第114話
知華はいたって真面目な表情で言った。真剣。とてもとても冗談を言っているようには見えない。見えないが、とても内容はふざけていた。
「いや、何言ってんの」
「きりくんは明日の予選に出るんです」
「ほう」
「きりくんは明らかに先輩を怖がってます、何かトラウマになってるみたいで避けてるんです」
「よくそれで出ようと思ったな」
「私たち、ギルドのメンバーで説得したんです。私たちも出るからみんなでカケルを倒そうって」
「おい」
「それでやっときりくんが出る気になってくれて」
うんうん、凄くいい話だ。自分たちが慕う変態……じゃなかった、イケメンプレイヤーきりぼし大根をギルドメンバーみんなでサポートして優勝させようってんだな?いい話だ。俺が悪者になってることを除けばな!
「無茶苦茶過ぎでヤバいんだが……クソリプだったらスクショ撮って晒してるレベルだぞ。頭おかしいこと言ってるのわかってる?」
「……」
知華は箸を持ったまま硬直、それでも俺を懇願する目で見ている。
「まず、無理」
「……何でですか」
「何でですか!?」
まさか聞き返されるとは思わなかった。こいつかなり頭おかしいんじゃないのか!?
「とりあえず、俺は明日の予選には出ない」
「構いません、勝ち進んだ先で当たった時に負けてくれれば」
「……何で俺が負けないといけないの?俺に勝つとか負けるとかじゃなくて単純に優勝したらいいんじゃね?」
「ダメなんです、きりくん、先輩が怖いみたいなんです。先輩、きりくんに何したんですか?まさか脅迫とかそういう酷い事とか……」
「お前に言われたくないんだけど!」
自分がやったこと忘れてるんじゃないよね?この子!俺が少し声を大きめに言うと知華は目線を下げてもう冷え切ったであろう残りの味噌汁をずずずと飲んだ。
「何もしてねぇ、やったといえば試合の後殴ったくらいか?」
あの時はヤマトを侮辱した件で一発殴った。でもそれがトラウマになるだろうか?
「殴った!?試合で勝った後に殴ったんですか!?あんな姿にまでしてその後殴った!?サイアク!」
さっきまで俺に気圧されていたのに急にそう言うと、スマホを取り出して何やら打ち始めた。
「何やってんの……」
「今ギルメンのグループチャットに……」
「やめろ!バカ!あれはあいつも納得して殴られたんだよ!余計なことすんな!!」
知華は納得いかない顔だがスマホを触るのをやめた。危ねぇ!こいつ無駄に行動が早い!
「とにかくきりくん、先輩を避けてるし、怖がってて、脅迫とかもしてないんなら、なおさらきりくんの手でカケルを倒してトラウマを克服して欲しいんですよ!」
うーん、根っからのファンで本当にきりぼし大根を好きだからこう思ってんだろうが、俺は特に何かした覚えはないし非常に迷惑だ。そもそもゲームなんだし、嫌がっている人に無理矢理やらせるってのもどうなんだろうか……?
「とにかく断る」
「……後輩の女子がこんなに頼んでるのに?」
「急に後輩面するな」
「ケチ」
知華はそう言うとガツガツと定食の残りを食べ始める。
「だいたいな、あいつも一応大会のチャンピオン、白王だぞ?わざと負けられて嬉しいわけないでしょ」
「……」
「俺を怖がるのは俺と戦って勝手になった結果で、俺のせいじゃない、あの時は本気で戦った。むしろ――」
きりぼし大根と戦った時、あいつは俺のユニーク武装を盗み見て戦いを有利に進めようとした。それを「むしろ卑怯な戦いをした」と続けようと思ったのだが、知華は知っているのだろうか?こいつから見てきりぼし大根の姿はどういったものだったのだろうか?マジで卑怯な変態だったとしたら知華たちはこうまでしてきりぼし大根の為を想うだろうか?
「むしろ、何ですか?」
別に言ってもよかったが、実際、武器を予め調査して対策を立てるのは普通のことで、俺でもやることだ。それに今きりぼし大根をさらに侮辱するようなことをすれば、また知華が暴走するかもしれない。
「いや、何でもない。とにかく、お前がやってることはあいつの為になってないと思う」
「……!男のプライドとか言いたいんですか!?」
「別にそこまで言いたいわけじゃないけど……俺はわざと負けられたらムカつく」
「くだらな!!」
「お前も女だからって手加減されたらムカつくだろ」
「ムカつかないし!私もそこそこゲーム上手いんで!そんなことされないし!そんな気持ちわかりません!」
知華はそう言うとトレーを持って立ち上がった。そして俺を数秒睨みつける。さすがにその険悪な雰囲気は学食内でも目立ってしまったらしく。注目を集めた。
「キモッ!」
そう言い捨てると知華は食器返却口へ向かって行ってしまった。
キモッて……めっちゃ傷つくんですけど……ていうかきりぼし大根の方がキモいし……。
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