第6話

 学校から自宅までは自転車で十分くらいの距離だ。適当にコンビニでエナジー飲料を買ってから帰る。この四つ角を左に曲がると俺の家が見える。すると家の手前のご近所さんの塀に女の子が寄りかかってスマホをいじっていた。まぁ別に何も変なことではないが、この家の子供は成人してたはずだ。親戚か誰かかな?家に帰るとなると俺は必然とその子の前を通ることになる。

 女の子は黒髪が綺麗なロングでパッツン前髪、制服っぽい服を着ているようだが、近所の高校ではないっぽい。歳は……俺と同じくらいだろうか?そして、何より可愛い……。胸は……。

 「のわぁ!」

 女の子を通過した後も見続けてしまったせいで家のそばの電柱にぶつかった。派手な音をさせて自転車を倒してしまった。咄嗟に後ろを振り返る。

 「……」

 黒髪の女の子はそんな事なかったかのようにスマホをいじっていた。耳には最初は分からなかったが、小さなイヤホンが着いていた。

 「はぁ……」

 何やってんだ俺は……女子に飢えた中学生か……。中学の時は帰り道に同じクラスの女子がいただけで走り回ってたよなぁ……。と情けなくなりながら自宅の車庫に自転車を入れて、家に入る。

 「ただいまー」

 誰となしに言うと奥で母が「おかえりー」と応えてくれた。母と父は共稼ぎだが、母は基本在宅勤務だ。手を洗って、うがいを済ませると俺は二階へ。何か用事があれば母は二階へ上がる前に言ってくるが、何もなさそうだ。

 二階へ上がると先程買ったエナジードリンクを二階用の小さな冷蔵庫に入れて、自室へ。制服のままとりあえずノートPCを立ち上げる。

 上着を脱ぐと、家のインターホンが鳴った。

 ん?珍しいなこんな時間に……通販はしてないし、していたとしてもだいたい午前中に荷物は受け取っているはず。どうやら音から察するに母が出たようだ。

 そしていつものようにデスクに座る。

 「翔ちゃん?翔?」

 母の呼ぶ声がした。あれ?俺の荷物か、何か頼んでたっけ。「はいはいなんでございますかねぇ」と独り言を言いながら自室を出て階段を降りる。すると母がリビングのドアを少し開けて顔を出していた。

 「ねぇねぇ、あんた六本松さんって女の子知ってる?」

 なんか小声で母が聞いてくる。女子だからか?気を遣っている?その気遣いが恥ずかしいぞ母よ!でもそんな女子は知らない、リリは安藤だし。

 「いや、知らないけど……」

 「あんたに会いに来たみたいなのよ……『筑紫翔ちくししょうさんはご在宅ですか?』って」

 「えぇ……誰……」

 思わず俺も小声になる。

 「とりあえず顔見て」

 言われるがままリビングにあるカメラ付きインターホンを見る。

 その時、俺の心臓が跳ねた。

 「さっきの……」

 カメラに映っていたのはさっきのあの黒髪の女の子だったのだ。カメラでアップ気味に映った顔は本当に可愛くて実は人形なのではないかと思うほど綺麗だった。

 「あんた出なさいよ!あんなかわいい子知り合いじゃなくてもいいじゃない!」

 母は小声で俺を急かす。何を言っているんだこの女は……。知らない奴を家に入れられる訳ねぇだろ!

 「えぇ……」

 「ちょっと待ってね!翔が出るから!」

 母は勝手に言う。

 「えぇ~」

 「いいから!」

 インターホンの向こうの六本松とか言う女の子も「はい」と返事をした。

 ちっ!俺は心の中で三回くらい舌打ちをして玄関へ向かった。

 ドアのガラス部分には人影が見えていた。鍵は掛かっていないが勝手に開けたりはしないだけまだ常識があるらしい。

 ドアを開ける。するとそこにはたしかに先程の女の子が立っていた。近くで見ると人形感は薄れるが、大きな瞳には何か吸い込まれるような力があった。

 「……」

 六本松とやらが何か言うのを待っていたのだがその兆候は見られない。

 「何でしょうか……」

 「あなたが、?」

 !!!

 俺はドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る