作戦その9 恋の相談相手を作ろう!1
魔獣の脅威が去ったジュールの町で、フェンネルたち騎士団の面々は町長の屋敷に招かれ、祝賀会が開かれている。惜しみなく出される豪華な食事に、騎士たちは目を輝かせて遠慮なくご厚意に預かった。
空腹が落ち着いてくると、ティーナはチラチラとユウリの存在を気にし始める。魔獣の討伐をティーナたちが達成した後、ユウリは今までに増して露骨にティーナを睨むようになった。二人だけの女性なので同じ部屋で眠るのに、会話もままならない状態だ。
「ティーナが食事に集中しないなんて珍しいな」
隣で肉の薄切りを三枚いっぺんにフォークに刺して大口で頬張っていたフェンネルは、それを飲み込むとティーナに声をかけた。
「フェンネル隊長」
ティーナが救いを求めるような目を向けると、フェンネルは耳元まで顔をぐっと近づけて、
「ユウリと仲良くなりたいのか?」
と、尋ねる。突然の距離の近さに耳を赤くして身体を硬直させたティーナはコクコクと頷く。図星だったからそんな反応をするのだと思っているフェンネルは、その体勢のままニヤリと笑う。
「ティーナは強いから反感を買うな。お前に嫉妬しても勝てるはずがないのに」
ティーナを高く買っているフェンネルは得意気だ。しかし、その話は半分もティーナの頭に入っていない。
「試しに声をかけてみたらどうだ? どうせティーナは勇気がないからいつも見てるだけなんだろ」
それだけ言うとフェンネルはティーナの耳元から顔を離した。ティーナはほっと息を吐いて胸を抑える。
「俺が呼んできてやろうか?」
「だ、大丈夫です! 自分で行きますから!」
気を取り直したティーナはフェンネルから離れて歩き出す。ユウリと話したいという理由もあったが、自分だけ動揺している姿をフェンネルに悟られたくはなかった。
ひとまず、ユウリの近くのテーブルまで行って、普段は食べないサラダなどを取りながら様子を窺う。さっきまで一人だったユウリは、タイミング悪く第二小隊の隊員と話をはじめている。
そんなティーナの様子を見守っていたのはフェンネルだけではなかった。
「ティーナ副隊長」
声をかけてきたのは第二小隊の隊員たちだ。
「ああ、どうしたの?」
「ユウリのことで、お話が」
「ユウリの?」
ティーナはユウリの様子を気にしながら、話が聞かれない位置に移動した。
「どうしたの?」
「ユウリがティーナ副隊長に対して態度が悪いことは知っています」
「ああ……」
ちょうど悩んでいたことを指摘されたティーナは困ったように笑う。守るべき隊員に弱いところを見せたくないと思うのは副隊長としてのプライドだ。
「その理由を僕たちは知っています」
「え?」
そんなティーナも隊員の発言には食いつかずにいられなかった。ティーナにとって、女性の心情は魔獣との戦闘よりも難解なのだ。
「どういうこと?」
「ユウリはノルス副隊長に片想いをしているんです」
「ノルス?」
ティーナは突然の色恋の話に困惑する。第一小隊の副隊長への恋が自分にどう関係するのか見当もつかない。
「ユウリはティーナ副隊長がノルス副隊長と親しいことに嫉妬をしているんです。もしかしたらノルス副隊長のことを狙っているんじゃないか、と考えているらしくて」
「私がノルスのことを!?」
つい声が大きくなってしまい、ティーナは慌てて口を塞ぐ。だが、ざわついている会場で今のティーナの声に反応する者はいなかったようだ。ティーナは周囲を確認してから、声のボリュームを下げて会話を再開する。
「ありえないわ、そんなこと。何でそんな勘違いを?」
「僕たちにもわかりません」
隊員も首を傾げながら答えた。隊員たちからすればティーナはフェンネル一筋だということはバレバレなので、どうしてそんな勘違いをするのか見当もつかない。
「ただ、ノルス副隊長はクールな方で、親しく誰かと話す様子も見られません。ですが、同じ立場のティーナ副隊長とは作戦の関係で会話をすることも多い。だから、そんなティーナ副隊長に敵対意識を持っているのではないかと」
「そうだったの……」
「なので、上手く誤解を解けば話せるようになるかもしれません」
「なるほど」
今まで何が何だかわからなかったティーナにようやく活路が見えた。そんなティーナに隊員たちは追い打ちをかける。
「誤解を解くにはティーナ副隊長の恋の話をするといいかもしれません」
「ええ!?」
ティーナは大きな声を出してからチラリと後ろを振り返る。そこには、クロルドに絡まれて辟易した様子のフェンネルがいた。本人は隠しているつもりなのだが、非常にわかりやすい……と、隊員は思いながら、続ける。
「女同士、会話も弾むかもしれませんよ」
今回の作戦はこうだ。隊員たちがフェンネルとティーナを二人きりにしてもなかなか関係は進展しない。それならば、本人たちを変えていけばいいのではないか。
女友達のいないティーナに恋の相談相手ができれば、フェンネルに対して積極的な行動を起こすかもしれない。そんな効果を期待して、ティーナとユウリの仲を取り持とうと考えたのだ。
「そうね……」
思うところがあったらしいティーナはユウリに視線を送った。ユウリは再び一人で壁際に立って退屈そうにしている。
「わかった、行ってくる」
「頑張ってください!」
隊員たちは拳を握ってティーナを送り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます