第24話
ヤマトに色々ときりぼし大根についてのあれやこれやを教えてもらっていると、とうとう敗者復活戦参加者への集合がかかってしまった。
「カケル!あたし応援してるから!がんばってね!」
「おう」
俺がそう返事すると、カレンと小麦粉さんは先に闘技場の方へ向かった。今までカレンと小麦粉さんはずっと一緒だったし、怪しい動きはなかった。疑うべきではないが、ヤマトから聞いたきりぼし大根の話は相当なものだった……。これはヤマトが毛嫌いするのもわかる。いや、もうあれは嫌悪だ。俺もちょっと気持ち悪かった。
ヤマトは集合場所まで一緒に来てくれた。そこはちょうど闘技場の裏手になっていて人通りも少ない。そこに一つ小さく地味な門があって、それにエントリーした者が入れば控室に跳ぶようになっている。
「じゃあ、行ってくる」
「頑張って、万が一があっても慌てないように」
ヤマトは受験に生徒を送り出す先生のようなことを言う。俺がそれに笑って応えて門に入ろうとすると、ヤマトが俺の後ろを鬼の様な目つきで睨んでいた。
「きりぼし大根……」
ヤマトが嫌そうにボソリと言った。俺が振り向くと二メートルはあるやたらデカい男が立っていた。そいつは金色の鎧を着ていて、金髪のサラサラヘアーだった。俺も動画で見た、こいつがきりぼし大根だ。
「ヤマト氏、こんなところで会うなんて奇遇ですな」
きりぼし大根は無駄にいい声で言った。
「どうも」
ヤマトは小さく言った。ほんとに嫌そうだ。心を殺して話してる。
「冷たいなぁ、そろそろ機嫌を直してくださいよ。あの噂は俺が流したものじゃないって」
噂……さっきのヤマトに話してもらった。『きりぼし大根キモキモ物語』にそんなのあったけか?
「あんなもの気にしてないから」
「あ、ほんとです?よかったー。あれでずっと距離置かれてるのかと思ってましたよ」
俺が見上げていると、きりぼし大根はこちらをチラリと見た。そして、いやらしく笑うと続けた。
「それなら、噂も落ち着いたことですし、そろそろよりを戻しましょ?」
「はぁ?」
「は?」
きりぼし大根の言葉に俺とヤマトが同時に反応してしまった。何言ってんだこいつ笑かす気か。
「あら、この人は知らない?カケルくんでいいのかな?俺とヤマト氏は―――」
「あんまり勝手なこと言ってると……覚悟はできてるんでしょうね……」
ヤマトは表情を変えずに言った。たぶん怒りを通り越して、本気の警告なんだろう。
「そんなに怒らないでくださいよ?ね?もう行きますから、次は決勝で」
そう言いながらきりぼし大根は離れていき、門へと消えていった。
俺は笑いが堪えられなくなった。
「想像以上にやばいなあれ」
俺が口から出た感想はまずそれだった。そして、噴き出しながら続ける。信じてないよという意味も込めて笑いながら聞く。
「ていうかより戻すって何?」
「私とアレが付き合ってるって噂が流れたの、それで私もアレも否定したんだけど。なんかアレが『実は付き合ってて別れたんだけど別れた後に噂が流れた』風にし始めたのよ。ていうか思い込んでる」
「うーわ、きも」
「でしょ?あいつ外面はいいから、あいつのファンはそれ信じて大変だった」
「ていうか、噂流したのも絶対アレでしょ」
「でしょうね……。ほんと気持ち悪い」
「でも一番キモいのって、その話聞いて俺が動揺すると思ってるとこだろ」
あれは完全に人を嵌めたと思ってる顔だった。戦闘はともかく、人心においては狡猾ではないようだ。
「はぁ……まぁ、あんな感じだから話してると笑っちゃうかもしれないから気をつけて……。あ、でもアレは無駄にプライドが高いところがあって、笑っちゃうとブチギレて冷静さを欠くかも……」
「なるほど、それはいいこと聞いたかも」
「まぁ一撃で決めれば問題ないから、気楽に倒しちゃって」
「おっけーおっけー。そういえば、今はストーカーされてないみたいだけどなんで?あんな奴だったらちょっとやそっとじゃ、諦めそうにないと思うけど?」
「あー、あいつ一回運営に通報したの、そしたら、私の通報だったから運営が大慌てで警告送って」
「なるほど」
「あとあいつ、女でちょっと有名なら誰でもいいとこあるから」
「あ~」
なんか妙に納得した。そういうやつね……。
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