第115話
「翔ちゃんもう帰る?」
「おう」
「んじゃ帰ろ」
「いいのか?」
そう言って俺はリリがさっきまでいた女子グループの方に目を向けると、その中の人一倍目立つ女子と目が合った。名前何だったかなぁ~?グループのリーダー的な存在なのだろうか?と思考を巡らしていると目が合った女子は少し笑みを作ってペコリと会釈をしてきた。やめろ!俺みたいなオタクはすぐ勘違いするんだぞ、名前後でリリに聞いておこう。
「うん、大丈夫だよ~」
リリが女子グループの方に手を振りながら言う。
「そうか?ならいいけど」
「ん!」
いつもの如く自転車を駐輪所に取りに行き、校門前で待ち合わせる。そしてまたいるもの如くリリは遠慮なく自転車のカゴに自分のカバンを押し込んだ。今日は開口一番で「スタバ!」とは言ってこないのでまっすぐ帰る感じなんだろう。なんだかんだ喋りながら少し歩いたところでリリは急に俺の方を向いた。
「翔ちゃん、なんか噂になっとったよ」
「ほえ?」
間抜けな声が出てしまった。
「え、どんな?」
男の子は噂になるのが大好きである。噂になった男とかちょっとしたステータスでそこら辺のパリピ男子だったらSNSでマウントとるまである。いい噂に限るが!
「一年の女子にキモ!って言われてたって」
「あ~」
それか~!ていうか、噂になるの早くないか……。
「心当たりあるんだ……。それでさっきケイカたちと話しとったとよ」
「ケイカって?」
「帰る前に翔ちゃんに会釈してたじゃん!ほんと女子の名前覚えんよね」
「話す事ないしな~」
なるほどケイカちゃんって言うのか!しょうおぼえた!あ、でもその話題を話してたってことはケイカちゃんも知ってるわけで……あの笑顔で会釈の意味も少し変わってくるぞ?うーんあれ今思い出したら苦笑いだったかもしれない!?しょうわすれる!
「で?まさかと思うけど、その一年生って……」
「お察しの通り、きりぼし大根のアレ」
「なんでそいつにキモって言われないかんと!?」
「ん~特に何も言ってないんだけどなぁ」
リリを見ると少し顔が赤くなっていた。あ、これ結構怒ってらっしゃるな……。
俺は知華と話した内容をリリに話した。もちろん名前を伏せて。
「なんッ!それッ!ムカつく!翔ちゃんがキモいって言われただけやん!」
「改めて言わなくていいから……」
「あたし、翔ちゃんがなんかキモい事でも言ったのかと思ってた!」
「思ってたんかい」
「翔ちゃん結構有名人なんだからさ、もう少し気をつけた方が良いよ?意外と見られとーけんね?」
「そうか?」
ネットの方ではSNSのフォロワーの数とか青王杯でそこそこ人に知られてる感覚はあるが、実生活の方ではそんなに有名扱いをされたこともないので実感が湧かない。まぁ本名で活動していなかったり、うちの高校の教師達がやけにeスポーツに理解があったりとそういった配慮があるのかもしれない。リアルの方では男子連中にたまに話しかけられる程度で、被害と言えば知華の「カケル死ね」落書きくらいだ。割とぼっちだったのがここにきて効いているのかもしれない。
「そうよ!さっき話してた子たちもインフィニティは詳しくなくても翔ちゃんが有名なのは知っとーけん!」
へー……。それはちょっと嬉しい。
「まぁ気をつけるわ」
「ん!あとその一年生やっぱどうにかした方がいいっちゃない?翔ちゃんが甘すぎると思う!」
「どうにかした方がって言われてもなぁ……無理だろ?それに一応抑止力になる証拠は持ってるわけだし」
「……」
リリは押し黙る。
「とりあえず、明日の試合にきりぼし大根が出るらしいから様子でも見てみよう、どんな状況かもよくわかっとらんし」
「うん」
「あと見られてるってのも気をつける。変な噂広げられても困るからなぁ」
「あたしも結構言われるっちゃけんね……」
リリはぽしょりと言った。たぶんよく一緒に帰っているのを見られていることだろう。
「それはすまん」
「謝ることじゃないっちゃけどね……」
「そ、そっか」
しばし沈黙が続く。
そのまま歩いていたら、リリが向かう駅が見えてきてしまった。
「あ、翔ちゃん、あたしはここで!また後でね!」
「おう」
リリが軽く手を振ったので、俺もしゅぴっと敬礼みたいに手を立てて別れる。そしてリリは駅の方へ歩いて行った。
俺はその後姿をしばらく見送った。敬礼した手を握ったり開いたりしながら。
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