作戦その3 一緒に料理をしてみよう!1

「いよいよ来たか」

「ですね」


 騎士団長に呼び出された帰り、フェンネルとティーナは隠せないワクワクの表情を浮かべながら廊下を早足で歩いていた。


「隊員を集めろ」

「はい!」


 フェンネルの指示で訓練場へ向かったティーナは、第二小隊の隊員たちを引き連れて詰所へと戻ってきた。


「お前ら、いよいよ来たぞ」


 悪の親玉のようなノリでフェンネルが隊員たちに告げる。


「春の遠征だ!」



 春になると魔獣の動きも徐々に活発化するので、その魔獣が人里に降りて来る前に数を減らしておこうというのがこの遠征の目的だ。毎年この時期に行われるので、この遠征は対魔獣騎士団にとってシーズンの始まりを告げる風物詩にもなっている。


 今年の第二小隊の遠征先はアレスの森。魔獣の生息地であるエコブ山脈に繋がるこの森は、長い冬を越えた魔獣たちが餌を求めてまずやってくる場所でもある。


 遠征当日。日の出と共に第二小隊は王都を出る。アレスの森までは馬で片道五日というなかなかの距離だ。


 道中は大所帯なこともあって、行けるところまで行ったところで野営をする。大きめのテントを四つ、ティーナ専用の小さいテントを一つ張って休む。


 その日の昼。休憩のために馬を止めていると、フェンネルがこんなことを言い出した。


「今日の夕飯は俺が作るかな」


 夕飯は隊員たちが持ち回りで作ることになっているが、フェンネルもその中に入っている。フェンネルの野営飯は隊員たちにも美味しいと人気だ。


「本当ですか! 楽しみです」


 フェンネルの野営飯の味をよく知っているティーナがまず目を輝かせる。


「ティーナも作れるようになったらどうだ?」


 対するティーナは野営飯を任せると酷いことになるので、その当番から外れていた。


「私も作れるようになりたいですよ? でも、みんなが嫌がるから……」

「まぁあれはな。トラウマにもなるよな」


 フェンネルもその犠牲にあったことがあるので、思い出しただけで顔を歪める。


「だけど、作れるようになっておいた方がいいだろう。女としても」


 事あるごとに結婚を勧めるような発言をするフェンネルにティーナはむっとした表情をする。ティーナが嫁に行くときのことを考えての発言だということがわかったからだ。


「それじゃあ今日の夕飯はフェンネル隊長とティーナ副隊長の二人で一緒に作ったらどうですか?」


 二人の険悪なムードを察した隊員の一人が気を逸らすためにもそう提案した。それに一緒に料理をすることで関係が変わるきっかけになるかもしれないと考えたのだ。


「俺がティーナと?」

「フェンネル隊長が教えてあげれば、ティーナ副隊長も料理が上達するかもしれません!」

「それは確かにそうだな。料理の特訓は必要だし」


 野営飯が結婚後の役に立つのかどうかはわからないが、そんなことを考えもしないフェンネルは隊員のその言葉を受け入れることに決めた。


「よし、じゃあ一緒に作るか!」




 野営の場所を決めた後、テントの設営を隊員に任せてフェンネルとティーナは食材探しに向かう。


「いいか、ティーナ。穀物や調味料は持ってきているが、野菜や肉などの生物は現地調達だ。まずは食材を探すぞ」

「はい」


 ティーナは真面目な表情で頷き、周りをキョロキョロと見渡す。


「お、あの辺りは木が生えているな。木の側の日当たりの悪いところにはキノコが生えている可能性がある」

「わかりました、それでは探して来ます!」


 フェンネルが指し示した場所にティーナは駆けていく。フェンネルはそこをティーナに任せ、自分は草むらから食べられる草を探すことにした。


 数分後。ひと束の草を手に持ったフェンネルがティーナの元へ向かう。


「ティーナ、これを見ろ」


 フェンネルはティーナを呼び、手に持った草を指し示す。


「これはハーブだ。匂いを嗅いでみろ」

「……! 何だかスパイシーな香りがしますね?」

「そうだ。これを鍋に入れるといい味が出るぞ」

「美味しそうです」


 フェンネルの作る野営飯を思い出したティーナは唾をごくりと飲み込んだ。


「それで、そっちはどうだ?」

「あ! ちゃんとキノコ見つけましたよ!」


 ティーナは得意気にそう言ってフェンネルにキノコを見せる。


「ほら、こんなに……」

「うわっ、ティーナ! お前それは毒キノコだ!」

「……え?」


 フェンネルに顔をしかめられて、ティーナは持っているキノコに目を落とす。ティーナが持っているのは、紫がかった斑点模様の傘のキノコだった。


「こんなに美味しそうなのに?」

「バカか!」


 即座に怒鳴られたティーナは肩を竦める。


「ものすごく不味そうじゃねえか! これは誰が見たって食べちゃまずいやつだろう!?」

「そうでしょうか……?」


 ティーナは首を傾げた。


「ほら、こっちに食べられるやつがあるじゃねえか」


 側にある木の陰に生えたキノコをフェンネルが取る。それは茶色の大ぶりの傘のキノコだ。


「これはよく俺が野営飯で使うキノコだから見たことあるだろう?」

「そうなんですか?」


 ティーナは目をパチクリとさせている。


「あまり美味しそうじゃないなと思って見逃しました」

「何でだよ!」


 鋭いツッコミを炸裂させたフェンネルは頭を抱えた。


「まぁいい……次は何か動物を狩れたらいいんだけどな」

「動物ですね」


 さっと辺りに目を向けたティーナは突然走り出す。フェンネルは何事かとその様子を見ると、ティーナは素早く走り抜けながら剣を抜き、地面に突きつけた。


「隊長、これはどうですか?」


 返り血を浴びながらも笑顔で仕留めた動物を持ってくるティーナを見て、フェンネルはまた頭を抱えるのだった。


「こいつ、やっぱりどこか狂ってる……」

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