第25話

 敗者復活戦は始まった。俺の最初の相手はガルムとかいうやつだ。会場は本戦と同じ場所だが、観客はこの前の三割くらいだ。

 俺が闘技場に入ると後ろから声がした。入場口の真上に陣取ったカレンだ。

 「カケルー!がんばってー!!!」

 俺は手をちょっと上げて応える。両隣には小麦粉さんとヤマトが座っていた。観客席にヤマトがいるという事で、俺じゃなくてヤマトを見ている客もいる。

 向こう側の入場口から、ガルムとやらが出てくる。遠目から見ても身長が小さく、その割には身体がガチガチに出来上がっているアバターだ。ノースリーブで黒に金で縁取られた鎧を着て、たぶん俺対策にフルフェイスタイプのシルバーの角も何もないシンプルな兜。えーっと、あの人のユニーク武装は……あ、やべ、何だっけ……。きりぼし大根の事ばっか考えててド忘れした。はっ!これがあいつの作戦か!!

 「敗者復活戦第一試合、カケル対ガルム」

 リングアナというか、ただのお知らせみたいな感じの声が響く。テンション低いなー。するとカウントダウンが始まる。

 5

 4

 3

 2。あいつのユニーク武装珍しかったんだよ……なんだっけ、えー……。

 1。とりあえずテンペストイーグルを構える。

 開始のブザーが鳴った。

 ガルムは地面に手を向ける。

 「こい!俺の愛馬!」

 そうそう!この人のユニーク武装、バイクだ!!

 一瞬地面が光ると、ガルムの下の土が盛り上がっていく。そして、それにガルムはまたがると更に身体を持ち上げていく。盛り上がった土山が内部からエンジン音を轟かせる。

 ガルムがエンジンを何度か噴かせると、その土山は崩れていき、余分なものが剥がれていくと真っ黒なバイクが現れた。ライトに当たる部分には突撃槍ランスのような物が付いている。

 本戦ではこのちょっと長い武装呼出し中にやられたらしい。俺もそうすればよかったが、なるべく今までの一歩も動かずに戦うスタイルをまだやってるという事を、きりぼし大根に見せつけるために動かなかった。近付かないとハンドガンだと射程がちょっと足りない。

 「いくぞぉおらぁ!!!」

 ガルムさんは声をしゃくらせながら叫んで爆走を開始する。あの先っちょでぶっ刺して一撃必殺を決めるのが得意らしい。予選では一瞬で決まることが多かったようだ。

 確かに速いけど!っと!

 射程に入ったガルムのヘッドショットを狙う。

 発砲。

 一発で頭部に当たるが、大したダメージになっていないようだ。うーん。あの感じ見るとだいぶいい防具用意してきたな。頭だけ。

 次は二発バイクに撃ってみるが跳ね返していた。バイクにダメージは入らないらしい。ガソリンタンクっぽいのもないからなぁ。

 バイクは目の前。

 俺はギリギリまで引きつけて左にサイドステップする。

 一瞬会場がザワついた。俺が一歩も動かないスタイルを崩したことに対してなのか、ギリギリで避けたことに対してなのか。

 そして、避けた瞬間、バイクの座席部分に思いっきりドロップキックをかます。

 「え!?」

 ガルムは情けない声を出してバランスを崩し、バイクから放り出される。うわぁ、リアルだったら大事故だわ……。バイクはその勢いのまま暴走して闘技場の壁にぶち当たって止まった。

 そして放り出されたガルムは起き上がる。転んだ事によるダメージは入っているだろうが、ゲームなので普通に立つ。そして、バイクを見た。バイクだけ勝手に突き進んでいったせいで相当な距離がある。

 俺は銃を向けた。

 ガルムの顔はフルフェイスでよくわからない。

 「ひ、ぇ」

 発砲。

 ヘッドショットの次にダメージが与えられる心臓部に弾倉が空になるまで。最後の一発が命中すると胸部の鎧が弾ける。さすがフル強化のテンペストイーグル、威力抜群だ。

 「くそ!」

 ガルムはなおもバイクを取りに行こうと走り出す。

 俺はリロードをそそくさと済ませるとノースリーブの腕を撃った。高威力の弾丸が当たったせいでガルムはのけ反ってこっちを向いた。そのまま鎧がない胸に弾丸を全て撃ち込む。

 闘技場内に何度も乾いた発砲音が響く。

 ほとんどが命中すると、ガルムは胸を押さえながらバイクへ走ろうとする。しかし時間差でHPがゼロになったのだろう。試合終了のブザーが鳴った。

 「勝者、カケル」

 俺が勝ったことがアナウンスで確定する。

 「ふぅ」

 俺が一息つき、達成感の笑みを見せつつカレンたちが座る観客席を振り返る。三人ともすごく渋い顔をしていた。

 「何だよ……」

 「カケルえぐい」

 カレンがそう言うと小麦粉さんもうんうんと苦笑いしながら頷く。ヤマトを見ると、有り得ないものを見たように首を横に振っていた。

 勝ったの喜べよ!!

 

 

 

 

 

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