第5話

 翌日、学校に登校すると、席に座るなり女子が話しかけてきた。

 「おはよう!」

 「おはよう……」

 「昨日はエントリーちゃんとした!?」

 「したした。対戦相手は今日の本選が終わり次第連絡が来るってさ」

 俺は授業用のタブレットを準備しつつ答えていると、視界に巨乳の一端が目に入る。上を見ると軽いメイクをした目鼻立ちくっきりの女子が立っていた。亜麻色の髪からはシャンプーの匂いがほのかに香る……。人と話す時の距離が近いんだよなぁ、この子は……。名前は安藤リリ、本当は莉莉依りりぃらしいけども軽いキラキラネームなのでリリと呼んで欲しいらしい。あまり変わらない気もするが……。ちなみにリリがカレンの中の人だ。巨乳なのがコンプレックスでアバターは見事なまでのフラットボディでちっぱいだ。なんでも初めてインフィニティをプレイした時、足元を見られることに感動して泣いてしまったらしい。

 「楽しみやね!」

 「そうかぁ?」

 「だって、優勝賞金三千万よ!?準優勝だと五十万だけど、どっちにしろ大金やん!あたしが勧めたんやからお礼に何か奢ってもらわんとね!」

 「それ目的かよ」

 「そう!だってしょうちゃん絶対強いと思ったもん!これは行ける!勝てる!って見込んだから勧めたの!実際予選は圧勝だったじゃん」

 「まぁ……ね」

 確かにリリに勧められて面白いように楽勝で勝ってきたからあながち間違いではない。しかし、昨日でそれは終わった。負けの原因を突き止めてしっかり対策しないと……。敗者復活戦も一度負けた奴らといっても俺みたいにいきなりバケモノみたいな奴と当たって負けてしまった強者もいるんだから。

 「今日はインしたら寝るまでクエストやね!翔ちゃんのスキル上げか武器を取りに行く?」

 「復活戦までに強い武器とか取れるかな……」

 今持っているテンペストイーグルを超える武器となると長期イベントか、高難易度モンスターを何回も狩って作るしかなくなる。俺もリリも小麦粉さんもなかなかまぁまぁやり込んでいるので比較的楽に倒せるとはいえ、骨が折れそうだ。

 「復活戦はテンペストでいいでしょ、翔ちゃんなら大丈夫だよ」

 リリはきょとんとして当たり前のように言った。何言ってんだこの巨乳は。

 「いや、昨日調べたけど元赤王とか現白王とか出てるし、負けて敗者復活に来るかもしれないでしょ」

 この青王杯はシーズン最初のタイトル戦で、他にも赤王せきおう杯、白王はくおう杯、黒王こくおう杯がある。そして、そのシーズン最後に行われ、各大会の上位三人が参加できる無限王杯。つまり、無限王杯に出たいのなら最初の青王せいおう杯で上位三人に入ってしまえばいいのだ。だから青王杯はヤマトたちのようなとんでもない奴らが絶対参加してくる。

 「うーん。その時はその時で!まさかまたヤマトみたいなヤバい奴に当たるわけないやろ~」

 おい、フラグみたいなこと言うのやめろ。回収しちゃったらどうするんだ。

 「……ま、そうやな……明日までに武器作るとか無理あるし。スキル上げるのが賢明だろうなぁ、それで復活戦勝ち抜けたら空いてる時間に武器作りか」

 「んじゃそうしよー!」

 リリは自分で「おーっ」と拳を上げた。その弾みでスカートが揺れて生足が見えたが、やはりリアルの生足はいいな。

 

 

 全ての授業が終わり、俺は帰る準備をする。準備といってもタブレットとジャージくらいなのでカバンに突っ込むだけだが。今日は俺が青王杯出たのを知った奴らに色々といじられる日だった。特に聞かれたのはヤマトの事だ、面倒なので話してないという事にしたかったが、控室で俺とヤマトが軽く言い合いをしていたのがネットで噂になっていたようでごまかすのが大変だった。やっぱりあいつ有名人なんだなぁ……。

 溜息を吐きながらカバンをひっ掴むと巨乳……じゃなかったリリが笑顔で話しかけてきた。

 「翔ちゃん!今日まっすぐ帰る?」

 「ん?おう、なんかあった?」

 リリは電車通学、俺は自転車なので一緒に帰ることはない。

 「ううん!すぐインして一緒にやれるかな?って思っただけ!」

 リリは歯を見せて笑い、おまけに首を傾げた。あざとい!こんなの続けられたら好きになっちゃう!!まぁ一年くらい続けられてますけど。

 「帰って飯食って風呂入ったらソッコーインするわ」

 「うん!じゃあ、またあとで!」

 リリは昨日も見たような手の振り方で教室を出る俺を見送った。

 

 

 

 

 

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