第38話

 ソラノは少ししてからその場を去った。あの雰囲気は尋常なものではない……。ヤマトとは違った空気を素人に感じさせるものがある。

  その場で動画を検索した。ソラノで検索するとあまり出てこなかったが大野城亜弥香だと大量にヒットした。【じょあたそ】という愛称で親しまれているらしい。いろいろ調べていると、インフィニティでのじょあたそのギリギリアングルなどそういうのばかりが目立った。そりゃ、きりぼし大根みたいなのは嫌になりますわな……ていうか、ヤマトが有名な女なら誰でもいいところがあるとか言っていた。あのクソ野郎、ちょっかいを出した可能性はありそうだな。

 そんなことはどうでもいいのだ。ソラノの戦闘動画が見たい。必死に探していると、数件見つけることが出来た。その中で一番最近の「ソラノ、青王杯」というものがあった。やけに再生時間が短い。

 俺はそれを再生する。

 動画の中で試合開始のブザーが鳴ると、ソラノは腰を低くし、鞘に納められたままの刀に手を添える。

 そして、そのまま静止。

 対戦相手は太刀のデザインの大剣を使用していた。大剣に近いダメージを出せて、少し素早く動けるというものだ。相手が下段に構えて突撃する。

 相手が自分の間合いに入った途端にソラノは振り抜いた。

 対戦相手は止まる。

 そして、ソラノはゆっくりと納刀する。

 一瞬の沈黙。

 突然、対戦相手からは血しぶきが上がる。

 スキルや技の演出なのかそれはかなりリアルなものだった。そしてソラノはまた腰を低くし、構える。だがもう相手は動けない。

 次にソラノが振り抜いた瞬間にはソラノは相手の背を向けて立っていた。

 また、ソラノはゆっくり納刀する。

 すると、また対戦相手から血しぶきが上がった。

 それだけだ。

 それで試合は終わる。

 なんだこれ……。対戦相手は居合抜きに使われる巻藁か何かのように簡単に斬り捨てられていた。というか、居合抜きの動画を見せられているような感じだ。

 他の動画を探す。予選の動画があった。それもひどく時間が短い。

 内容は簡単だった。試合開始しても動かないソラノに痺れを切らせて攻め入った瞬間に斬り捨てられるものだ。

 なんだこいつ……ヤマトよりもヤバいんじゃないのか?ヤマトは「あの人本当に上手い」とだけ言っていた。ただ上手いってレベルじゃないぞ。

 少し調べてみるとわかったが、ソラノが使っている武器は【無命むみょう】という長期イベントのクリア報酬だ。そのイベントは無限界第三圏の奥深くにある鉱石を正気の沙汰とは思えないほどの量を納品するというものだ。現在、それが日本刀の中で最高の性能を誇っている。しかし、そんなイベントだ、普通の武器でも参加するか微妙なところなのに、すぐに壊れてしまうし壊れると二度と手に入らない日本刀を手に入れようとする人間はほとんどいなかった。

 そして、そもそもの話、日本刀を極めた人間がほとんどいない。そんな武器でやり込みなどしようものなら、クエストが終わるごとにいちいちドラグルズの工房に修理しに行かないといけない、仮に鍛冶師スキルを持っていたとしても、日本刀の修理は最上位スキルだ。そこまでレベルを上げないといけない……。割りが合わない。正直言ってドМだ。

 だが、それを彼女はやったのだ。時間を、すべてをかけてやったのだ。そして、日本刀スキルを手に入れたんだろう。日本刀のスキルはデータのぶっこ抜きを行った者が公開していた。

 日本刀最高スキル「抜刀【止水】」抜刀の速度を極限まで上げ、納刀するまで防御力が極限まで下がる。

 「歩法【明鏡】」移動速度を三秒間、極限まで上げ、納刀するまで防御力が極限まで下がる。

 「居合【空】」使用者が居合斬りに成功した時、攻撃力が三倍になる。

 初めて見たが意味が分からなかった。無茶苦茶だ。このゲームで極限まで上げるという言葉はほとんど使われない。しかもただでさえ攻撃力がおかしい日本刀の攻撃力を三倍……。対人戦ならほとんど一撃で終わる。彼女はこのスキルを使っているんだ。

 「だが居合斬りに成功した時」と書いてあるがこれはどういう意味なんだろう?また少し調べてみる。

 ……。

 あった。

 要約すると居合斬りは発動した瞬間から数秒の間に、相手の居合点というものに正確な角度で刀を叩き込まなければならないというものだ。居合点は各モンスターや人間に決められたポイントがあり、そこに一定角度で刀を走らせる必要があるという。成功すれば大ダメージ。もちろん居合斬りも何段階かレベルがあるみたいだ。ソラノは当然最上位でも使っているんだろう。

 「はぁ?何これ」

 そう言うしかなかった。これを使いこなせている人間がいれば最強だ……。

 勝てねーんじゃねーのかな……。

 俺は草原にまた寝ころんだ。

 もうしばらく何も考えたくない。

 

 

 

 

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