第66話
飯も食ったのでログインをするとドラグルズの広場にはカレンと小麦粉さんが待っていた。
「お疲れ様っす!」
「お疲れ様です!」
お疲れ様にはお疲れ様をぶつけんだよ!!小麦粉さんはなんか嬉しそうに笑っている。
カレンが耳をぴょこぴょこさせながら俺を見ている。
「お待たせ」
「うん!ご飯食べた?」
「おう、チャーハン食った」
「うわっなんか普通」
失礼だな。しょうがねーだろ。
「家に誰もいないから仕方ないやろ」
「あ、そうなんだ?言ってくれたらよかったのに」
「なんで?」
「あ、あいや、ほら!そしたらどこかでご飯でも食べれたなーと思って!」
カレンの耳はすごくピンと立っている。なんか見覚えあるな……あれか、書道用の筆だ。あれの新品のやつ。
「カレンの家からだとどこで食うんだよ……」
「ほら!天神とか!」
天神は福岡の都市部ね。だいたい福岡市近郊の人間だと遊びに行ったり買い物行ったりって言ったら天神だ。ちなみに天神と博多は歩いていけるくらい近くて、その中間地点に西日本有数の繁華街中洲がある。
「天神って、俺んちから遠くねーか……」
「あれ?そうだっけ……」
そんなやり取りをしてると小麦粉さんが凄くニマニマしてる。
「と、とりあえず行くか」
俺たちは闘技場に向かった。
「うわっ……」
闘技場前の大通りはこの前と同じく大混雑していた。関係なければ近付きたくないレベルだ。露店とかまた出てるけど俺の商品とかないよね?そこらへん連絡とか来てないし。遠目に見えるのはマイルームに飾る用のヤマトさんポスターとかそういうのだ。よく考えるとあいつこういうのでも稼いでんのかな……すげーな。
人ごみを縫って進んでいくとやっと入り口前に着いた。途中、準々決勝の時よりも多く声をかけられた。
「カケル凄かったね。人気者やん」
「あ、あぁ……俺も正直びっくりした」
「さっきファンですって言ってきた子、声可愛くなかった!?」
「それ俺も思った」
「だよねー!よかったやん、あんなかわいい子からファンって言われて」
カレンはそう言って耳を揺らす。目は何故か俺を責めるような目だ。
お前なぁ、実際はどうかわかんないんだぞ?お前とかヤマトとかソラノはリアルでも可愛いけどそれは特別なんだからな?ただ、そんなことを言うと怒られそうなので黙っておく。
ふと目をカレンから逸らすと入り口の脇には別の人だかりが出来ているのが見えた。
「あれなんだ……ヤマトが取材受けてるとか?」
「うーん……見えない。こむたん見える?」
小麦粉さんは長身のキャラクターを使っているので目線は俺よりも高い。ちなみに俺は頭の上に名前を表示する設定にしているが、人が多すぎて機能が死んでいる。
「あー、じょあたそがいますねぇ~」
「ほー。なんかさっきもテレビで出てたな。特別ゲストとかで」
そこにいるならさっきのお礼を言いたいところだが、あんな人だかりに突入して無事に済む自信がない……。また後でにしよう。
「え!?マジ?すごいじゃん!」
「なんかっすね、準々決勝がきっかけでメディアの仕事も入ってくるようになったっぽいっすよ」
「マジですか?へー、なんかよかったなぁ」
エクスカリバーを最後まで出し渋ったりしたのも元はと言えば話題とか名前を売る為とかだったから、結果オーライなら本当によかった。ていうか、小麦粉さん地味にいろいろ知ってるよな。
時間を見ると集合十分前だ。
「そろそろ集合時間だし、俺行くわ」
「うん!頑張って!いつもみたいに応援してるから!」
カレンは目をまんまるにして言う。
「おう」
「応援してまっす!」
小麦粉さん「お疲れ様っす」じゃない!!!うおー!めっちゃ調子狂う!!
「あざっす!」
一抹の不安を覚えながら俺は闘技場の中に入った。
受付を済ませて控室に入る。
部屋の真ん中あたりに位置する椅子にはヤマトが座っていた。その前には浅黒い肌で短い金髪のテラがいた。どうやら話をしているようだ。座ったまま立っている相手と話しているって……さすが王。謁見だなこれは、テラも異国の王子っぽい格好してるし、異国からの謁見だな。よし、題名「異国からの謁見」
ヤマトは俺が入ってくるのをチラリと見るとテラに視線を戻した。話す気はないってか。
控室にはもう一人小柄の女性がいた。部屋の奥の方で椅子に座り、俯いている。あれがヤマトの今日の相手か。今まで対人戦に興味がなかったせいで見ただけじゃ誰が誰なんてのがわからない。ここまで勝ち上がってるなら有名なのかも。
俺は三人を見やりながら入口に一番近い席に座る。
しばらくの間、話すタイミングはないかとヤマトとテラの様子を窺って見たが、いつ話しかけていいかわからない。ていうかヤマト、テラの話聞いてる?口が動いてる気配がない。俺に聞かれないようにしてるにしてもテラは何を言っているかわからないが、にこやかに喋っている。なんならもう少し近付けば内容も聞こえそうだ。
あぁ!もう!これいつまで待っても話せないぞ。よし!
俺は意を決して立ち上がりヤマトのもとへ。
近付くとやはりヤマトは話してなかった。テラが一方的に喋ってる!こわっ!ていうか、ヤマト少しぐらい喋ってやれよ……。
俺が近付いてくるのを横目で見ると立ち上がって、テラとの話を終わらせこちらへ歩いてきた。なんかテラを無視して強引にこっちに来た気がするけど。気のせいですよね?テラを見るとアメリカ人かなんかがよくやる「しかたないなぁ」みたいなリアクションをしている。
「……」
ヤマトは俺の身体を下から上まで見て、じっと目を見つめた。どのくらい目が合っただろうか十数秒?数十秒?そのくらい経ってからヤマトは口をお開きになる。
「いけるの?」
「あ、まぁ……頑張ってみる。いいのか?テラと話してたみたいだけど」
「ん?あー、いいのいいの。あいつ私がいるといつも話しかけてくるから返事してもしなくても自分の事話してくるし」
ヤマトは吐き捨てるように言う。なるほど、前から知ってるから扱いはわかってる感じね。
少しの間沈黙。ヤマトの赤い目がいろんなところに泳いでるのがわかる。俺は今は目の動きなんてわからないだろうけど。
よし、話そう、俺から。
「あの昨日は――――」
「ぁごっ……」
不意にヤマトが喋る。
「ん?顎?」
ヤマトの家にいたなら顎を触れたんだろうが、今はできない。ていうか、顎に何かついてるってのは絶対ないし。とりあえず先を譲ろう。
「どうぞ」
「先に話し始めたのあなただし、どうぞ」
「いや、俺はあとでいいよ」
そう言うとヤマトはまた詰まるように黙る。
「……。ご」
「ご?」
「……ご飯食べたの?」
「え?あぁ食べた。そっちは」
「食べた」
「そうか……」
何このやり取り。いやいや、こんなの続けてたら試合始まっちゃうぞ!
すると、控室にスタッフが入ってきた。
「皆様エントリー確認しました。大野城亜弥香さんのミニライブの後、試合が始まります。簡単な説明と試合前のトラブルを防ぐために控室を移動して二組に別れていただきます」
「え!?」
思わず声に出してしまう。そんなのあるの!?やっぱ準決勝だと色々違うのか……ていうか、控室を移動!?大野城亜弥香のミニライブ!?え?どれに一番驚いたらいい!?
スタッフは続けた。
「では、ヤマトさん、テラさんを朱雀の間に転送いたします。カケルさん、らむさんは青龍の間に」
「え、ちょ……」
すると有無を言わさず転送が始まった。転送するときの青白い光のエフェクトが俺たちを覆う。
嘘だろ!?
「ヤマト!あとで話あるから!絶対勝てよ!」
慌てて俺がそう言うと、ヤマトは少し驚いた顔をしていた。
「……わかった。私が負けるわけないでしょ」
最後は少し鼻で笑った。ほんとこの王様は……。
その笑顔を最後に俺は青龍の間とやらに飛ばされた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます