第89話
リリと解散するとさっさと家に帰った。家に着くと晩御飯が準備してあった。今日はぶり大根だ。母の姿はなく、別室で仕事をしてるようだ。
独りでもぐもぐとぶり大根を食べて食器を流しに、美味しかった。リビングを出て母に聞こえるように「ごちそうさま~」と言うと作業部屋の方から「はーい」と聞こえた。自室に戻って桜の家に行くため着替える。
「行ってきまーす」と玄関で言うと「行ってらっしゃーい」とまた聞こえた。最近何やら母も忙しいらしくこんな感じだ。もうこれが普通になっている。出かけるのを咎められないだけマシか……。
タクシーで桜の家に着くと門の前には寿司桶。また出前頼んだなあの富豪ニート。
アプリで玄関の鍵を開けて家に入る。いやー、最初は女の子の家に入るとか経験したことないせいで毎回もじもじしてたけど、慣れるもんだなぁほんと。エレベーターの呼び出しボタンを押して待っている間に洗面所へ向かう。
「あーあー……」
洗濯カゴにごちゃごちゃと服がぶち込まれてる。あいつ二日来てない間に溜めてやがったな……。とりあえずザッと中を確認しながら色物と白地のものを分けて洗濯機に入れていく。不思議と下着類がない。い、いや、別に期待してなかったよ?ちょっとだけね?ちょっとだけ!多分下着だけ洗ってんだな……んなことするなら服も一緒に洗っとけっつーの……。洗剤を入れて洗濯をスタートさせる。帰るころには乾燥も終わってるだろ。そんなことをしているうちにエレベーターが来ていたのでそれに乗って三階へ。そういえば18時過ぎるなら静かに入れって言ってたな。時刻は18時半を少し過ぎたあたり。
そろりそろりと三階の部屋に入る。
「うおっ」
少し驚いて声を出してしまった。ドでかい防音段ボールの塊が二つもあった。一つは俺がいつも蒸し焼きにされている防音段ボール。もう一つ桜がいつも座っている位置にもあった。今日の公式配信で少しも他の声が入らないようにしてんのか。チッ!これは覗けませんね!!
手前のPCデスクにはラップを張った小さなお皿があって、その上に置手紙が乗っていた。
「配信の準備があるから先にインしてる、声が入ると困るから開けないで。勝手にインしてて」
なるほどな。
「P.S.お寿司食べていいよ」
晩飯食って来たけど、寿司は別だ。ありがたい!
ウキウキして置手紙を退かすとラップに包まれたおしゅし!
「……うーわ」
思わず声が出た。玉子焼きとガリ。お寿司かこれ?なぁ!王の人間性が実によくわかる。これが無限王ヤマト様ですよみなさん。
おしゅしをありがたく頂き、俺もインフィニティにログインする。
特に用もなかったので今日はギルド部屋に跳んだ。
「あ、翔ちゃんやほ~」
テーブルにはすでにリリ……カレンが座っていた。モフモフの耳をフルッと動かして歯を見せて笑う。またこいつは本名呼びしおってからに……今回はお前のその顔に免じて許してやろう。
「小麦粉さんは?」
「さっき忙しくてインできないみたいなこと呟いてたよ?」
SNSを見てみると確かに30分前くらいにそう言っている。ゴールデンウィークの後だから仕事とかが貯まってるんですかねぇ……お疲れ様です。ほんとに。
ギルド部屋には大きめのモニターがあってその前のテーブルにカレンが座っている。俺もその向かいに着席。一応中世の貴族の部屋のような内装にしてあるのだが超近代的なモニターが普通にあるので不調和極まりない。
あと10分くらいで配信が始まる。
「ヤマトさんもうスタジオとかにいるのかな?」
「そうじゃねぇの?結構前からインしてたみたいだし」
「へぇ、そうなんだ。連絡あったの?」
カレンの声色がすこ~し変わったので目だけを向ける。するとカレンはこっちを見ていたのか目をモニターに戻した。ケモ耳がヒクヒクッと一瞬動いた。
「まぁ……うん」
「ふぅん。あたしはなかったよ」
「そうか」
カレンはそれ以上続けなかった。カレンは少し洋風な顔のアバターでメイクもしっかりしている、狐的な釣り目が横から見るととっても美しい……のだが、黙っておられるとすんごく怖い。実は最強の妖狐ですとか突然言われても納得してしまう。
なんか言ってくれたら少し誤魔化しつつやりとりした経緯を話せるんだが、それが出来る雰囲気ではなかった。
しばらく黙ってモニターを観る。インフィニティ関連商品のCMが流れている。最近はインフィニティのアニメも始まってそのCMも多い。
すると画面が切り替わり「まもなく開始いたします」という表示に。時間を見ると配信開始1分前になっていた。
何かが開始する前の1分前ってやたらと長く感じるよね。雰囲気のせいでさらに長く感じてる!この時間を利用して勉強したらめっちゃ頭よくなるんじゃないか?んなことない?ハイ。
くだらないことを考えていると配信が始まった。やっぱ長くないや。
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