第67話

 転送先はいつものザ・控室のような場所ではなく、青を基調とした調度品が飾られた豪華な応接間という感じだった。部屋の壁一面を埋め尽くすかのような大画面もある。リアルならこれに飲み物やらフルーツが提供されるのだろうが、それは流石にない。いくつもあるソファーの一つに腰掛ける。これ、感覚フィードバックがあったらすんげー座り心地良かったんだろうなぁ……。

 スタッフがすぐに入ってきて説明をしてくれたが、内容は演出の関係上、闘技場に入る際に部屋の入場口を通ると一回エレベーターの様なモノに乗せられて移動するということと、賞金に関しての説明と承諾のサインの記入だった。

 スタッフが出て行くと、ちょうどミニライブが始まったようでソラノが大画面に映し出された。髪はお下げではなくまとめ上げて、白いミニスカートのドレスを着ていた。いつもとは違ってすごくアイドルって感じだ。歌も歌って踊って、モデルもして、声優さんってほんと大変だね……。でもこの前は違う声優がライブしてたし、今日のは前から決まっていたのだろうか?それとも準々決勝が終わってから急に決まったんだろうか?そういえば前のミニライブをつまらなそうに見ていたソラノの姿を思い出した。

 知っている人間がライブなんかで目立っている姿を見るとなんだかニヤけてしまいそうだし、ちょっとSNSでドヤってしまいたい気持ちもあるがそこは辛抱する。

 ていうか、さっき一緒に説明受けた茶髪ボブで小柄な女性、らむって奴の姿が見えない。

 姿を探すために辺りを見渡す。

 「うおっ……」

 意外とすぐ後ろのソファーに座っていた。びっくりした……声出ちゃったよ。

 さっき控室で見た時と同様に下をずっと見ている。精神集中でもしてるんだろうな。俺も別に話したい気分じゃないし、そっとしておこう。

 しかし、よく見ると口が動いてるのがわかった。何かぶつぶつ言ってる……。もう少し近付けば聞こえそう……。

 なになに?

 「ヤマト倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す倒す……」

 ひっ……。え、こわっ。何かヤマトと因縁でもあるのかしら……?たしかにあいつ口が悪いというか王様だからナチュラルに人を煽ったりするもんね。とりあえず近付かんとこ……。

 俺は気付かれないように別の少し離れたソファーに座った。まぁずっとぶつぶつ下を向いて言っているし気付かれようはないんだけど。

 少しの間何も考えずぼーっと観ていたがソラノのライブも三曲ほど歌うともう終わるようで観客にお礼を言いながら頭を下げていた。最後に上げた顔がアップになって映し出される。

 すごくいい笑顔だった。

 良かったねぇ……と勝手に感動しているとモニターが急に切り替わって青王杯のタイトルが映し出される。どうやら中継の番組のようだ。

 すると、入り口からさっきのスタッフが入ってきた。

 「らむさん、試合が始まりますので準備の方お願いいたします」

 「……」

 言うが反応がない。スタッフは首を捻りながら近づく。

 「らむさん!」

 「あ、はい!え?」

 らむは大声で返事しながら立ち上がる。

 「試合が始まりますので、準備の方をお願いいたします。準備が終わりましたらあの入場口にお進みください」

 スタッフが丁寧に説明すると慌ててメニューを開いていろいろいじりだした。だいぶ緊張しているか慌ててるのかその様子には余裕がなかった。ていうか、準備できていなかったのか。

 数分経つと準備できたのかメニューを閉じていそいそと入場していった。

 ヤマトの相手だから応援するつもりはないけど……。なんというか……健闘を祈る。

 モニターに目を移すと、ヤマトが大きなエレベーターに乗る姿が映されていた。エレベーターは上がっていく。なるほど、こういう演出か。

 しっかし、ヤマト様はほんと堂々としてらっしゃるなぁ……。腕組みしてまっすぐ前を見ている。周囲を見る様子もない。エレベーターも少し暗いので赤い目も映える映える……。腕組みのせいで胸の谷間もちょっと強調されてるし、ワザとか?自分が見られてるのわかっててやってる?そんな様子を映しながらプロフィールや今までの戦闘シーンのダイジェストが一緒に紹介されている。

 ほう、猫よりは犬派なのか……確かに犬は従順ですもんね。王様はやっぱり従順な下ぼ……犬が好きだよね!

 そして画面は切り替わり、らむが映し出される。らむは周囲をきょろきょろ見渡していて落ち着きがない。そんな様子とセットでプロフィールとダイジェストが映される。ほう、結構大会出てて、本戦参加の常連らしい。ユニーク武装は……レイジングストライク。武器種は突撃槍ランス

 うーん、なんか因縁めいたものを感じる。もちろんヤマトのクニツクリが突撃槍ランスなのは知らんだろうけど……。本戦参加の常連ってことは何回かヤマトとも当たったことありそうだなぁ、その時に何か言われたのかな。

 そしてエレベーターは止まる。どうやら目的階に着いたようだ。試合が始まる。

 

 

 

 

 

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