第116話

 その日もいつもの如く、桜の家に行きインフィニティにログインした。予選を観戦しつつ素材集めをする。この日の予選は時差の関係か外国有名プレイヤーがかなり多く出場していた。要注意人物をチェックでもしようかと思ってたのだが、よくわからず、実況がメインモニターに取り上げる選手を流し見する程度で終わってしまった。

 んで、その翌日、知華が言っていたきりぼし大根が参加した予選だが、確かに参加していた。しかし、これといった変化は見受けられず、試合開始するとギルドメンバーらしき数十人と合流して見事な団体行動を見せて勝ち抜いていた。一緒に参加しているはずの知華もどのキャラだったのかもわからなかった。もしかしたら俺がいないという情報を聞いていて、いつも通り戦えていたのかもしれない。

 そんでもって俺の予選当日…結局対策練ったり色々準備したかったのだが、知華の件とかで何もできていない…リリの武器や小麦粉さんの防具を揃えたりしたくらいか?

 学校から帰ると早速桜の家からログインする……もうなんかルーティーンになってしまっていてびっくりする。

 ドラグルズの広場にログインすると目立つところにヤマトとカレンがいて、何かを話しているようだった。

 「お待たせ」

 「ん」

 ヤマトは特に何も言うでなく頷くのみ。相変わらずの王…。

 「カケル、頑張ろうね」

 「おう」

 カレンは心なしかケモ耳が垂れていて不安そうなお顔、まるで怯える狐のようだ。

 「緊張してんのか」

 「うん…なんかログインしたら急に本番なんだなぁって…」

 「ま、作戦は立てたし、ダメな時はダメだ。リラックスしろ」

 俺が言うとカレンは黙ってコクコクと小刻みに頷く。

 「カケル…ダメな時でも決勝で当たらないといけないんだからあなたは負けたらダメよ。カレンさんもカケルと一緒に行動するならしっかり」

 「いや、緊張させたらいかんだろ」

 ほら見ろ、王が直々に変なこと言うからカレンのケモ耳が垂れまくってる。

 「そういえば小麦粉さんは?」

 ログイン状況を確認するとオンラインになっているが、姿が確認できない。

 「こむたんはトイレ行ってるって言ってた…緊張するんだって」

 「おう…まじか…」

 何か意外だな…小麦粉さんも緊張すんのか、大丈夫っす~とか言いそうだけどね。

 「カケルさん」

 後ろからやたらといい声で呼ばれる。振り向かずともソラノだとわかった。

 「ども」

 「挨拶が短いなぁ……。とりあえずカケルさん頑張ってくださいね。見てますからね。まぁ応援とかしなくても余裕で予選突破しそうですけど」

 「……うーん、どうですかね……余裕では無理かも」

 「予選突破できないって言わないあたりに余裕が感じますね。ふふ」

 ソラノはすんごい笑顔で言う。なんだかヤマトの予選を観る時より楽しそうな顔をしていらっしゃる…。

 予選まで少し時間があったが、カレンはそれどころではなさそうだし、小麦粉さんはどこにもいない……大丈夫か?ヤマトはカレンの緊張を解そうと色々話しかけているが、カレンの顔色が悪くなっていってる気がする…。それプレッシャー掛けてませんか?

 俺たちの作戦はシンプル。街中央に差し掛かる南の路地に集まり、協力してこの予選を切り抜ける。もし30分が経過しても集合できない場合は街中央から離れて俺が雷天黒斧を装備して落雷した位置に集合……まぁそんな感じで細かくプランを設計している。集合がキモになる……。

 一番の心配は俺か……初日のヤマトレベルではないが俺にもそれなりの対策がとられているはずだ……。一撃必殺を決めながら突き進んでいくなんて無理だろう、俺の雷天黒斧は装備するたびに落雷する。しかも集合できなかったら30分は雷天黒斧が使えない…。使ってもいいが、なるべく脱落者も少ない状況+集合できていない状況では落雷で俺の位置を知られたくない……。ここにきて俺のユニーク武装が仇となるとは……ほんといい感じにメリットとデメリットが存在するな…。あの変態、雅ってやつも好き勝手に贔屓野郎とか言わないで欲しい…。そういえば、あいつも水曜参加とか言ってた気がするんだよなぁ……参加してるんだろうか…?

 そんなことをあーだこーだと考えていると、予選会場に転送するためのメニューが表示された…。これを承認するとしばらくカレンとも話せなくなる。

 「カレン、大丈夫か?」

 「うん……」

 「さっきも言ったけどさ、作戦も立てたし、準備もしてる。大丈夫だろ」

 「うん……」

 「負けても死ぬわけじゃないんだし、気楽に行こ」

 「……でも、ヤマトさんが負けたら死ぬと思えって」

 「おい」

 ヤマト何言ってんだ?という視線を送ると、王は何食わぬ顔でいた。ていうか、不服そうに口を尖らせてる。

 「私はいつもそういう気持ち」

 「……だろうな…」

 「カレンさん、カケル。頑張って」

 ヤマトはふっと笑うと、銀髪が揺れた。

 「カレンちゃん!カケルさん!行ってこーい!」

 ソラノがわざとらしくカレンにドーンとぶつかりながら言うと、カレンは少し笑って、うん!と返事をした。

 するとチャットが飛んできた。

 「お疲れ様っすー!先に行っててください!ギリギリまで粘ります!」

 小麦粉さんだ…。それを見たら何だか俺とカレンも顔を合わせて笑ってしまった。

 よっしゃ、じゃあ頑張りますか!


 

 

 

 

 

 

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