第20話

 翌日、学校に登校する。

 昨日は桜との通話の後、当たる可能性がありそうなプレイヤーときりぼし大根の動画を観ていた。たしかに、きりぼし大根の動画を観ても無駄に長いだけで何が起こっているのかわからなかった。

 基本的にきりぼし大根の攻撃は遠距離、中距離が多い。建物など障害物がある戦闘だとスナイパーライフルや、ロケットランチャーなどを使っていた。今回の青王杯のような闘技場だとガトリングや相手を毒などのステータス異常にさせて死ぬまで耐えきる様な戦法をとるようだ。桜からの説明がないまま観ていたら訳がわからなかっただろう。しかし、観ていてわかったのはユニーク武装の性能を除いても相当の実力があるという事だ。こんなに狡猾な戦い方をするのなら、ヤマトのような一撃必殺のプレイヤーとは性格も実際の相性も悪いだろう。だが、ヤマトはそれだけじゃなくてもきりぼし大根を嫌っているような節があったな。

 あと、参考になるかと思って、昨日のきりぼし大根と元赤王テラの戦闘を観てみたのだが、これはこれで参考にならなかった。テラは両手剣に色々な属性を宿らせてとんでもない速さで斬りつけていた。たぶん斬属性ダメージは無効化していたが、各属性のミリダメを高速で叩きこまれたせいで対処できずに倒されたんだ。このテラって人のユニーク武装はこの両手剣らしいけど、ネットで調べる限り、いろんな属性を宿らせることが出来るとはどこにも書いていない。

 結局、俺が打てる手は雷天黒斧を初見で出して五分以内に倒すだけってことか。

 「わっ!」

 席に着いて色々考えていると両肩を後ろから叩かれた。結構びっくりしたぁー。こんなことをするのはリリしかいない。

 「昨日はお疲れ!凄かったね」

 リリはそう言いながら俺の前に回ってきた。相変わらずの巨乳で顔よりもまずそっちに目が行ってから顔を見る。

 「あーお疲れ、なんか付き合わせた感じになってごめんな」

 「えっ!?いいよいいよ!ヤマトさんとも知り合いになれたし!ちょっと怖い感じだったけど、話したら普通だったし」

 「普通だったか?」

 「なんか結構翔ちゃんにはきつかったけど戦ってるときは楽しそうだったよ?」

 「あー、あいつバトルジャンキーっぽかったもんなぁ。戦いだすと口調も変わるし」

 「翔ちゃんもだよ」

 リリはなぜか楽しそうに微笑んで言う。

 「いや、俺は口調変わらんぞ」

 「違う違う~」

 ん?じゃあバトルジャンキーの方か?

 俺がよくわからないような感じを出しているとリリは続けた。

 「楽しそうだった」

 俺が?という意味で自分を指さすと、リリは「うん」と返事をした。

 そうだったか?串刺しにされた印象しかない。あれはヤバかった。生きてあの体験したのって俺だけなのでは?

 「そういえば、あの後どうしたの?」

 「え?」

 あの後と聞かれると桜の裸がフラッシュバックしてしまった。くそ!脳内ハードディスクはたまに自動再生しやがる!

 「翔ちゃん顔赤くない?大丈夫?」

 リリは遠慮なく俺の額に手を当てる。少しひんやりしてて気持ちよかったが顔赤いのは桜の裸のせいだから!言えないけどぉ!

 「なんもないわ!大丈夫だからやめれ、恥ずかしい」

 リリの手を退かせる。

 「心配してやったのにーい!」

 リリは頬を膨らませた。可愛いけどだめ!

 「今日敗者復活なんだから熱で倒れちゃダメだよ!」

 「わーかってるって」

 


 全ての授業が終わる。

 今日はずっとイメトレをしていたせいで授業に集中できなかった。接近戦のイメージがほんとに掴めない。他のゲームでは割と近距離武器を使っていたのだが、インフィニティは今までのあれがあったのでどうしたらいいのかまるでわからん。

 昨日のヤマトとの戦いだって、ヤマトの見様見真似だ。棍棒と斧の戦い方は違う。斧使いの動画を漁っては観たものの、みんな意外と重そうに取り回していて、参考にならない。昨日雷天黒斧を持った感じ、それほどの重さを感じなかった。

 「うーん……」

 「どしたの?帰らないの?」

 俺が考えながら座っていると、リリが来た。カバンを両手で前に持っているせいですごくこう、むぎゅってしてます……。

 「あ、帰る帰る」

 とりあえず家に帰ろう、敗者復活戦まではまだ時間あるし、実際に出して動いてみよう。俺は席を立った。

 リリと二人で教室を出る。

 「もしかして翔ちゃん緊張してる?」

 「ん?うーんどうかな、本選でヤマトと戦う前の方が緊張したかなぁ……」

 「え、そうなんだ?」

 「相手がヤマトなせいで観客が凄かっただろ?」

 「確かにすごかった!そっかぁ、それだったら今日のはそんなに緊張しないかもね!テレビ放送もないし」

 「そういうこと」

 「ヤマトさんにニューワールドも貸してもらってるんだし余裕だね!」

 「だな」

 昇降口で靴を履き替える。

 「んじゃ、またあとで!応援してるね、翔ちゃん!」

 リリは歯をにかっとさせて言った。だいぶ落ちてきた陽がちょうどリリの亜麻色の髪を照らしてなんとも美しい色に輝かせていた。能天気に話してくれたおかげもあってかだいぶ気が楽になった。俺は一息ついて言った。

 「ありがと、また後でな」

 

 

 

 

 

 


 

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