第40話

 始まってもヤマトはクニツクリを持って全く構える気配がない。かるぼなーらも構えはするものの、仕掛ける動きを見せない。

 二人は何度か戦ったことがあるから出方もわかりきっているのだろう、わかりきっているこそ、想定外の動きをされると下手に動けなくなる。ソラノの戦法は先手必勝一撃必殺。ほとんどこれで決めている。想定外の動きをしているのはヤマトの方だ。

 しかしまぁほんと、威風堂々とはこのことだろうな。胸を張って足を開いて立ってらっしゃる。近くで見るとこれはこれでイイかもしれない……。

 「カケル」

 カレンが急に声をかけてきた。いや、別にヤマトをエロい目で見たりとかしてませんですわよ!?

 「なに?」

 平静を装って応える。

 「あそこ見て」

 俺すでにあそこ見てるけど、どこ?とカレンが指さした方向を見る。すると俺たちが座っている位置から少し下に見覚えのある茶髪が座っていた。よく見れば周りも少し試合とは別で騒めいている。

 ソラノだ。自分より強い人がいないと言っていた彼女は現在最強の位置に君臨する無限王を見て何を思うんだろう。

 すると、いきなり歓声が上がった。そして実況の声が響く。

 「かるぼなーら動いたァ!」

 なるほど、こういう実況が入るんだな、ちゃんと観客席座ったことないから知らんかった。

 かるぼなーらは槍を構えながら走り出す。

 まだヤマトは動き出さない。両者には距離があるが、どうするつもりなんだ。

 かるぼなーらが距離を半分ほど詰めたところで、身体に制動をかけつつ槍を投擲の体制に移行した。

 ここから投げるのか。ヤマトの射程に入る前に強めの一撃を入れるという算段だろう。

 かるぼなーらは渾身の力を込めて槍を投げる。槍は赤いエフェクトを纏い、一直線にビームのようにヤマトへ向かった。

 「投げたぁ!!直立不動のヤマトはどう出る!!!?」

 実況のうるさい声が響く。が、ヤマトはそのビームの様な槍を身体を傾けるだけで避けた。

 相手もそれはわかっていたようで驚くような様子はなくもう一本の槍を取り出して接近する。

 ヤマトはクニツクリをくるりと回し、構えた。しかし、もうすでにかるぼなーらの槍は目前。

 観客が湧く。

 ヤマトはクニツクリで槍を、そして、いなされれば身体はガラ空きとなる。そのガラ空きとなったかるぼなーらには当然、巨大な鉄塊が叩きつけられる。

 叩きつけられれば身体はバットに打たれたボールのように吹っ飛ばされ、即座に壁に打ち付けられる。

 「ヤマトの重すぎる一撃がかるぼなーらに叩き込まれたあぁぁぁぁ!」

 その声と同時に歓声はマックスボルテージ。ほんとうるさい。

 「ヤマトさーーーん!!!」

 俺の横にもうるさいのがいました。

 試合終了のブザーがまだ鳴っていない、あれだけ鎧を着ていたんだ一発くらいは耐えられるだろう。しかし、そんなことに驚かず、淡々とヤマトは止めを刺しに行く。

 気が付くと無限王はもうその場にはいなかった。スキルを使って加速して勢いを乗せたクニツクリの先端でかるぼなーらを更に壁にめり込ませていた。

 終了のブザーが鳴った。

 「ヤマトさんさすがだね」

 「まぁなぁ。あれくらい余裕だろうなぁ……」

 全く参考にならんかった……。かるぼなーらも実力者だと聞いていたから何かソラノ戦の為に吸収できるものはないかと思ったが何もなかった。というか、ヤマトがアホみたいに強いから早く終わりすぎた。

 「あ、じょあたそ行っちゃうね」

 カレンが言うので見るとソラノは席を立ち、階段を上がろうとしていた。俺が見ていると、ソラノはこちらに気が付き、あの魅力的な笑顔で笑って小さく手をこちらに振ってきた。

 「……」

 俺は手を振り返すような気分に離れなかったが、横のカレンさんが俺の分もブンブンと振ってくれた。

 

 

 

 

 

 


 

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