第26話

 俺は次の試合と、その次の試合も難なく勝利した。普通の近距離武器を使う相手だったのでガルムさんより簡単だった。次が決勝だ。喉が渇いた俺は人が少なくなった控室の端っこの椅子に座って離席中のアイコンを出し、ゴーグルを外す。

 と、真っ暗だった。

 「おわっ!!なになに!!?ていうか、暑い!!」

 ニューワールドのLEDの光で周囲が微妙に囲まれているのがわかる。俺はなんかの箱に囲まれているらしい。とりあえずグローブを外して、そっと囲っている箱を押すとすぐに動いた。そんなに重くない。しかもちょっとズレたことで外から光が漏れて構造がわかる。これ、あれだ、簡易の防音室だ!おい!昨日も異常に汗かいたと思ったら桜のやろう、俺をこれに入れてたな!!だから先にログアウトしたのか!!!

 とりあえず怒りに任せて段ボール製の防音室を跳ね除けると涼しい風が入ってきて気持ち良かった。

 目の前を見ると、俺と同じように少し倒れたゲーミングチェアでゴーグルなどをつけてる桜がいた。防音室はなし。たぶんカレンと喋ってるようだ。はたから見ると完全に独り言。そして、すごく無防備にこちらにおみ足を向けてらっしゃる。なぜかさっきは生足だったのにハイソックスだった。つーか、もう少し足開いたらパンツ見えるぞ……。

 しばらく偶然足でも開かないか観察した。だが、ほんとに開いたら開いたで罪悪感が半端ないので諦めて飲み物を探す。たしか、こういうネトゲアニメとかだとゲーム中、動けなくて襲われたりしたっけ?ていうか今でも意外と危ないよな……。

 そんなアホなことを考えながらさっき使ったコップをコーヒーバリスタにセットしてボタンを押す。数秒後にすごい音がしてコーヒーを淹れ始めた。

 あっあっあっやばい。でも止められないし絶対この音気付く!

 「ん?ごめんなさい、ちょっと離席する」

 桜が言うのが聞こえるので桜の方を見る。するとすでに起き上がってゴーグルを外していた。

 「……なにしとーと……」

 「いや、喉乾いたし、ついでにトイレ行こうかなと……」

 桜はすごくジト目だ。あれだあれ、チベットスナギツネみたいな目で俺を見てくる。

 「なんもしとらんやろうね」

 そう言いながら桜は少しスカートを押さえていた。

 「してないわ!」

 「……ならいいけど……。飲み物はエレベーターの前にある」

 そう言って桜は立ち上がり部屋の外の冷蔵庫からペットボトルのコーラを取り出し、渡してくれた。

 「あとトイレも部屋の外だから」

 「おう、わかった」

 ぷしゅりと音を立ててフタを開けてコーラを飲む。

 桜はPCデスクの椅子に座って俺を見る。何?ホント何もしてないんだけど?パンツ見えないか期待したけど。ていうかよく見るとさっき見た時より大人っぽい……。

 「さっきの一回戦、まるで殺人を目の当たりにしたような戦いだったわ」

 いきなり何を言い出すかと思えば……。

 「ひでぇな……あんただって俺を串刺しにしただろ!」

 俺は笑って言う。

 「……。それとこれとは違うから……」

 「そーですか。つーか、トイレ行ってくるから先にゲーム戻っといてもいいぞ」

 「待ってるから、さっさと済ませてきて」

 「いや、決勝までまだ時間あるし……」

 「あなたを箱に入れるから先にゲーム戻ってもらわないと困るの」

 「そういえば!あれ暑いんだよ!さっきびっくりしたわ!」

 「いいでしょ?心置きなく大声でしゃべれるんだから!」

 「そういうこと!?」

 ニューワールドだったら外の声とか入りにくくなってるはずなんだけどなぁ……。うちの古いマイクはそんなに性能よくないからたまに親の声とか拾っちゃうけどさ!

 「まぁ万が一俺の声がそっちに入ってもめんどくさいからな……」

 「わかればいい」

 「はぁ……ありがとうございますね」

 あまりキャラを放置していても、きりぼし大根にジロジロ見られるかもしれないのでそろそろ戻ろう。ま、離席アイコンつけてるとほとんど何もできないんだけどね。

 「トイレ借りるぞ」

 「どうぞ」

 桜はスマホをいじりながら言う。

 トイレに入ると、意外にもかわいい小物や写真が飾られていた。だがまぁ掃除はあまりしてないようだな。サボったリングがついてる。

 用を足していると、いやでも写真が目に入ってくる。

 写真はたぶん桜が小さな時や、家族写真が何枚かあって、なんとなく見ていると桜は父親似のように思えた。妹は桜にそっくりだが、目は母親の方に似てたれ目だ。家族写真のどれもがそれは楽しそうで、この後色々あって離れ離れになったと思うと辛いものがあった。

 手を洗って部屋に戻ると、桜が立って待っていた。

 「今きりぼし大根が勝った。準備して」

 どうやらスマホの方で試合を見ていたようだ。勝ったという事は決勝はやはり俺とあいつ。

 「よっしゃ、ちゃっちゃと決めますかね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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