第39話
「カケルー。かけるー?」
あのあと、周囲のモンスター相手に戦って雷天黒斧のバフなんかを調べて、ギルド部屋に戻って少し寝た。いやー、何も考えたくないときは寝るのに限るね。だってどうやって戦ったらいいかわかんないんだもん。
俺が気持ちよく寝ていると、カレンが俺の背中を叩きながら起こしてくれた。タイツもないので叩かれても意味ないんだけどね?ん?インフィニティで寝たのって初めてじゃね?ケモ耳女の子が起こしてくれるこの世界って素晴らしきかな……。
「おはよう……」
俺はおっさんの様な声で言った。
「カケルが寝るって珍しいね?」
「だよな……」
「やっぱりニューワールドでやってるからかな?あれ軽いもんね」
たしかに、家のゴーグルはアホみたいにデカくて、寝るなんてできない。それにヤマトの家のゲーミングチェアが座り心地良すぎる……さすが大金持ち。
少しゴーグルをズラして、目を擦ると一面真っ暗闇。まーた防音段ボールで囲われてら……。気を取り直してゴーグルを着け直す。
「練習できた?」
「ん?あー、まぁね。少しはわかった気がする」
「そか、じゃあ、時間もちょうどいいし行こう?」
最初どこへ?と聞こうと思ったが、思い出した。ヤマトの試合か。
「よし、行こう」
闘技場へ向かうと入り口の前からすでに人でごった返していた。
「すげーな……」
「本戦だし、ヤマトさんが出るからね~」
「あー、それでか、ていうか明日は明日で声優が出てくるからヤバそうだな」
「だね!カケルも有名人になってきちゃってるからすごいかも!」
一応ゲームの中なので人で進めないという事はないのだが、進みにくいのには変わりはない。出店なんかも出ていて、道の両サイドは特に混んでいる。だいたい食い物も食わないのになんで出店があるんだよ……。
「カケル!あれ見てみようよ!」
そう言ってカレンは俺の腕をグイグイと引っ張る。出たよ、お祭りになるとテンション上がる系女子……こいつの場合いつもテンション上がってる系だけど。耳をぴょこぴょこさせて目を輝かせていた。
「いや、だいたい何の店だよ……綿あめ食えるわけじゃあるまいし……」
「カケルテンション低いなぁ~。あれは大会中限定のアイテムとか服とかだよ!結構可愛いんだから見てみようよ!」
なるほど?食えないけど限定品売るわけね?商魂たくましいなぁ……。とか思ってるとカレンに思いきり腕を引っ張られてお店に行く。そうすると店員のNPCが俺らの対応を始めた。こういうとこはリアルよりも便利なところだよなー。
「これよくなぁい!?」
カレンが言うので見ると、お面を被っていた。しかもヤマトをデフォルメしたデザインだ。まじか、一応現青王ではあるものの、肖像権とか著作権とかどうなるの?アバターだからそんなの元からお前らにはねぇ的な?
「それヤマトの前で堂々と着けられんのかよ」
「うっ……そうだった」
そういうと試着を外した。
あとはヤマトのキーホルダーやフィギュアまである。ほんとすごいなー……。
結局カレンは悩みに悩んで武器なんかにつける小さなキーホルダーを買った。
「そろそろ行くか」
俺が一足先に店の前から離れて言う。
「うん!」
カレンはそう言って嬉しそうに俺の横に来た。
そして、闘技場へと歩いていく。
あ、今気が付いたけどこれ若干のお祭りデートじゃない?
「緊張してきた……」
「え?」
思わず声に出してしまった。
「いや、明日の試合が」
「そっか、そうだよねぇ」
カレンはちょっと真剣な面持ちになった。すまん!そうじゃないんだ!すまん!
「でも、カケルなら大丈夫だよ!あたしがやってみたら?って言ったのはほんとに優勝できそうだと思ったからなんやから」
「……カレン」
「だから今日はヤマトさんの応援をちゃんとしよ!」
カレンはそう言って俺の腕を引っ張った。
観客席に着くともうすぐ試合開始とあって、会場は熱気に包まれていた。青王杯のテーマソングなんかも流れていて、簡単なライブコンサートの雰囲気になっていた。
俺らが座るのはヤマトが出てくる方の入場口の近く。
「すごいねー。昨日とは大違いだね!」
確かに昨日はこんな歌も流れていなかったし、何より満員ではなかった。昨日もきりぼし大根との戦いの時にはまぁまぁ人が入っていたが、アレの半分以上はきりぼし大根のファンだったらしい。すげぇな……あのキモさで……まぁ外面はいいって言ってたもんな。
ちょっと呆気に取られていると会場に流れていた歌がフェードアウトし、聞き覚えのあるリングアナウンサーの声が響き渡った。軽い挨拶を終えると、紹介が始まる。
入場口の方を見ると、ヤマトが気取る事無くスタスタと入場してきた。ほんと王様マイペース。
「観客の皆様!インフィニティを愛する世界の皆様!おおおおおおおまたせしましたぁ!!!本戦初戦で華麗なる勝利を決めた現青王!!!美しき破壊の姫!!!!今年も無限王への階段を着々と歩んでいくのか!!!ヤマトオオオオオォォォォォウオッ!!」
いろいろと名前を持ってらっしゃるようで俺が考えたアイドル王者ヤマトさんもいつか出てくるんじゃないのか?先に俺が言ったぜってドヤるためにSNSに投稿しとこ「アイドル王者ヤマトさん!」って!
「対しましては、去年の青王杯ベストフォー!その槍は今年こそ青王に届くのか!!かるぼなぁぁぁぁぁぁぁぁぁらああああああ!!!!!!!!」
はい、今回のヤマトの相手はかるぼなーら。平仮名でかるぼなーらな?いや、きりぼし大根といい、実力者になると食い物の名前が好きなのかね……。とにかくかるぼなーらは去年の青王杯ベストフォー、赤王杯もベストエイトまで入っている。そのあとの大会は何故か出なかったようだけど、実力は間違いない。ユニーク武装は槍。ちなみに女性だ。黒のロング髪で、ロングコートの様な防具を着ている。コートの中も結構鎧を着こんでいて、ほんとに実践重視という感じだ。槍は真っ白な柄に小さめの赤い刃が付いている。名前は何だったっけか
カウントダウンが始まる。
5
4
3。ヤマトはクニツクリを呼び出し、くるくると回して大地に突き立てる。
2
1
開始のブザーが鳴った。
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