第83話
「がぁッ!!はっ……!!!」
落雷の瞬間、俺は何ともなかったがヤマトは一瞬大きく声をあげて身体を痙攣させた。
見ると、ヤマトの鎧の半分くらいが吹き飛ばされていて、肌とインナーを露出させていた。
上げていた俺の右手にはヤマトの左腕の代わりに雷天黒斧が握られていた。
まだ俺の左手は首を掴んだまま。雷天黒斧をそれ目がけて振る。
「やらせるカァッ!!!」
ヤマトが言うとクニツクリの先端からジェット噴射。そうだ、そういえば前も先端から噴射させたことあったな。
「くそっ!!おおおおおおあああ!!」
掴んでいた手はなんとか放さなかったが、恐ろしい速さのせいで雷天黒斧を振ることはできずに一緒にフィールド中央まで引きずり戻された。
ヤマトは中央に来ると急制動をかけつつクニツクリをぶん回す。さすがに俺も左手を放してしまった。素早くクニツクリの射程外に後退して構える。
「何!あれ!」
「たまたま見つけたんだよ!!」
「効いたッ!」
「じゃなかったら困る!!」
ヤマトは相変わらず楽しそうに口元を緩ませ、クニツクリを構えなおした。
まだ余裕あんのかクソ……!だけど、かなり体力を削っているはずだ。仮に削っていなくとも防具の半分以上を失っているから、雷天黒斧をまともに叩き込めれば一撃だ。しかし、それは俺も同じ。体力は半分以下だ、クニツクリを食らうだけで終わる可能性がある。
つまり、次ので決まる。
「……」
「……」
ヤマトは構えた後、身動き一つしない。やけに歓声が小さく聞こえる。耳鳴りが聞こえるんじゃないかってレベルだ。本当はテンペストイーグルのリロードでもしたいがそんな隙見せた瞬間に接近されて殺される。
動けねぇ……。
一つ気が付いた。ヤマトはさっきまでのニヤケ顔ではなかった。口を真一文字に閉めて、眼をかっ広げて俺を睨むのではなくてただ視ていた。その眼は何というか獲物を狩るために観察している動物の眼だった。ただ
「……」
「………ッ」
ヤマトが動いた。
地面を蹴って俺を無理矢理射程に捉える。
クニツクリのブースターを一個噴射させての横振り。速いが俺はそれに対応できる。身体を引いてギリギリで避ける。
そこに雷天黒斧を縦に振る。
ヤマトは軽いサイドステップで回避。
反対方向からまた横振り。ブースターの加速を添えて。
ブースターで回転の勢いを殺してすぐ次の攻撃に移行できるのは地味に脅威だ。
「ッ!!!!」
俺は前転してヤマトの脇を
すぐに斜め下から雷天黒斧を振る。
するとガラ空きだった脇腹にざくりと刃が入った。あとはトリガーを引くだけ!
「アアあああああァァァあッ!!!!!!!!!!」
「はッ!?」
ヤマトは雄叫びをあげて無茶苦茶な身体の捻り方でこちらを向き、向いた瞬間に斧から離れてクニツクリをぶん回す。それは見事に雷天黒斧に当たってそれと一緒に俺の身体も斜め上の中空に飛ばされる。
あれ対応すんのかよ!!
ヤマトを確認する。クニツクリをこちらに向けていた。ブースターが点火するのがわかった。
「っ!!!!」
反射的に雷天黒斧を盾にする。その瞬間には雷天黒斧にクニツクリは衝突していた。甲高い金属音が響く。
俺は勢いのままに突き上げられる。闘技場の三階くらいの高さだろうか?地面が遠い。俺は雷天黒斧にできるだけのバフをかける。噴射用のだけではなくてエレメンタルアップもだ。
ヤマトが噴射を止めるとすぐに落下が始まる。
少し下に位置するヤマトは落下に身体を任せて俺を見ていた。
何かを仕掛けてくるはず。俺なら着地を狙う……その瞬間は隙が生まれるから。そうじゃなかったらブースターの噴射でも使って追撃してくるはずだ。それをしてこないのは先に着地して仕掛けたいから。
それなら俺はその裏をかいて決めてやる。
俺は着地までにエレメンタルアップを重ね掛けする。きりぼし大根の時のような威力は出ないかもしれないがもう十分に雷属性攻撃が強化されているはず。
やけに落下が遅く感じた。まるでここだけ重力が違うかのようだ。
地面が迫る。
ヤマトが先に着地した。すぐにクニツクリを
「カケル!!これで決めるから!!!」
ヤマトがそう言うとブースターは点火し、いつでも発射可能な状態に……あのセミオーバードブーストってやつか……!!
次は俺が着地する番だ。
「フルオーバードブースト!!!!!!!!!!!!!!」
叫び声と同時にクニツクリを掴んだヤマトは発射された。その速さはこれまでで一番速く、正直言って目で捉えられないものだった。今までの攻撃は
着地の瞬間、雷天黒斧の排気口を地面に向けて攻撃力アップスキルをかけた。そこから噴射が開始されて俺の落下は止まり、少し浮き上がった。着地のタイミングをずらした!
避けられなくても元からそこに居なければ関係ない!猛スピードのクニツクリが俺のギリギリ真下を通過しようとする。ここを通るのがわかっていれば通過する瞬間にトリガーを引くのみ!!
雷天黒斧をくるりと回してトリガーを引く。
その瞬間、誰だかが名付けた『
光が収まる。
何もなく、ただ落雷の跡がいくつも地面に刻まれていた。左後ろから声が聞こえた。
「クニツクリ!!!!」
カレンが言うところの「コーン」という音が響く。
振り向く。
そこにはクニツクリを呼び出し、すぐに俺に殴りかかるヤマトがいた。
まじか。クニツクリを途中で手放したのか……それを囮にして撃たせて、また呼び出した。さっきの俺を真似たのか。
そう思った時には地面に叩きつけられていた。
右上に映る残りわずかだったHPは一瞬でゼロになる。
負けたのか。
試合終了のブザーが鳴った。観客が一斉に歓声をあげる。不思議とその音と声が心地よかった。
見上げると何もかもボロボロで、もうほとんど裸なんじゃないかというきわどい姿のヤマトが立っている。
「……」
ヤマトは何も言わない。自分が負けたかのような顔をしている。なんて顔してんだよあんた。
「おめでとう」
俺がそう言うと、やっと息をすることを思い出したようにヤマトは表情を崩した。そして少しむず痒そうな顔をして言った。
「……うん」
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