第78話

 一通り練習を終えるとドラグルズに戻ることにした。いろいろと試してみてわかったことは、雷天黒斧に回復スキルを何回かかけて手元の部分が赤く光ってくるとチャージは完了らしい。そのあと攻撃力アップ【中】をかければ排熱口から数秒噴射が行われる。噴射中にやれることは任意の方向への移動、ジャンプ、あとは勢いを乗せた攻撃だ。デメリットのダメージは攻撃力アップ【中】くらいならまだ戦闘に組み込めるレベルだ。それ以上となると急にダメージ量が増えて話にならない。とにかくだいたいヤマトの予想通りだった。似たようなユニーク武装を持ってる人を知ってるとか言ってたけど、その先駆者様に感謝だな。

 街に入る門を通過する。ここで軽快なリズムのBGMに切り替わる。

 「付き合ってくれてありがとな」

 隣を歩くカレンに言う。歩くたびにケモ耳が揺れていてほんとリアルだなーと感心する。

 「いいんよこのくらい!ていうか、全然即死せんかったしね」

 「まぁ攻撃力アップ【大】を使っただけで体力あれだけ削られるの見たら試さんでもわかるからな」

 「使った時ロケットみたいに飛んでいったやん!めっちゃ面白かった!」

 カレンはキャッキャと笑う。

 「面白かったって……いきなりあの高さに飛ばされた身になってみろよ。死ぬかと思ったぞ」

 攻撃力アップ【大】を使った時はいきなり十メートルくらいの高さに飛ばされた。点火するスキルのバフ倍率によって噴射力なんかが違うんだろうな。しかしながら、ほぼ現実と勘違いしそうなリアルさの中で飛ばされるとほんとちびりそうになる。ちびってないけどな?

 「でもいろいろ分かったんやし、今日は勝てるね!」

 「簡単に言うなぁ……」

 「いけるよ。カケルなら」

 あのなぁ……と続けようと思ったがカレンを見ると、その目は俺をまっすぐと見ていた。そういえばこいつ俺を青王杯に誘った時もこんな顔してたっけ。

 「かもな」

 「うん!」

 カレンは満面の笑みで返事をする。

 実際ここまで来れたんだし、カレンが言うなら勝てるのかもしれないな。

 「さて、それはそうとこの後どうするかなぁ……控室に行くにはちょっと早すぎるし」

 「ギルド部屋戻る?」

 「そうするかぁ」

 

 

 「あ、カケルさぁん!」

 ギルド部屋に行くとなぜかソラノが椅子に座っていた。あれ?部屋間違えたかな?これはバグだな……バグ。違う人の部屋に入ってしまうとか致命的なバグだね!

 「大野城さんこんにちわ!」

 「こんにちわ~。じょあたそとかソラノでいいよ~」

 カレンなんで普通に挨拶してんだ。ソラノはあの外向きの完璧な笑顔で俺に手をフリフリしている。

 「なんでいるの……」

 「え?私?」

 ソラノは目を大きくして自分を指さして言う。

 「いや、この場合そうに決まってるでしょ」 

 「だってこのギルドに入れてもらったもん」

 「え」

 カレンを見る。

 「じょあたそが入りたいって言ったら、こむたんが喜んで入れてたよ?」

 小麦粉さぁぁぁぁん!!!忘れかけてたけど小麦粉さんがこのギルドのリーダーだったぁぁぁぁ!ていうか、いつの間にそんな話してんだよ。

 「小麦粉さんなら断らないだろうな……声優だし」

 声優が一緒のギルドに入ってくれるとか最高だもんな普通。

 「あたしもリーダーだったら断ってないよ!」

 「あっ!カケルさん、自分がリーダーだったら入れてなかったってやつですか~?」

 ソラノはさっきの完璧スマイルから一変、フグのように頬を膨らます。

 「いや、別にそんな事なくもないけど」

 「なくもないってひどーい!」

 ほんとやり辛いなぁこの人……。

 とりあえずソラノの向かいにカレンが座ったので、俺はその隣に座る。

 「ていうか、なんであなたSNSだと俺の事カケルくんなのに、会うとカケルさんって呼ぶんですか?」

 「え?翔ちゃんがよかったです?」

 うっ!その提案は非常に魅力的ですが。

 「ダメです」

 「え~。まぁいいですけどね?呼ぶときは勝手に呼ぶし」

 「呼ぶんかい」

 俺が言うとソラノは軽く笑った。そして続ける。

 「まぁ、特に意味ないですよ?ないですけど、イメージ的にカケルくんで呼んだ方が仲良し感出るかなー?って」

 「仲良し感出しちゃダメでしょ」

 そんなに仲良くないし!仲いいと思ってるなら今頃とっくにドヤってるし!

 「えー!仲良しになろうよ~!!」

 そう言うとソラノはテーブルに突っ伏してジタバタする。

 「ダメです!」

 「ほんとは嬉しいくせにぃ」

 嬉しいけど!!ダメです!!

 「はぁ……」

 ソラノはひとしきり暴れると溜息を吐いて大人しくなった。忙しいなこの人は……。

 「カケルさん、今日はヤマトに勝てそう?」

 「カケルは大丈夫です!」

 なぜかカレンが答える。

 「何でお前が答えるんだよ」

 「えへへ」

 カレンはとろけた感じの笑顔で言う。尻尾でもあればぶんぶん振ってそうだ。

 俺は気を取り直して返事する。

 「まぁ勝つ気ではいます」

 俺が言うと少しの間、じっと目を合わせてきた。

 「あー、そうだったね。カケルさん負ける気はない人だったもんね」

 「?」

 どういう意味だ?俺が意味を考えていると、ソラノはくすりと笑った。

 「頑張ってね。応援してる」

 ソラノはしっとりとしびれる様な声で言う。ほんと声優ってのはずるい。

 「そんな声で応援されたら頑張るしかないっすね」

 「カケルさん初めて私の声褒めた気がする!」

 「いや、そんなことないでしょ」

 「そんなことある!!ていうかフォロー返せー!」

 「カケルまだ返してないの!?」

 「そうなんですよー!酷くないですかー?今日の試合勝ったら返してくださいよね!!」

 なんかフラグのようなフラグじゃないようなことを言いおってからに!でもな!俺はヤマトに負けたらお願い事とやらを聞かなきゃならんのだ!負けるわけにはいかん!その時は仕方なくフォロー返してあげる!仕方なくなんだからね!!

 するとソラノは立ち上がった。

 「そろそろ私、今日のライブのリハがあるので抜けますね」

 「ほー。なんか準々決勝終わってからほんと忙しそうっすね」

 「そうそう、急に仕事増えちゃって……まぁ嬉しいんですけどね?カケルさんのおかげかも」

 「俺?」

 「うん!なんかいろいろ!落ち着いたらお礼するから楽しみにしてて!じゃあ!カレンちゃんもまたね!」

 「じょあたそさんも頑張って!」

 カレンは手をぶんぶん振る。

 ソラノはそれに少し応えて手を振ると、どこかへテレポートして行った。

 「俺たちもそろそろ行くか、集合まで一時間もないし」

 「うん!」

 「そういえば小麦粉さんは?」

 「まだログインしてないっぽいね?たぶん試合は観戦すると思うから会えるとは思うけど……」

 あのお疲れ様っすを聞かないと調子でないからなぁ……。試合前には聞きたい。

 とりあえず俺たちは部屋を出ることにする。あとソラノのお礼って何ですかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

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