作戦その2 ペア戦闘で絆を深めよう!
対魔獣騎士団の本部、訓練場にて。本日の第二小隊は訓練を行っている。剣と魔法を組み合わせて戦う騎士たちにとって体力作りは基本中の基本だ。そんな肉体強化と剣の稽古、魔法の訓練を隊員たちは真面目に取り組んでいるのだが……
「はぁ、つまんねえなぁ」
休憩時間にフェンネルがそうぼやいた。こうしてフェンネルがぼやくのも、
「ちょっとフェンネル隊長。不謹慎ですよ」
と、ティーナがなだめるのも、第二小隊のいつもの光景だ。
「私たちの仕事が暇な方が平和だってことですからね」
「そんなこと言って、ティーナだって本当は戦いたくてしょうがねえんだろ?」
「それは……」
フェンネルに指摘されてティーナは困ったようにえへへ、と笑う。
騎士団の討伐対象である魔獣は動物と同じように寒い時期は活動が減り、暖かくなると活発になる。今は冬が終わりかけているもののまだまだ寒い、騎士団の仕事の少ない時期なのだ。
フェンネルとティーナは戦うことが生きがいの人間。だからこそ、魔獣と戦えない冬の時期は退屈で仕方がないのだった。
「フェンネル隊長、ティーナ副隊長」
そんな二人に隊員が声をかける。
「どうした?」
「そろそろ春になりますし、僕たちも感覚を取り戻したいので、ぜひ模擬戦をお願いしたいのですが」
「……ほう?」
隊員からの申し出に、フェンネルの茶色い瞳がキラリと鋭く輝く。
「フェンネル隊長とティーナ副隊長のコンビ対、僕たち隊員全員、ということでいかがでしょうか?」
訓練場には第二小隊の隊員がほぼ全員そろっている。人数で言うと二対二十。二人で十倍の人数を相手にしなくてはならない。のだが。
「おい、いいのか? 俺とティーナを一緒にして。何ならティーナもそっちにやってもいい」
フェンネルは余裕な様子でニヤリと笑った。それだけ自分の実力に自信があるのだ。
「いくらフェンネル隊長でもティーナ副隊長までもを敵に回したら……」
「手強くはなるだろうな」
「私を敵に回して、お一人で勝つつもりでいるのですか?」
ティーナの瞳も鈍く光った。普段はフェンネルの補佐をしているティーナだが、戦いに関してはプライドを持っている。フェンネルが自分を甘く見るような発言をしたことに腹が立ったのだ。
笑顔の二人だが、その間にはバチバチと火花が散っているのが見える。その威圧感たるや、日常的に二人の下で働いている隊員たちでも震えるほどだ。
「大丈夫です。今日は僕たち全員でお二人を相手にさせてください」
鬼のように強い二人を同時に敵に回すなど、隊員たちもしたくはない。だが、これは二人をくっつけるための作戦でもあった。
戦闘中の二人は何をしている時よりも楽しそうだ。魔法と剣を組み合わせて戦う二人のコンビネーションは凄まじく、まるで一人の人間かのように息が合う。
そんな二人を見ているのが隊員たちは誇らしくもある。
戦闘で見せるそのコンビネーションを普段も見せてくれたなら、お互いの気持ちはすぐにわかるだろうし、素直にもなれるだろう。最近はめっきり実戦がないので、意思疎通が図れていないのではないか。二人で一緒に戦闘をすれば、恋の進展もみられるかもしれない。
そう隊員たちは考えてこの作戦を立てたのだ。
「勝てないけどいいの?」
ティーナがきょとんとした顔で尋ねる。この人数を前にして余裕で勝てるつもりでいるのだから、恐ろしい。
「はい、お願いします!」
「そこまで言うなら、やるか」
隊員たちの願いは聞き入れられ、フェンネルが立ち上がる。その瞳が子供のように輝いているので、本当に戦うことが好きなのだと再認識させられた。
フェンネルとティーナを三百六十度囲むようにして隊員たちが陣取る。臨戦態勢を取る隊員たちに対し、二人は剣も構えずにリラックスして立った。
「手加減は無用だからね。どこからでもかかってきて!」
「はい!」
「じゃあ、始め!」
誰も動こうとはしないのに、始まった途端に空気がピリつく。ただ立っているだけの二人も、隊員が少しでも動こうものならすぐに戦闘を始めるだろうという気配がある。
この作戦を成功させるためには、隊員たちが二人を苦戦させなくてはならない。苦戦してこそ絆も深まるというものだ。なので、戦闘の作戦もしっかりと立ててある。
「行くぞ!」
一人の隊員が声を出したのを合図に全員が魔法を展開し、剣を構えたまま二人へと距離を詰める。名付けて「人数有利を活かそう作戦」だ。これだけの人数が全方向から一斉に攻撃を仕掛けたなら、流石の二人でも太刀打ちできないだろう、と。
しかし、相手は対魔獣騎士団、最強のコンビと名高いフェンネルとティーナ。全方向から攻撃を仕掛けられているにも関わらず、それを瞬時に展開したティーナの防御魔法で防ぐ。
ティーナは防御魔法の使い手だ。どんな攻撃も防ぐことができる固さを持ち合わせている。
普通の人間なら全方向からの攻撃を防ぐために防御魔法を展開すると、すぐに魔力切れを起こしてしまう。そこをティーナは敵の攻撃に合わせて展開しては解除し、長く展開したままにしないことによって魔力切れを防いでいる。簡単なことに思えるが瞬発力が必要とされる、かなり高度な技だ。
どうしても攻撃力が下がってしまう防御魔法使いだが、それを補うために日々厳しい剣の訓練を積んでカバーしている。
対するフェンネルは雷魔法の使い手だ。攻撃力の高い雷魔法をフェンネルは高威力で放つことができる。しかし、フェンネルの戦闘スタイルはそれに頼るのではなく、ガタイの良い体型を活かして大ぶりの剣を振り回しながら、その補助として雷魔法を使う。その様子は笑ってしまうほど美しい。
ティーナは自分とフェンネルを守るように防御魔法を展開した。フェンネルの次の動きを予測できるティーナは防御魔法をそれに合わせて展開してみせる。それが二人のコンビネーションの真骨頂だ。
今日も二人のコンビネーションは冴えている。ティーナがフェンネルの側に寄り、全方向の攻撃に対応している。ティーナの防御魔法に守られているフェンネルは、隊員からの攻撃を気にする必要もなく、のびのびとまずは一方向の隊員へと剣を振り下ろしていく。
どの方向からの攻撃もティーナに防がれてしまうので、隊員たちは作戦を変更する。ティーナ側とフェンネル側の二方向に別れて固まり、攻撃を仕掛けた。
これはティーナの攻撃力の低さを狙った作戦だ。フェンネルは自分の目の前を攻撃することで精一杯なので、ティーナ側の隊員はダメージを受けることなく攻撃を続けられるだろう、と。
しかし、その読みはまたしても外れる。フェンネルは前方の隊員に対して剣を振って対応し、ティーナ側の隊員には雷を打ち込んだのだ。フェンネルは前方しか見ていないはずなのに、何故ティーナ側までカバーができるのだろうか。考える間もなく、隊員たちは次々と倒れていく。隊員たちは人数が減るごとに防戦一方を強いられる。
二人に対して防戦一方では勝てっこない。結果、五分と経たずに隊員は全員やられてしまった。
「うんうん、なかなか良かったよ。特にボックスの不意打ちの攻撃とか、危なかったな」
「そ、そう……ですか」
「まぁ所々光る攻撃はあったが、俺たちに戦いを挑むのはまだ早かったようだな」
「ふふ、そうですね」
充実した表情を見せながら笑顔で感想を言い合う二人。それを囲むように隊員たちはうずくまっている。身体中が痛い。訓練なのに容赦ないな! と、心の中で悪態をついた。
「久しぶりに楽しかったな」
「実戦が楽しみですね。早く春にならないかなぁ」
「ティーナ。お前もやっぱり退屈だって思ってるんじゃねえか」
「私はフェンネル隊長ほど不謹慎じゃありませんから、口には出しませんよ」
二人はにこやかに話しながらうずくまる隊員たちを置いて詰所へと戻っていったのだった。
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