第65話

 あのあと色々と準備をして、少しお腹が空いたという事で一度ログアウトをする。結構いい時間になっていて、冷凍庫にあった冷凍チャーハンを適当に炒めることにした。まだ親は帰ってきていなくて、独りリビングで黙々とチャーハンを食べた。なぜか独りで食べていると桜の事をまた思い出してしまう。でも、朝のようにイラっとすることはなかった。

 ふと考える。俺が桜の状況だったらどうなんだろう。家族も居らず、あんな広い家で独り。慣れてしまっていると言えばそれまでだが、俺なら寂しいなと思った。もしかしたらまともにあの家でちゃんと話をしたのって俺くらいなんじゃないだろうか?そう考えると昨日もう少し我慢してもよかったのかな……。

 「あー、もう……。過ぎたことは仕方ないんだよ俺」

 自分に言い聞かせる。今日会って話せばいいんだ。変な考え事をしながらぼっちで食べるチャーハンはちっとも美味しくなかった。

 桜もいつも似た様なモノばかり食って飽きないんだろうか。家事をした時に見たゴミ箱や冷蔵庫の様子だと、だいたいはピザとかお好み焼きの出前で、良くてコンビニ弁当。あいつにはもっと美味いものを教えないといけないな。ラーメンとか食わなそう。今度俺の行きつけのラーメン屋に連れて行くか……そういえば俺も最近食ってないし。

 静かなリビングで食事をすると考え事も捗ってしまうので、テレビでも点けることにする。もう夕方の情報番組が始まっていて、またタイミング悪く青王杯の事をやっていた。内容を見ていると桜の事があったせいでまた忘れていたけど、これを勝ち抜くともう決勝なのだ。優勝賞金三千万……準優勝でも五十万、思い出すとちょっと緊張してきた。

 すると、テレビから聞き覚えの名前が聞こえてきた。

 「ではここで特別ゲストにリポートしてもらいます!青王杯ベストエイトまで勝ち残った凄腕のプレイヤーであり声優、モデルとマルチに活躍なさっているソラノこと大野城亜弥香さんです!」

 んん!?

 「はい!こんにちは!大野城亜弥香でぇす!よろしくお願いします!私は今インフィニティ内にある闘技場【オーディンスタジアム】にいますー!ここはですねぇ、通常は実際に大会に参加する選手しか入れないんですが、今日は特別に――――」

 テレビを観るとそこにはがマイクを持って喋っていた。闘技場の中を案内して回っている。

 え!?何やってんの?この人!?

 一通りソラノがいい声で喋るとスタジオのキャスターが返す。

 「大野城さんは先日の準々決勝で残念ながらカケル選手に負けてしまいましたが、今日はテラ選手とカケル選手、どちらが勝つと思いますか?」

 また微妙な質問を……これで俺が勝つとか言ったらまたネットでなんか言われるぞ……。複雑な気持ちでソラノを観ていると、先程からの笑顔を全く崩さずに言った。

 「はい、もちろんカケルくんだと思います!」

 言いやがった……。わかってやってるだろ?なーにが「私が出来る限り終息させる」だよぉ。俺が勝つって言ってくれるのは嬉しいけど困るんだよぉ~。またSNS燃えるのかなぁ~。

 ソラノはそのまま続けた。

 「私も結構このインフィニティはやり込んでて、それなり……いえ、率直に言うともう自信しかなかったんですけど。実際に戦って、カケルくんの強さは本物だと思いました」

 見るとソラノは真剣そのものだった。それにキャスターが返す。

 「そんなにですか?テラ選手も相当な実力者、元赤王ですけど……それでもカケル選手が勝つと?」

 「はい。この前の戦いは彼に本気でぶつかりました。でもことごとく一枚上手うわてで……。私の本気を退けたんですから……勝ってもらわないと困るってのもありますネ!」

 ソラノは最後に笑って言った。そしてペロッと舌を出す。何それ可愛い。

 「あー!なるほど……!ちなみに次の赤王杯は出るご予定ですか?」

 「もちろん!次はカケルくんと当たっても負ける気はありません!」

 「赤王杯、楽しみにしてますね!!はい、わかりました!ありがとうございました!では大野城亜弥香―――」

 キャスターが締めくくろうとした瞬間だった。

 「あの、ちょっといいですか?」

 ソラノが言葉を遮った。

 「はい?どうしました?」

 「一つだけ言わせてください。あの、カケルくんが心無い人たちからネット上で謂れのない暴言や中傷をしているのを見ました。内容は色々あるけど、私に勝ったことに対しての暴言が大半です。やめてください。彼の為だけではなく、私の為にもやめてください。私はさっきも言いましたけど、本気で戦いました。本気で戦って本気で負けました。だからそれをとやかく言われるのは非情に不愉快です。やめてください……」

 キャスターは少しの間止まっていた。最初は少し驚いたような表情をしていたが数回黙って頷くと口を開いた。

 「はい。ありがとうございました。以上、ソラノから会場の様子を伝えていただきました」

 「ありがとうございました」

 ソラノも深々とお辞儀をするとニュースは違う話題に切り替わった。

 ……。

 まさかこういうかたちをとるとは思わなかった。あとでお礼を言わないとな……。ソラノにここまで言わせたんならなおさら勝たないといけないな。これで負けたら弁解の余地なしで叩かれてしまう。

 「はぁ……。頑張りますかっ!」

 

 

 

 

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