第22話

 コーヒーを飲み終わった後、俺はまたあのタイツを着てゲーミングチェアに座った。自分でせこせこと準備していると桜が俺にVRゴーグル渡してくれた。

 「ありがとう」

 「段取り悪すぎるからイライラするだけ」

 「しょうがないやろ、慣れてないんだし」

 そう言ってゴーグルを着けていると桜の制服のブレザーが気になった。そもそも高校に行っていないのになんでこの人制服着てるんだ?

 「なぁ、一つ聞いていい?」

 「何?」

 ヘッドホンを渡してくれる。

 「高校行ってないならなんで制服着てるん?」

 「これ?あー、入学決まってたとこの制服。作ったけど入学しなかったけんね。結構高いし、勿体ないやん?」

 「あー……」

 「なんよ……」

 「てっきりそういう趣味なのかと」

 「違うから!!」

 そう言って桜はニューワールドの電源を入れた。ゴーグルは暗転し、ゲームが始まる。

 


 インフィニティにログインする。今回はギルド部屋から始めた。

 「あ、きた!」

 目の前のテーブルにはカレンが座っており手を振ってくる。その向かいには色黒の小麦粉さんが座っていて、こっちを振り返っていて「お疲れ様っすー」と挨拶してくれた。俺も「お疲れ様です」と言いながらテーブルに座る。ていうか、今からゲームするのになんでいつもお疲れ様ですなんだろこの人。

 「カケル今日は遅かったね?すぐインすると思ったのに」

 「試合までまだ時間あるし、ちょっと準備してた」 

 「あー、そかそか、夜だもんね!あ、ヤマトさんは?」

 「ヤマトはあとでドラグルズの広場で待ち合わせになってる」

 ヤマトは何かすることがあるらしく、もう少ししたらインすると言っていた。

 「カケルさんヤマトとほんとにフレンドになったんですね!」

 小麦粉さんが言ってくる。そういえば昨日は小麦粉さんいなかったっけ。

 「まぁそうなんですよ」

 俺はアハハ、と少し濁しておく。説明がめんどくさい。

 「それで、カケル、試合まではどうするの?」

 カレンが耳をぴょこぴょこみこぴょこぴょこさせて聞く。

 「とりあえず練習してみようと思う」

 小麦粉さんにユニーク武装の事を言うのはあとでいいだろう、だって、いろいろめんどくさいし。

 「あ、ユニ武装ね!昨日出せるようになったばっかだしね!」

 「え!?カケルさんユニ武装出せるようになったんすか!?」

 おい!あほ!

 「あ、そ、そうなんですよ、うふふ」

 「そうなんだよ!斧なの斧!バーン!って爆発する!」

 あ、すごい、めっちゃ言ってる。俺はもう満面の作り笑顔をして失言しないように見守るしかなかった。

 「マジすかー!じゃあ今日の敗者復活イケるんじゃないですか!?」

 「いやー、とりあえず昨日出せるようになったからいろいろと調べないとですね……」

 「わかりますわー。自分もやりましたよー!何かあるんじゃないかって研究を!!」

 小麦粉さんのユニーク武装は確か少し威力が高い普通の大剣でだった気がする。本来のユニーク武装はほんの少し性能が良かったりする程度なのが多いのだ。凄いユニーク武装には凄いデメリットが付く、ヤマトのクニツクリも俺を突き刺したとき、装備がボロボロだった。たぶんブースターのダメージが凄まじいのと、あの状態では狙いが付かないんではないだろうか?あんな速さのものを制御するなんて出来ないはずだ。まぁ速すぎて避けられなかったんだけど。

 「ですよねー。だからちょっと外で練習しようかなって」

 「それがいいっすよ!」

 なんか小麦粉さんがテンション上がってしまっている。まぁ今まで一緒にプレイしてきてユニーク武装出せなかったの知ってるから喜んでくれているのかもな。

 


 というわけで俺たちは無限界の手前の森に来た。なぜ手前かというと無限界に入ってしまえば、クエストや素材集めの為に来ているプレイヤーに見られる可能性があるからだ。そして、手前の森はモンスターが一応出るものの特に珍しくもなくて一番用がない場所。つまり人に見られる可能性が少ない。実際辺りを調べてみたが、誰もいなかった。

 「ここなら大丈夫だな」

 俺は右手を天に掲げた。

 その瞬間、晴天にも関わらず俺に落雷が直撃する。何かを掴んだ感覚。

 右手を見ると雷天黒斧を握っていた。

 「うおー!マジでユニ武装だ!」

 小麦粉さんは飛び跳ねて喜んでくれる。

 「出てくる時派手だよね……」

 カレンは耳を塞ぎながら言った。あ、ちゃんとケモ耳の方塞いでる、可愛い。

 「まぁなー。ヤマトのはコーンって音だもんな」

 ほんとにそんな音がする。

 「それでカケルどうするの?」

 「とりあえずここら辺に出てくるモンスターを倒して使い勝手とかリロードの時間とか調べてみる」

 「カケルさんそれリロード式なんすか?」

 「そう、ここを押すと爆発する」

 「ほー!すげぇ!ヤバいっすね……」

 小麦粉さんが腕を組んでしみじみと言う。

 そんなこんなしていると目の前にウサギっぽい獣人が現れた。森ではよく出現するモンスターだ。とりあえず俺を見つけて襲い掛かってきたので、雷天黒斧で攻撃してみた。

 「よいしょ!」

 本当に軽い、ただ斬りつけるだけなら片手で十分だ。獣人は、げけぇとか汚い悲鳴を浴びて倒れる。ふむふむ。なるほどね?周囲を見ると同じような獣人がいるので石を投げて俺を狙わせる。次は爆発させてみよう。

 雷天黒斧を両手に持って静かに待つ。獣人が目の前に来た瞬間にトリガーを引く。

 爆発。

 獣人は粉々になって消えた。

 「カケルえぐ……」

 「うるさいな!俺もちょっと思ったよ!」

 「カケルさんそれすっごいっすね!かっこいいしマジうらやましいわ……それだけ強かったらデメリットも相当ヤバいんじゃないんですか?」

 小麦粉さんもそこが気になるようだ。

 「それがですね」

 俺がそう言うと排熱がなされて煙が当たり俺にダメージが入る。

 「これなんですよ」

 「あー、でもミリダメっぽいですね?あとはリロードが長いとか?」

 俺らはトリガーが復活するまで待ってみた。しばらくするとガチャリという音が鳴ってリロードがなされたようだ。タイマーを見てみると三分だった。

 「確か昨日はもっと早めにリロードされたような……」

 俺がそう言うとカレンが指をピンと立てた。

 「速射スキルか、リロ速スキルじゃない!?」

 「おー!それだわ!」

 次は速射を発動させて爆発させると、二分でリロードされた。

 「おーこれだわ……さすが!」

 褒めると「えへへー」とカレンは嬉しそうに笑った。

 銃用スキルかと思っていたが、ここで役に立つとは思ってもみなかった。

 

 

 いろいろと獣人を倒しながら試していると、結構な時間が過ぎた。

 「っと、そろそろヤマトも広場で待ってるかもしれんし、そろそろ戻るか!」

 「そうっすね」

 「そうだねー!」

 雷天黒斧の事もだいぶわかってきたし……と思っていると獣人がまた襲ってきた。

 「あー、めんど!」

 正直、たいした経験値にもならないから練習じゃなかったらこんな奴相手にしない。軽く斧で斬りつけると一瞬で真っ二つになって消えた。

 「ふう……。ん?スキル獲得?カンストしてるのに?」

 よく見るとスキル獲得通知が来ていた。

 「あ、カケルさん今まで銃ばっかり使ってたから、今ので剣士のレベルが上がって専用スキル獲得したんですよ」

 ほーん。なるほどね?斧だから剣士扱いになってたのか、でも速射は銃専用スキルだよな?ガバガバね!スキルを確認する。

 「三秒だけ属性攻撃力をほんの少しあげる……。いらねー!」

 このゲームのほんの少しは本当にほんの少し!しかも三秒!重ね掛けもできないじゃん

 「まぁ最初のはそんなもんですよ。カンストまで行くと両手剣の攻撃力を五分間特大アップとかですからね。頑張りましょう」

 小麦粉さんは笑って言う。

 「地道に剣士もレベルアップしてヤマトさんに勝てるようになろ!さ、帰ろ帰ろー!」

 カレンはそう言って腕に巻き付いてくる。そういえば感覚があるので軽率にスキンシップはやめてください。

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る