第82話
雷天黒斧は届かなかった。
ヤマトはクニツクリの反対の面にあるブースターをもう一つ展開。逆噴射をかけた。当然回転は逆回転となり、気が付いた時には冷気を帯びた鉄の塊が迫っていた。
「ちくしょっ!」
狙いをつけずに逆回転したのか俺の肩にクニツクリがぶち当たり、俺の身体はピッチャー返しでもされた球のようにまっすぐと飛ばされる。
面白いように身体は飛距離を伸ばし、かなり遠くにあったはずの壁に叩きつけられた。
「くっそ……いてぇ……痛くねぇけどいてぇ」
なんなの?このゲームこんなに吹っ飛ばす演出とかあったか!?
確認すると体力はもう半分は切った。
俺は?ヤマトにダメージ入れたか?これでいいのか?あいつは満足したか?
別に俺の意識が飛ばされたわけでもないのですぐに壁から剥がれ、前方を見据える。
「……」
このフィールドの中央に立つ無限王は俺の思考などお構いなしのようだ。
クニツクリの先端をこちらに向けて構えて、根元の部分にある四つ全てのブースターを展開させていた。王者は常に確殺の攻撃を狙ってくる。
「ブースター
ヤマトは叫ぶ。
これはあれか……あの時俺を串刺しにした攻撃。これを受ければ負ける。
ブースターは点火される。この闘技場の歓声をすべて掻き消すかのような噴射音。後方に煙を大量に吐き出す。
あの時は一撃入れたら勝てるとか思ってたっけ?バカだなぁ……今はもうここを消し飛ばしてしまえるようなミサイルが俺を狙ってるかのような感覚、プレッシャーだわ。
アレが発射されれば終わりか。しょうがない。結構頑張ったかな、俺。
「セミオーバードブースト!!!!!!!!!!」
来た。
ヤマトが言った瞬間に文字通り発射される。
その速さはさっきのフラッシュラインなんかと比べ物にならない速さだ。
ヤマトはその服を噴射の炎で燃やしながら直進してくる。
だが俺の身体は意外と動いた。不思議と対応できないと思わなかった。その証拠に実際、今も服が燃えてチラリと覗く胸元に目が行っていた。あれ?
俺は雷天黒斧を腹の前に構えて、盾にする。ソラノの居合斬りを受け切ったんだ。大丈夫、ガードできるはず。
次の瞬間、激突した。雷天黒斧で受けた衝撃で壁に叩きつけられる。エネルギー刃が先程のように火花を散らす。
一撃死は免れた。
ていうか熱!!!熱いんだけど!!ダメージ食らってる!!じわじわダメージ減ってる!!!
「カケル!!!私は楽しい!!!!」
ヤマトは服を燃やしながら笑っている。なんだその満面の笑顔!ジェットコースターでも乗ってるのかよ!!
「そうかよ……」
満足していただけたようで、それはよかった。
俺は……。
「楽しくない」一瞬そう言おうとした。だけど違う。違うな。俺はいつからヤマトが満足して戦えるならそれでいいみたいな思考になっている?これがしたかったんだ。楽しくないはずがねぇ。
「俺も……楽しい!!!」
それを言うとヤマトはフッと笑った。しかし、その攻撃は止まない。まだ俺を攻め続ける。
俺は雷天黒斧で受けながら身体を横に少しずつずらしていく。そして、雷天黒斧から俺の身体が完全に出る瞬間に雷天黒斧を消した。
受けるものが無くなったクニツクリは当然、壁にそのまま直進して突き刺さる。
「ちっ!!!」
もちろんそれを確認したヤマトは噴射をやめてクニツクリを抜こうとする。
俺は素早くヤマトに肉迫。
ヤマトは雷天黒斧かテンペストイーグルが来ると盾がある左腕を咄嗟に出した。
「え?」
ヤマトは珍しく腑抜けた声を出す。なぜなら俺は何も持っていない。
まずその左手を掴んだ。
「クッ……!何を!!?ンぐ!!」
そして、もう一方の手でヤマトのその細い首を掴んだ。もちろん首絞めなどそんな攻撃はない。動きを止めたい、捕まえたいだけだ。ヤマトの鎧は色々なところが壊れていて襟がある首とかいつも隠れている肩とか色々と露になっていた。
近すぎて腕を振るえずクニツクリで攻撃もできない。
あの時もそうだ。ヤマトに雷天黒斧を撃ち込めた時。あの時はクニツクリが地面に突き刺さって隙が出来た時だった。
振りほどこうとヤマトはもがく。
「放せ……ッ!」
やることはあれしかない。
俺はヤマトの腕を掴んだ右手を無理矢理上に掲げた。
息を吸い、そして叫ぶ。
「雷天!!!!!黒斧!!!!!!!」
俺は雷天黒斧を呼び出す。
その瞬間、俺に、ヤマトに爆音を轟かせて一本の雷が落ちた。
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