員は敬礼をしてその指示を受けてから、


「いい人が見つかるといいですね」


 と、声をかける。


「そうね。他の隊との奪い合いになるから大変だろうけど」

「ああ、めんどくせえ……」

「何か?」

「……何でもありません」


 二人の夫婦のようなやり取りに、さっさとくっつけばいいのにと、詰所にいる隊員全員は思う。そもそもフェンネルがこんなに甘えたことを言うのはティーナに対してだけなのだ。


「みんなは希望する人材はいる? どの属性魔法がほしいとか……」


 ティーナが隊員に希望を尋ねたので、すかさず一人がそれに答える。


「空気が読めて、モテそうな人がいいです!」

「……は?」


 フェンネルとティーナは怪訝な表情を浮かべた。


「何でだよ? 新隊員はどうせ男ばかりだぞ? お前ら、そういう趣味があったのか?」

「違います!」


 変な誤解をされそうになって隊員は即座に否定する。これは新隊員に二人をくっつけるための助言をもらおうという作戦なのだ。


「じゃあ、何だ? ティーナの男でも探そうっていうのか?」


 さらに変な誤解をしたフェンネルの瞳が鋭く光る。フェンネルはティーナの婿探しをしていたはずなのに、何故そんなにむっとしたような表情をするのだろう? フェンネルは自覚していないだろうが、その表情は完全なヤキモチだ。さっさとティーナへの気持ちを自覚してくっついてくれればいいのに。


「違います。そういう空気が読める人の方が連携もやりやすいと思いまして」

「そこにモテる要素は必要か?」


 フェンネルはとことん追求する構えだ。これがヤキモチだとしたら、なんてめんどくさい人だろう。


「モテる人っていうのは空気を読める人が多い気がするんです。優しくないとモテないと思いますし」

「ふぅん?」

「隊の連携を損なわずに上手くやっていける人員ということでこういう提案をさせていただきました」


 隊員の無理のある説明に、フェンネルは疑いながらも一応納得したようだった。


「ま、俺たちにしても隊の規律を乱すようなやつよりは、やりやすいヤツの方がいいからな。迷ったらその点考えて選んでやる」

「ありがとうございます!」


 何とか切り抜けることができた隊員たちは安堵しながら二人が詰所を出ていくのを見送る。それにしても──


「何だかさっきのフェンネル隊長、ティーナ副隊長を他の男に渡したくないって雰囲気だったよなぁ」

「だよな」


 いつもその様子が垣間見えはするのだが、今日はいつもに増してその気持ちが前面に出ていた気がする。二人は何も進展していないはずなのに、と、隊員は首を傾げた。




 フェンネルとティーナは訓練兵専用の訓練場へ向かう。そこで入隊試験が行われるのだ。


「何人くらい補充しましょうか」

「ま、いいやつがいれば、だな。使えないやつを増やしてもしょうがない」

「それはそうですが、このままだとフェンネル隊長の負担が大きすぎます。人数が足りない分をカバーしているせいで、お休みもほとんど取れていないじゃないですか」

「俺はいいんだ。そう言うティーナだって同じようなものだろう」

「私はフェンネル隊長よりは休ませていただいてます」


 打ち合わせをしながら歩く二人はそんな言い合いをする。二人共、仕事が好きでやっているので苦はないのだが、お互いの身体が心配で仕方がない。


「欲を言えば十人位ほしいですね」

「そんなに入ったら管理するのが大変になるだろう。管理するのはティーナなんだ、二、三人でギリギリだな」

「それじゃ少なすぎます!」


 二人は言い合いを続ける。お互いを想い合っての言い合いは傍から見たらいちゃついているようにしか見えない。


「とにかく、なるべく多く取りますよ」

「少なくていい」


 二人の言い合いは平行線のまま終わった。頑固な二人はこうしてどちらも譲らずにうやむやに終わることも多い。


「新隊員が増えたら人員の再配置をしなくてはなりませんね」

「またティーナに余計な仕事が増える」

「必要なことです。それに、その分実働でフェンネル隊長がカバーしてくださるじゃないですか」

「それは問題ない」


 ふぅ、とティーナはため息をつく。


「まぁいいです。でも、私もちゃんと身体は作っておかなくちゃならないですね」

「いつ出動があるかわからないからな」

「それもそうですが、人が増えるということはライバルが増えるということにもなりますから」

「ライバル?」


 フェンネルは怪訝な表情を浮かべる。


「ティーナ、お前は自分の地位を奪われるんじゃないかと思ってるのか?」

「いつ何が起きるかわかりませんから」

「あのなぁ……」


 どこまでも謙虚なティーナにフェンネルは呆れた表情を向けた。


「ティーナが誰かに負けるわけがないだろう。それに、俺はティーナを手放すつもりはないぞ」

「フェンネル隊長?」


 ティーナは、その言葉に表情を変える。仕事のことだとわかっているけれど、女としては言われるとドキリとする言葉だ。


「仮に新小隊が出来たとしても、ティーナを俺の副隊長から外すつもりはない。俺にはティーナが必要だ」

「ど、どうしたんですか、急に?」


 普段そんなことを言わないフェンネルなので、嬉しいと同時に戸惑う。何かあったのではないかと邪推した。


「もちろん私だってフェンネル隊長をずっと支えていくつもりです。でも、フェンネル隊長はこの前まで私に結婚して別の幸せを見つけろって言ってたのに……」

「考えが変わったんだ」


 フェンネルはティーナに視線を向けず、前を向きながらきっぱりとそう告げる。


「俺はティーナをここに連れてきたことによって、ティーナの人生を俺が決めてしまったように思っていた。だけど、ティーナの信念を聞いて、それは間違ってると気がついた。ティーナは自分の信念を持って、自分で決めてここにいる。そう思った」


 滅多に自分の考えを曲げないフェンネルだが、ジュードの町でのティーナの「人を助けたい」という想いを知って、今までの自分の考えが独りよがりで間違っていることに気がついた。それは、ティーナの信念が自分の信念に近いものがあったからということもあり、心に響いたのだ。


 フェンネルはティーナが騎士団で働き続けることを望むのに、それを妨害することは同じ信念を持つものとしてしてはいけないものだと思った。


「もちろん女として幸せになってほしいと今でも思ってる。だけど、騎士団をやめる必要はない。ティーナがそれを強く望むなら」

「フェンネル隊長……」


 自分の気持ちがフェンネルに届いたことにティーナは胸を打たれる。思わず涙が出そうになるくらい感動したが、これから試験が待っているのでぐっとこらえて、指で目尻を拭う。


「私は生涯フェンネル隊長を支え、騎士団で自分の力を使い続けます」

「そうか」


 フェンネルは表情を崩して嬉しそうに笑った。

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