第79話

 「お疲れ様っす!」

 よし、これで勝ったな。

 闘技場に行こうとギルド部屋を出て、ドラグルズの広場に行くとちょうど小麦粉さんがログインしてきた。その第一声がこれだった。勝ったな!

 「小麦粉さんお疲れ様っす!」

 「こむたんおつかれー!」

 「ういっす。今からですか?」

 小麦粉さんはそう言って親指で闘技場の方向を指す。飲み会に行くみたいなテンションで言うのな。

 「そうですそうです。今日は集合も早いんで」

 「こむたんも一緒に行こー!」

 「行こ―!!」

 カレンの掛け声に小麦粉さんも乗る。今から俺たちどこに行くんだっけ……遠足?

 今日は日曜日で決勝戦という事もあって闘技場に繋がる道は昨日以上に人でいっぱいだった。

 「うへぇ……」

 「今日で最後なんだから文句言わない!」

 そう言うとカレンは背中を押した。

 「……はいよ」

 俺も覚悟を決めて前に歩き出す。人ごみに入ると、そこかしこから「カケルだ」と声がしだした。

 「人気者だね、カケル!」

 俺よりもカレンが嬉しそう。まぁ青王杯に誘ったのお前だしな……プロデュース大成功ですね!カレンP!

 「人気って言うか……珍しい生き物的な感じじゃね?」

 「そんな事ないやろ~」

 カレンがそう言うと小麦粉さんもうんうんと頷く。

 そんなもんかね?と首を捻っていると、ひとつ気が付いた。

 みんな道を開けてくれている……。

 そして、人と通り過ぎる時に「頑張れ」とか「応援してます」とか言ってくれる。昨日も言われたが、昨日は直接俺を引き留めて言ってきたりだったし、こんな風にモーセの十戒みたいに道を開けてくれたりはなかった。

 なんじゃこりゃ……。みんな遠慮してるのか?おかげで足取りはスムーズだけどよ。

 「なんか、すごいね」

 「だな……」

 カレンもさっきまでキャッキャしていたが、次第に大人しくなった。小麦粉さんは黙ってにこにこしている。

 声をかけてくれた方に軽く会釈とかを返しながら歩いていると意外と早く闘技場の入口が見えてくる。すると、入口の方から人が数人駆けて来るのがわかった。

 「ん?」

 まだ遠いからわからなかったが、近付いてくるとみんな同じような格好をしているアバター……マスコミ用のアバターや!さらにその後ろからも何人かがこちらに走ってきている!

 「カケル選手!試合前に一言!」

 「今日は黒槌こくづちを見られるんでしょうか!?」

 「無限王ヤマトとは一度戦っているわけですが――――――」

 さっきまでの雰囲気とは一変、一気に囲まれてしまった。カレンも小麦粉さんも遠くに追いやられてしまって、コチラをただ見ることしかできないようだ。

 質問はもう何を言っているのかよくわからない状態で、抵抗してみるがどうにもならない。これは闘技場の中に入ってしまうしかないだろう。幸い、もう闘技場に入るアイコンも表示されている。

 すぐにでも押そうと思ったが、思いとどまった。まだ言う事があった。

 俺は少しジャンプしてカレンたちを確認した。すると二人とも手を振ってくれている。その後ろには俺が揉みくちゃにされているのを見ている大勢の人たち。

 「カレン!小麦粉さん!!いってくる!!!」

 俺が大声で言う。

 「うん!!!!いってらっしゃい!!!!」

 カレンが手を振りながら返してくれた。

 「頑張るから!!!!!」

 俺はそう叫んで、闘技場へ入るアイコンをタッチした。

 

 

 

 

 

 

 

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