第23話
「なんじゃあら……」
ドラグルズに戻ると広場の端っこにヤマトがいたが、そこはちょっとした握手会となっていた。昨日から普通に接していたせいで微妙に忘れかけていたがこいつ人気なんだよな……。しかも俺には絶対見せないような笑顔で握手に応えている。
俺らが近付くとヤマトも気が付いたようで「そろそろ行くので今並んでる人まででお願いします」と言った。すると握手を求める人はそれ以上並ばなかった。意外とお行儀がいいのね。まぁ棍棒持ったアイドルみたいなもんだし、言うこと聞かないと怖いもんな。
最後の一人と握手をするとヤマトはこちらにやってきた。
「ごめんなさい、お待たせしました。こんばんわ、ヤマトさん」
小麦粉さんがいるせいかほんの少しおしとやかな気がする。
「こんばんわ!あ、この人はギルメンの小麦粉さん!」
「お疲れ様でーす」
だからなんでこの人挨拶がお疲れ様ですなの!?
「はじめまして、ヤマトです」
簡単に挨拶をすませると俺の方を向く。なんでしょう?我が王。
「ちょっと待ったけど、どこに行ってたの?」
「あー、ごめんちょっと
「は?どこで?」
あ、こわっ。声のトーンが二つぐらい下がった気がする。
「いや、無限界手前の森」
「……」
ヤマトはすごい勢いで俺の首に腕を回して引っ張りカレン達から離れる。胸!めっちゃ当たってる!すごい!!これすごい!!!!鎧から少しはみ出る乳に当たってる!!!
「なんだよ!」
ドキドキするから腕から逃れる。
「あなたね……なんでわざわざ昨日第四圏まで行ったか分かっとると!?」
「わかっとるけど、さすがに俺みたいなのをわざわざつけてくる奴おらんやろ!」
「……。はぁ……本当に誰にも見られなかった?」
「二人にも見張ってもらってたから大丈夫」
「……カレンさんはわかるけど小麦粉って人は信用できると?」
「インフィニティはじめた時からの知り合いだからカレンと同じくらいには信用してる」
さすがに失礼なレベルだぞ、何をそんなに疑っている!?ちょっとムカついた。
「……ならいいけど」
「なんだよ、そこまで聞くなら俺にもなんでそんなに聞くのか教えてもらいたいんだが」
俺がそう言うと、ヤマトは一瞬止まって諦めたように息を吐く。そして、話し始めた。
「……まぁそうか。なんていうか、その、きりぼし大根なんだけど、あいつはほんとに戦略……。策士……うーん。策略……」
ヤマトにしてはやけに歯切れが悪い。
「……なに?」
ちょっと強めに言うと、ヤマトは渋い顔をして耳打ちしてきた。インフィニティでは耳打ちをすると完全にプライベート会話になって周りには漏れなくなる。
「性格が悪いクソ粘着変態野郎なの」
わぁ……。こりゃネット上でアイドル王者ヤマトさんが言ったらダメだわ。てかアイドル王者ってすげぇな、積極的に使っていこう。
「だからわざわざ後をつけて俺を偵察するって?」
ヤマトは黙って頷く。
「またまたぁ~」
俺が少し笑って言うとヤマトはヤンキーがメンチ切る様な顔をした。おいおい、もうアイドル成分ないじゃんよ。王者じゃん王者。
「私がここまで心配してるんだから真に受けろ」
「はい」
ごめんなさい王様。
「もう。ここまで心配してるのはもう一つ根拠があると!」
そう言ってヤマトは対戦表を広げて見せた。
「今回の敗者復活戦にエントリーしたプレイヤーのほとんどがきりぼし大根が一度対戦したことある相手なの。そうすると自然と手の内がわからないのは?」
「対戦したことがない相手」
「そして、きりぼし大根目線で厳しく見積もったとしても決勝に上がってくるのはあなた。だったらあいつの性格上、どんな手を使っても偵察しようとしてくるはず」
「……」
「本当に誰にも見られてないって自信ある?空は?地面は?」
「そこまで!?」
「そこまでよ……。私もスト……偵察されたこと何回もあるから」
今ストーカーって言おうとしませんでした?
「まじか……いや、ほんとに気配とかはなかったから大丈夫だと思うけど……」
「そう、ならもう大丈夫と思うしかないわね……。あなたの知り合いを疑ってごめんなさい」
「い、いや、心配してくれてたんなら仕方がないと思う……俺も軽率だったわ、すまん」
俺が少し下を向いて反省しているとヤマトが背中と軽く叩いてくれた。いや、反省してますマジで。
「とりあえず、できる準備はしましょう。あいつ投げナイフとかそういうアイテムに対処できないときあるから」
「わかった」
はぁ……敗者復活戦大丈夫かな……。
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