第19話

 その日は夜も遅くなったことだし、今後の打ち合わせを簡単にして帰ることとなった。玄関は自動ロックらしく、桜はエレベーターから俺が出ていくのを見送った。それ、見送り方としてはどうなんですかね……。

 「じゃ、また明日」

 俺がそう言うと「おやすみ、気をつけて」と手を振ってくれた。その姿だけ見ればとてもとても王様とは思えないただの女の子だった。

 家を出ると手配してくれていたタクシーがちょうどやってきた。それに乗って家に帰る。半信半疑だったが、タクシーのおじさんにチケットを渡すと受け取ってくれた。すごい!魔法のチケットや!!!

 タクシーを降りて家に帰る。まださっきのごたごたから何時間しか経っていないのか……。なんかもう三日くらい経った気がする。

 「ただいま」

 すると母が慌ててリビングから出てくる。

 「おかえり!!」

 母はすんごくにやにやしている。あー、ですよね。そうなっちゃいますよね。ていうか遅く帰ったことについては何も言わんのかい。いつも家に帰ってすぐにゲームするからあんまりこんな事ないんだけど……。もしかしてあまり俺に興味がない!?辛い!

 「六本松ちゃん?あの子なんだったの?あんたに気があったの?どこ行ったの?デート?下の名前何だった?」

 「いきなり大量に質問せんでくれ!」

 「えー、お母さん気になるぅ~。かわいい女の子好きぃ~」

 なんだこの女は!そういえば俺が小さいころ女の子の格好をさせてたって言ってたな。

 「とりあえず、名前は桜だった」

 「へぇ~桜ちゃんかぁ~また来るの?」

 「さぁー。来ないんじゃないの?」

 「え~連れてきてよぉ~」

 「気が向いたらね!」

 俺はそう言って階段を昇った。

 「ご飯はぁ?」

 「いる!」

 自室に入ると桜に荒らされたままになっていた。正確に言うと俺がPC取り上げたりして配線がぐちゃぐちゃになっただけだが。

 それを片付けていると、ポケットに入れてた俺のスマホの通知音が鳴った。取り出して見てみるとSNSの通知だった、開いてみると。

 ヤマトさん(公式マーク付き)にフォローされました。

 「ひぇ」

 思わず声が出てしまった。怖い!なんでわかったの!?俺フォローしてないし!IDとか晒してないよ!?そりゃクエスト中のスクショ的なもんはたまに晒してたけどさ……。また知り合いかなんかに辿らせたのか……?

 そしてダイレクトメッセージが送られてくる。

 「連絡先交換するの忘れてたから、これね」

 そう言って通話アプリのIDと電話番号が送られてきた。早速、通話アプリにIDを入力すると名前がYSとなっていた。意外とシンプルだな。申請を送る。

 するといきなり通話がかかってくる。あー!もう!ほんと自分のペースで行動するな!この王は!!!

 「はい!?」

 俺はちょっとイラっとしたので少し強めの言い方で通話に出た。

 「……」

 向こうは何も言わない。え?住所特定からアカウント特定の無言電話!?やっぱり犯罪なのでは!?

 「あの、もしもしぃ!?」

 「今、ダメだった……?」

 聞こえた声は思いもよらない弱弱しい声だった。いや、しおらしい?さっきまで話していた声と違う。誰?この人。

 「いや、ダメじゃない……けど。いきなりだったから」

 「そう……ごめん」

 えー!何これ!誰これ!

 「どうしたん?」

 俺が聞くと少し間が置かれた、息をしている音だけが聞こえる。

 「とりあえず、明日のきりぼし大根の事耳に入れておこうと思って」

 あ、声に少し調子戻ってきた。

 「あー、現白王か、あとで動画でも観ようかと思ってた」

 「たぶん動画を観てもわからんと思う」

 「なんで」

 「あなた、すぐなんでって聞くよね。面倒だから黙って話聞かない?」

 あ、王様お帰りなさい。

 「はいはい、お聞きします」

 「きりぼし大根のユニーク武装は、防具【オクトアダマン】あらゆるダメージを無効化できるクソチート武装」

 おっと、お口が悪いぞ。なんか相当な恨みがありそうだ。

 「え、でもそんな強そうな武装持ってんのに敗者復活戦に?」

 「初戦の相手がテラだったみたいで完全に対応されたみたい」

 「テラ?」

 「あなたほんとにインフィニティやってる?元赤王!」

 「元赤王か……いや、名前は知らんかった。元赤王とか白王が出てるのはチラっと見たんだけどね。名前は見てなかった」

 「これはテラの事もいずれ教えないといかんね……」

 苦労かけますね……。

 「とりあえずきりぼし大根のオクトアダマンは性能自体はほんとに頭おかしい、ダメージをするんだから……。でもね、その無効化には展開してから五分かかるの」

 「五分」

 「そう、相手の攻撃属性を確認してから設定して五分。でもユニーク武装の展開は戦闘前からできるから」

 「事前に武器を知られると戦闘開始から対応されて詰む」

 「そういうこと」

 だから桜はユニーク武装を見せない方がいいと言ったのか。

 「しかも、展開している限り無効化は続くし、五分かかるけど追加可能」

 「無茶苦茶だ……。あ、てことは、戦闘前から展開しておいてコツコツと攻撃属性を追加してたら全部の攻撃に対応できるんじゃ……」

 「あー、それはできない。あの防具、デメリットは無効化開始までの時間と、防具を展開する限界時間があるみたい。しかも無効化属性を追加するごとにその時間は短くなっていく。一個の無効化なら相当な時間展開できるみたいだけど、何個も重なってくると防具の限界時間が短くなっていつか消えてしまう」

 「なるほど……」

 「だから明日は雷天黒斧は見せちゃダメ。もし、きりぼし大根と当たったら雷天黒斧で五分以内で決めて。爆発攻撃は相手も予想してないはずだから」

 「わかった……ありがとう」

 「勝ってもらわないと困るからね私も」

 桜は優しく言った。急にしおらしくなったり、王だったり、何なんだこの子は……ギャップは結構クるもんがあるんやで!!

 「あ、そうだ、あんたはきりぼし大根に勝ったことあるのか?」

 「……」

 あれ?無言?何か変なこと言いました?

 「もしもし?」

 「……二回あるわよ。最初戦った時は普通に叩き潰して、二回目は焼き殺した」

 「こわ……」

 叩き潰すでもアレなのに……。焼き殺した……。

 「さ、参考にしとく」

 「あとさ……」

 「え?」

 「桜だから」

 「は?」

 「名前で呼べ!」

 桜はそう言うと通話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る