第77話

 シャワーを浴びてさっさとログインする。場所はいつものギルド部屋。ヤマトはあとでログインするらしい。

 部屋にはカレンが一人、椅子に座っていた。俺を見ると耳をミコっとじゃなくてピョコっと立たせる。

 「あ、おはよー」

 「おう」

 「……」

 カレンは俺をじっと見つめる。あまり見つめ合うのも恥ずかしいので、ケモ耳をたまに見たりしている。挙動不審やなー、俺……。

 「ニューワールド返してもらえたみたいやね」

 「あ、うん。おかげさまで……」

 「別にあたし何もしとらんし」

 カレンはつまらなそうに言う。昨日くらいからヤマト系の話題だと反応薄いよな。実際会ってる時はキャッキャウフフでお話してるのに……。女子ってわからね。

 とりあえずそんなこと気にしてもしょうがない!俺は早速切り出す。

 「あ、カレン暇?」

 「暇だよー。っていうか、翔ちゃんの応援しか予定ないし」

 「ほー。それは素晴らしい」

 「でしょ~」

 カレンは歯を見せて笑う。このケモ耳ちっぱい娘かわええなほんと。

 「ちょっと練習に付き合ってくれない?」

 「ん。いいよん」

 即答。ほんといい子だ……ありがとうカレンのお母様。即答してくれる子に育ててくれて。

 「んじゃ、とりあえず移動するか」

 

 

 という事で俺とカレンは街を出てモンスターの現れる草原に来た。今回はそこまで時間もないので近場だ。

 「付き合うって何したらいいん?」

 「とりあえず俺が死んだら蘇生してくれ」

 「翔ちゃん死ぬの!?」

 なんかさっきからめっちゃ本名呼びしますね……二人っきりだからいいけどやめてくれません?俺ちゃんとカレンって呼んでるやん?

 「昨日ヤマトに雷天黒斧の新しい使い方を聞いたからその練習。反動でダメージが入るし、やったことない事もするから一撃で死ぬかもしれんだろ」

 「あー、なるほど。ていうか、ヤマトさん今日戦うのにそんな事教えてくれたんやね」

 「あとであれ使えてたら勝ってたとか思われたくないんだとさ……」

 「あはは……なるほど。言いそう」

 カレンはしょうがない感じで笑う。

 「つーことでよろしくお願いします」

 「しょうがないにゃぁ」

 カレンは腕組みして言う。リアルだと胸がめっちゃ寄せられてるんですねこれ。と余計な事考える。

 「ありがとうございます!」

 俺はへへー!と頭を下げた。

 「今日勝ったら色々奢ってもらうけんね!そのくらい協力する!」

 「そこかよ。まぁもちろん奢るけどさ」

 それを聞くとカレンはへへーと笑う。

 とりあえず俺は雷天黒斧を呼び出す為に右手を掲げる。

 次の瞬間、爆音の落雷と共に雷天黒斧は現れた。それを握る。そうそうこの感触……呼び出せない時間は昨日一日しかなかったはずなのに彼女と再会したような気分だ。彼女出来たことないけど。

 ふとカレンを見ると尻もちをついていた。白いパンツ凄く見えてます。ゲームだから見慣れてるんだけどね?うん。全然嬉しくないし。ありがとうございます。そんなことより何で倒れてる?

 「どうした?」

 「翔ちゃんがそれ出したとき風圧があって倒されちゃった」

 カレンは座ったまま言う。まだ見えてる。ありがとうございます。

 「へぇ……風圧あったのか……」

 そういえば人の近くで雷天黒斧を出したことがなかったな……きりぼし大根と戦う前に練習した時はカレンも小麦粉さんも離れてたし。もしかして呼出しにダメージ判定とかあったりするのか?気になってたんだよな、出てくる時の演出が派手なの。

 「いやぁ~ビックリしたぁ」

 そう言いながらカレンは立ち上がった。ご褒美タイムは終了か。

 「ちょっと試してみるか」

 俺はとりあえず雷天黒斧を片付けてそこらへんで草を食んでいる牛型モンスターに近付く。やたらと体力はあるが、攻撃をしなければ何もしない、もちろん逃げもしない。

 「何しとると?」

 カレンが心配そうに俺の奇行を見る。お願い、そんな目しないで。

 「見てろって」

 俺はまた右手を掲げた。再び耳をつんざく落雷と共に雷天黒斧は現れた。それを握る。

 モンスターはというと悲鳴をあげてのけ反った。恐らく風圧を受けたんだろう。しかしダメージを受けた気配がない。そのまま方向転換してトボトボと逃げていく。

 「うーん……」

 俺はそれを小走りで追いかけ、また雷天黒斧を片付けてから次はヒシッと抱き着く。生暖かさが感覚フィードバックされる。

 「翔……ちゃん……?」

 カレンは心配そうに俺の奇行を……。お願い!そんな目で見ないで!!

 そんな視線に負けずに手を掲げて、雷天黒斧を呼び出した。

 さっきと同様、落雷と共に雷天黒斧が現れた。それを握った瞬間、さっきとは違う状況があった。

 「……」

 煙が上がっていて、抱き着いていた牛型モンスターは黒焦げになっていた。小さなうめき声をあげて倒れる。

 やっぱり落雷にダメージ判定があるのか……。体力だけは無駄にあるこのモンスターが一撃で倒れるという事は結構なダメージだぞ。射程が短い以外はデメリットもないし。これは大発見。

 「すごいねー!それ!!」

 カレンが言いながら寄ってくる。その目は先程までの変態を見る目ではなかった。よかったー……。

 「カレンが風圧食らったのでもしかしたらと思ったけど……これは使えそうだな」

 「そうやね!ヤマトさんも知らんっちゃろ?」

 「だな、これは知らない。切り札になるかもな」

 「でも、それ狙う時どうするん……?」

 「どうするって……何が?」

 「ヤマトさんに抱き着くの?」

 「あ」

 そうだ。さっきの感じからすると抱き着くくらいしないと落雷は当たらないだろう。積極的に狙いに行けばそれはそれで世界中から変態扱いされる可能性まである。

 「選択肢の一つ程度で考えるしかないか」

 「うん。まぁそうなる事態ってそんなになさそうやけど……」

 カレンさん冷静に突っ込むなー……。一瞬あの突撃槍ランスで突き刺された時を考えたけど、突き刺されてからじゃ遅いしなぁ……。即死してそうだし。

 「そうだな……まぁこういう攻撃もあるってわかったし、それで良しとしておくわ」

 「うん。そやね!」

 よし、練習を始めよう。試合開始まで時間がない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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