第41話

 俺たちもヤマトの試合が終わると早々に闘技場を出た。参加者用の入り口の前で待っていると澄ました顔のヤマトが出てきた。声をかけようとすると、ヤマトは一気に人に取り囲まれる。

 「うーわ、何あれ……」

 「なんかマスコミの人たちみたいだよ?有名人は試合終わるたびにあんな感じになるんだって」

 俺が呆れているとカレンが丁寧に説明してくれた。ふむ、ということはマスコミの人もインフィニティのアバターを持ってるのか。大変だな。

 でもよく見たらアバターが似たり寄ったりなのでもしかしたらマスコミ専用のレンタルされたなのかもしれない。

 「こりゃ時間かかりそうだな……」

 「だねぇ……」

 そう思って待っていると、数分した後ヤマトは突然その場でテレポートした。なるほど、その手があったか……。リアルだと話を終わらせても追いかけてくるが、ゲームだとこれができるな……。

 そして「ドラグルズの出口にいる」とチャットが飛んできた。俺らが見ていたのもわかっていたようだ。そうそう、王様は民を見てないとね。カレンにもチャット内容を教えると、一緒にヤマトの元へと向かった。

 

 

 ヤマトはドラグルズ出口のレンタカー屋の前に立っていた。

 「遅い、何で跳んでこなかったの」

 「いや、テレポするほどでもないかなと……」

 「あなたね……。自分が話題……微妙に話題になってるの知らないの?」

 微妙って言う必要あった?ていうか、ヤマトが言うほど話題になってたのか?

 「いや、実感ないからなぁ……」

 「え?カケル学校ですごい事になってたじゃん?女子の間でも噂になってたし」

 カレンが当たり前のように言う。おい、そういう女子の間で噂とか先に言えよ!見られるなら髪型キモくなってないかとか気になるお年頃なのに!!

 「え、マジ!?」

 「はぁ……。マスコミに見つかってなくてよかった……また逃げないといけなかった」

 「やっぱ無限王は大変なんだな」

 「あいつらしつこいとよ……。今日の作戦とか、次への意気込みとか、手強かったか?とか……」

 「まぁ取材となるとそうなるよな」

 「作戦もないし、次も勝つだけだし、手強くもなかったから何言えばいいかわからなくて」

 おい、それ取材で答えてないよな……。さすが王様……人の心がわからない。

 「あ、ひとついいか?」

 「なに?」

 「なんで試合開始の時に動かなかった?」

 ちょっと気になっていた、いつもなら速攻かけて叩き潰すだろうに。やはり相手が、それなりの実力者だったからか?

 「あー、あれね」

 ヤマトは詰まらなそうに口を尖らせた。こいつよく不満があるとこの顔するよな。

 「かるぼなーらが『あんたの速攻潰して、あんたより先に決めて倒す』って試合前に言ったから」

 「ん?どういうこと?」

 もうちょっとわかるように言ってください……。

 「え?」

 「いや、え?じゃなくて、それを言われたから何で動かなかったの……」

 「あー、だってそんな事言うんなら、何かあるってことでしょ?だから動かなかった。まさか、槍投げるだけだとは思わなかったけど」

 澄ました顔で無限王様は言った。じゃあなんだ?そう言われたから、動かなかった。そして、かるぼなーらは痺れを切らして自分から仕掛けたってことか?

 「これじゃ、相手のプライドガタガタだろうな……」

 「あはは……」

 カレンも俺が言う意味が分かったのか笑う。

 「それで?あなたは観戦に来てたけど、雷天黒斧のバフの件は調べがついたの?」

 「まぁ、いちお」

 「そう、なら後で聞く」

 ヤマトはそう言うと歩き出した。あとで聞くってどこで?ログアウトしてからって事?

 「あ、ヤマトさん、そういえば、さっきじょあたそが試合観に来てたよ!」

 カレンがヤマトの横に追いついて言う。

 「へぇ、そうなの」

 やはり、ヤマトはカレンに対しては対応が少し柔らかい。俺にも柔らかく対応してくれ~。

 「俺もソラノに会ったぞ」

 「えっ!?まじ!?どこで!?」

 すぐにカレンが食いついた。ヤマトはこちらをジッと見ている。何?その目、怖い、何もしてないでしょ?

 「ここから結構離れた草原で、バフの調べものしてたら……」

 「まさか、調べている内容を盗み見られたとかじゃないよね?」

 ソラノの目が一層きつくなる。

 「いや、爆発音がしたから、駆けつけてきたみたいで、盗み見とかはされてないはず」

 そういえば確かに、ソラノは何も俺に聞いたりはせずに去っていった。

 「何か話したの!?」

 カレンは興味津々に聞く。ここで彼女のユニーク武装についてのヒントを話すのはフェアじゃないだろうから……。

 「うーん。特にこれといった話は……でも、ユニーク武装を使わない理由は言ってた」

 「ほう」

 ヤマトも興味があるようで立ち止まった。

 「単純に自分より強い人がいないから……だって」

 「ふぅん」

 ヤマトはそう言った。ゾクりと寒気がして見ると、とても楽しそうに笑っていらっしゃった……。

 

 

 

 

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